見出し画像

社会規範 → 市場規範 → ! - 後戻りできない変遷

ダン・アリエリー氏が語ったこの言葉が、とても印象に残っています。

社会規範は一度でも市場規範に負けると、まず戻ってこない。

『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー

これを説明するのに有名な事例があります。とある保育園では、お迎えの時間になっても来ない親が絶えませんでした。そこで、この問題を解決するために、あるアイデアを採用することにしました。遅刻に対して罰金を課すことにしたのです!保育園側はこれで遅刻者が「減るだろう」と予測していました。ところが、意に反してお迎えに遅れる親は増えたと言います。それどころか、いままでは申し訳なさそうに「ごめんなさい」と言いながら駆けつけていた親も、罰金を払うんだから「当然でしょ」という態度に変わり、事態は返って悪化したのだそうです。

これをダン・アリエリーの言葉にするなら、これまで善意によるモデル(社会規範)で成り立っていた関係が、利害を軸にしたお金のモデル(市場規範)に変わった、ということになります。ルールを守れなかった親は、これまで保育園側の「善意」に対して罪悪感を感じていたのが、お金という対価を払うことで「利害」に変わり罪悪感から解放されたのです。

印象深いのはその後の話です。この保育園では期待した成果が得られなかったので、この罰金制度をすぐに撤廃することを決めました。ところが、ここでも意に反したことが起こります。悪びれることもなく遅刻する親はその後減ることはなかったそうです。つまり、一度でもお金のモデルに変わってしまった関係性を修復するのは難しいということです。

社会規範は一度でも市場規範に負けると、まず戻ってこない。

詳細は忘れてしまったのですが、これをダン・アリエリー氏は男女関係で説明してたのがまた興味深かった。いい雰囲気の男女がいて、その一方から「お金払うからホテル行こうよ」と言ってきたらどうでしょう?いい関係(社会規範)からお金の関係(市場規範)への移行を提案されているわけですw 想像してみてください。この移行は一瞬で起こります。お互いの利害が一致すればホテルに行くだろうし、そうでなければ(おそらく大抵の場合)一発ビンタされて破局して終わるでしょう。問題はこの関係性が修復できるか?という点です。ご自身の感情に照らして考えてみてください。どうでしょう?一度でもお金の関係に移行してしまった場合、それを感情や人情や道徳規範など心の関係性に戻すということはとても難しい。多くの場合ほぼ不可能なのです。

心の関係 お金の関係(一瞬で可能)
心の関係 お金の関係(ほぼ不可能)

つまり、社会規範から市場規範への遷移は不可逆(後戻りできない)の関係性にあるということです。当たり前のようでいて、意外とわたしたちはこの事実を無視しているかもしれません。

現代の市場ではおおよそすべての事物を細分化し、利便性に対して値付けをします。その対価をもらうことで成り立っています。泥臭い人情をスマートに市場価値に変換することが高度に発展した社会人の振る舞いとしてむしろ美化されているようにも見えます。これは言い方を変えれば、社会規範から市場規範に次々と乗り換えてきたプロセスということができるように思うのです。

繰り返しますが、心に留めておいてほしいのは、この変換は不可逆だということです。

りなる



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?