或る記録.3

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----例の上司に不妊治療を始めると話したとき、
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「そういうのって神様が、『この人、困ってるな』と
　思って、そっと空から赤ちゃんを運んでくれるんで
　すって。」
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そんな話をされた。
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…じゃぁ私は困ってないってこと？
こんなに困っているのに。
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励まそうとしてくれたんだな、
ってことくらいは、なんとなく分かる。
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ただ、この言葉をどう飲み込んだらよかったのか、
今になっても、よく分からないままだ----
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----卵管造影当日。
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卵管造影とは、精子と卵子が出会う通路、
卵管の通過性を調べる検査である。
簡単に言えば、卵管に造影剤を入れて、
その広がりに異常がないか検査をする。
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あまりよくはない、と思っても、
私はネット検索をやめられなかった。
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痛みはあるのか、仕事は休んだほうがいいのか、
万が一、検査結果が悪かったらどうなるのか。
自分の心の中の不安の現れだった。
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結局、丸一日休みを取って検査に行くことに。
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とんとんと準備は進み、
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「はい、造影剤入れますね」
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細いチューブから造影剤が入れられているようだ、
…と思った瞬間、
じわぁぁっとした、生理痛のような痛みが下腹部に広がる。
それが少しずつ少しずつ強くなる。
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…痛い。でも、耐えるしかないのだ。
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ベッドに寝かされながら、
「うん、異常はないよ」と。
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他の初期検査も全て何の異常もなかった。
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「あなたはタイミング療法でいいと思う」と先生。
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「これからは生理が始まって
　2週間後くらいに診察に来て。
　排卵日を診るから。」
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重い生理のときのような下腹部の痛みは、
病院を出たあとも続いており、
少し猫背になりながらも、お腹に響かないように
一歩ずつ確実に進んで、電車に乗り、帰宅した。
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私も夫も何も問題はなかった。
そっか、タイミングの問題だったんだ、と
家のソファに横になりながら、胸を撫で下ろした。
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これからは先生に排卵日も診てもらえるし、
きっと大丈夫。
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それから数日後だった。
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夫の単身赴任が正式に決まったのは。