こんにちは! Licht-リヒト-です!
今回のテーマは「ホラーでヤンデレ幽霊の泣ける話」です!

「涙」
 僕は……死んでしまった。こんな呆気なく死ぬなんて、人間の身体は脆いものだ。僕は普通に生きてた、ごく普通に。誰にも恨まれる事してないし、恨まれる覚えもない。
「無差別か……」
 そう、僕は無差別殺人に巻き込まれ死んだ。そして成仏出来ずに、幽霊となり現世を彷徨っている。特に未練がある訳でもない。それなのに、なぜ僕はここにいる?
「まぁ良いか……」
 いや、絶対良くないだろうけど!? とりあえず自由に動けるし、移動してみよ。どこ行こっかなぁ。
「僕の家行こ」
  行きたい所が特に無かったので、僕は自分の家に行く事にした。
「な、なんだこれっ!?」
 僕は自分の家に着いて驚きを隠せなかった。だって、別の人が住んでるんだもん。驚くでしょ。僕の居場所、なくなっちゃったか……。僕が出て行こうとした時、声がした。
「誰?」
 女の子の声だ。え、まさか僕の姿が見えるっていうのか?
「ただいま、美桜」
 目の前の扉から男性が現れた。きっと女の子の父親だろう。そうか、この子は僕じゃなくて父親の気配を感じていたのか。
「おかえりなさい、お父さん」
 どうせ僕の姿は見えないんだ。しばらくはこの家にいよう。
「あ……」
 そして気づいた事がある。美桜と言う子は目が見えないという事、母親はすでに死別している事、父親が美桜に母親の面影を重ねている事に。
「大変なんだなぁ……」
 美桜はいつも一人だ、学校にも通っておらず父親が不在時はずっと家に一人ぼっち。見たところ彼女は16歳ぐらいだろう。多少の知識は身についているが、盲目の為に料理なども出来ない。日常生活もままならない彼女を置いて父親は平気なのだろうか。
「誰かいるの?」
 そう美桜は問いかけた。あぁ、また父親の気配を感じたかな。
「あなたは誰?」
 時刻は昼過ぎ。美桜の顔は僕の方を向いている。……目を瞑っているけれど整った顔立ちで彼女の死んだ母親と瓜二つだ。なんて、のんきに考えてる場合じゃない。え、待って、僕を見てる? え、何この子?
「僕が分かる?」
 聞こえはしない。そう思い僕は美桜に話しかけた。
「うん」
 確かに、彼女はそう答えた。
「僕の声が聞こえるの?」
「うん、聞こえるよ」
 驚いた、この子は霊感が強いのだろうか。
「そこにいるの?」
 彼女が僕に手を伸ばした。僕も手を伸ばして彼女に触れようとする。だけど……。
「あ……」
 実体を持たない僕の身体を彼女の手はスッと通り抜けた。
「冷たい」
「僕はもう死んでるんだ。だから僕には触れられないよ」
 自分でも驚くほどに、優しい声でそう言った僕。
「じゃあ幽霊なの?」
「そうなるね」
 分かってはいたけれど、突き付けられた真実に僕は胸が苦しくなった。
「泣いてるの?」
「え……?」
 彼女に言われて僕は。自分が泣いていることに気づいた。何で泣いてるんだろ……。惨めだな……。
「どうして分かるの? 君は目が、見えないのに……」
 あまり触れたくなかった話題、彼女も触れてほしくなかった話題だろう。ほんと、僕ってこういう所で気が利かない。
「なんとなく分かるの。目が見えない分、他の神経が敏感になってるのかもしれない」
 彼女の説明は僕の心にすんなりと入って来た。
「なるほどね」
「あなたの名前は?」
 僕の名前……。あれ? 僕の名前ってなんだっけ?
「ごめん、名前が思い出せないんだ」
「謝らないで良いよ。私の名前は美桜」
「うん、知ってる」
 僕がそう言うと美桜は優しく笑った。
「きっとあなたは優しい人なんだね。怖くないもん。それにね、お母さんが言ってたの。涙を流すのは生きている証拠だって、だから私はあなたを決して怖がったり軽蔑したりしない」
 美桜の言葉を聞いて僕の目からは涙が止めどなく溢れた。こんなに泣いた事ないのに……。
「ありがとう、美桜」
「うん。あ、あなたの名前なんだけど涙ルイはどうかな?」
「涙?」
「そう。涙を流しているから涙」
 屈託のない笑顔でそういうから僕も嬉しくなった。名前を思い出せない僕に美桜は涙と言う名前をくれた。それだけの事が僕にとってはすごく嬉しかったんだ。
「ありがとう」
「ちょっと照れるよ」
 そう言って頬を赤く染める美桜。その姿を見て心が温かくなるのを感じる。なんだろ、この気持ちは。愛おしさ?なのかな……。

 美桜と出会って3か月の時が経った。彼女は僕の存在を誰にも言わずにいてくれてる。その優しさがとてつもなく嬉しかった。そして僕は美桜を次第に愛するようになっていた。
「美桜、聞いても良い?」
 日が沈み、暗くなってきた時に僕はそう聞いた。
「何?」
「君の目はもう見えないの?」
 僕の言葉で美桜の身体が少し震えるのが分かった。
「うーん、どうだろう。私の目が見えなくなったのは、精神的なものなの」
「え?」
 僕はずっと彼女の目が見えないのは病気か事故によるものだと思っていた。だけどそれは僕の思い込みだったらしい。
「一年前、私の目の前でお母さんとお兄ちゃんが死んだの」

――ズキッ

 一瞬、頭痛が走った。死んでるのに痛みを感じるなんて変だ。
「買い物に行ったときに、無差別殺人に巻き込まれて……。お兄ちゃんは私を守ってくれた、庇ってくれた。でも、死んじゃった」

――ズキン

 まただ。どうして? どうして頭が痛くなる? あれ、そういえば僕。何で記憶がないんだ……?
「その時のショックで私は目が見えなくなったの」
「そう、だったんだね」
「まだ、思い出せない?」
 彼女の震える声。酷くなる頭痛。そして断片的に浮かび上がる景色。

『やめてっ!!』
 ナイフを振り回す男にそう叫ぶ女性。
『お母さんっ!!!』
 腹を抑え、倒れる女性。それを眺める蒼白の少女。あれは、美桜……?
『危ない、美桜!』
 僕が美桜を抱き締める、そして訪れる背中への痛み。
『おにい、ちゃん……?いや、いやあああああああああっ!!』
 泣き叫ぶ美桜。ああ、そうか。全部思い出したぞ、あの日の事を。あの日、母さんと美桜と買い物をした帰り道。突如現れた無差別殺人鬼によって母さんは殺された。そして妹である美桜が殺されそうになった時、僕はあいつを庇った。そして……死んだ。

「美桜? お前は僕の妹なんだな」
 全部思い出した。僕が何者なのか全てを……。
「そう、会った時から分かってたよ。声ですぐに分かったの」
「ごめん。僕のせいでお前が……」
「気にしないでよ、お兄ちゃん」
 そう言って微笑む美桜。美桜がつけてくれた名前も僕の名前だ。美桜はずっと僕の記憶を取り戻そうとしてくれていたんだ。
「これでお兄ちゃんは成仏しちゃうの?」
 不安そうな声音の美桜。
「いいや。まだ僕は消えないよ、全部思い出したから。僕が成仏できなかったのはずっと記憶がないからだって思ってた。でもね、違うよ」
 思い出した。あまり思い出したくなかった事。僕は実の妹を愛していた、男として。思い出してしまったからには、もう後戻りは出来ない。
「美桜、これからもずっと一緒だよ」
 僕の気持ちなんて知らないであろう美桜はゆっくりと微笑んだ。-fin-

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