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令和6年行政書士記述式民法問45

 令和6年民法記述式問45について、試験委員の出題意図や難しさの原因について掘り下げて解説したいと思います。YOUTUBE動画と同一内容です。
YOUTUBE動画は以下のURL
https://youtu.be/HkkU8YOlWT8

1 民法記述問45は、実は基本を問う問題

Aが甲についていかなる権利を使って代金債権の回収をするかが問われた

  担保物権全体の基本的な共通項として学習する「担保物権の種類(約定と法定2個ずつ)」と「優先弁済的効力」が問われていると気づけた人にとっては、その2点を書けばよいということで落ち着く問題ですが、一方で一般債権者としての債権回収方法が問われているとか、先取特権特有のマニアックな知識が問われていると思い込んでしまった人は半分あきらめモードで解答した方もいるかもしれません。
 民法記述式問45では、買主Bが代金債務について債務不履行になっており、かつ、AがBに売却したコーヒー豆(甲)が、転売されていないため(民法333条)、売主Aが買主Bのコーヒー豆について「動産売買の先取特権」を行使できる事例になっています。「動産売買の先取特権」も担保物権ですから、担保物権の最初に基礎として学習する「担保物権の優先弁済的効力」について説明することが要求されていると読み取れればある程度書ける問題ですが、そこまで頭がまわらないと何を書いたらよいのか悩んでしまいます。
 

2 試験委員が書いてほしかったこと
 

  問題文を見ると、債務者Bには先取特権を有する代金債権者「A以外にも一般債権者がいる」状況の中で、代金債権者Aは、❶「甲についていかなる権利に基づき」、❷「どのような形で売買代金を確保することができるか」の2点を問いかけています。このような2つの問いかけをしたということは、試験委員は、❶の問いかけで「代金債権者Aが行使できる担保物権の権利名を指摘する」ことを求めつつ、❷の問いかけで「担保物権の優先弁済的効力」の内容を具体的に説明することも求めていると考えられます。つまり、今年の記述では、「担保物権の総論」の箇所で初学者でも基本知識として学習しているはずの「担保物権の優先弁済的効力」の説明を書いてほしかったと推測され、問題に採用する事例は抵当権の事例でもよかったはずですが、昨年「抵当権」を出題してしまっていますし、「応用力を試す目的」もあって、担保物権の種類を「動産の先取特権」にしたのだと思われます。昨年も、基本知識の「契約不適合責任」が問われましたが、「売買」の事例で出題すると簡単すぎるので、同じ有償契約の「請負」の事例で契約不適合責任を出題してきました。
 ということで、あまり見慣れていない場面設定で問題が作られていたとしても、結局はどんな民法の基本知識が問われているかを見抜く力が試されたということです。記述式民法2問のうち1問はこのような「応用力」を試す問題を2年連続出題してきています。試験委員が変わらなければ、今後も民法記述式2問中1問は、条文判例の単純暗記型の問題ではなく、応用事例(見慣れない事例)でも民法の基本原則を使って解答できるかという視点で作成されるかもしれません。

3 受験生が解答をどう書くかで民法の実力が
  はっきりとわかる(その意味では良問)


 私見となりますが、想定される受験生の解答を4パターンに分けて、おおまかな評価を記載します。(1)(2)は厳しい評価、(3)は半分程度か半分以上の得点がつく可能性があり、(4)は申し分のない高評価です

(1)代金債権の優先弁済を受けられる権利を指摘しない解答

 
 債権者Aの立場で解答を作成するわけですから、他の一般債権者が事例に登場したところで、優先弁済的効力をもつ担保物権を探して指摘する必要がありますが、そこまでたどり着けずに、権利行使できる担保物権を指摘していない場合は、かなり厳しい評価になります。問題文では❶「Aは、甲についていかなる権利に基づき」、❷「どのような形で売買代金を確保することができるか」の2点を問いかけている中で、❶の問いにつき優先弁済的効力のある権利を解答していないということは、❷の問いで優先弁済的効力の具体的内容も解答できていないことになりますから、まったく出題意図に答えていないと言わざるを得ません。
 たしかに、代金債権者Aが、一般債権者の立場で、代金の回収をすることもできます。その場合、代金債権者Aは、代金請求訴訟という民事訴訟を提起し、勝訴判決を確定させて債務名義(強制執行に進むための切符みたいなもの)を得た後、次に強制執行の手続きに進み、執行官(国家公務員)に動産甲の競売の申し立てをする方法をとることなります。つまり、一般債権者の立場で債権回収をしようとすると、民事訴訟と強制執行手続きの2つが必要となり面倒なだけでなく、動産甲の競売代金について、他の一般債権者との間で債権額に応じてお金が分配される(債権者平等原則)ことになりますから、他の一般債権者の人数や債権額が多い場合、代金債権者Aは十分に代金の回収ができないことになりかねません。
 ということで、債権者Aとしては、優先弁済的効力のある担保物権をもっているのに、使わないという選択をしても、何のメリットもありません。

(2)動産の先取特権以外の担保物権を解答した場合


 本問では、まず担保物権の種類を選択する必要があります。問題文には  
AB間で担保物権の設定契約をしている事実関係がないので、法定担保物権の中から選択する必要があります。法定担保物権は留置権と先取特権しかないところ、代金債権者A(売主)がコーヒー豆(動産甲)を占有していないため、物の占有を成立要件とする留置権は候補から消えて、消去法で先取特権が残ります。本問では動産の売買で発生した代金債権を確保したい事例ですから、動産売買の先取特権を行使するという構成を選択するしかありません。それ以外の権利を解答した場合も、担保物権の種類を横断的に整理して理解していないことが露呈するため、厳しい評価が想定されます。ちなみに譲渡担保権を選択して解答した方もいるようですが、譲渡担保権はAB間で設定契約がないと発生しませんので、本問ではAB間で設定契約をした事実関係がない以上、譲渡担保権を選択することはできません。

(3)動産売買の先取特権を指摘したが、優先弁済的効力の内容の  
   説明がない


 担保物権総論で学習した担保物権の優先弁済的効力の内容を解答することまで読み取れなかった方は、おそらく動産の先取特権の箇所で学習したことだけを思い出そうとがんばり、実質的に問題文の❶「Aは、甲についていかなる権利に基づき」という問いかけだけに解答して、

「Aは甲について動産の売買の先取特権を行使するという形で売買代金を確保できる。」(37字)

といった解答を書くことになりそうです。これだと担保物権の最初で学習する「担保物権の優先弁済的効力」の説明が抜け落ちていますから、試験委員が書いてほしかった❷「どのような形で売買代金を確保することができるか」という問いに対する解答が抜け落ちており、純粋な絶対評価をするなら得点は半分位かもしれません。もっとも、今年の択一及び記述双方の受験生全体のできがあまり良くない場合は、合格者数が少なくなりすぎることを防ぐために得点調整をして、この程度の解答でも半分より高い点数を与える可能性があります。

(4)動産売買の先取特権を解答し、優先弁済的効力の内容も説明  
  できている


 問題文の❶「Aは、甲についていかなる権利に基づき」、❷「どのような形で売買代金を確保することができるか」という2点の問いかけに答えているため、文句なしの高得点でしょう。
 私が最初に思いついた解答例は次のとおりです。

最初に思いついた解答
「Aは動産売買の先取特権に基づき甲を競売した代金から優先弁済を受ける形で売買代金を確保できる。」(46字)で、字数オーバーになったため、
問題文の問いかけに含まれている「Aは」という主語をカットして、

「動産売買の先取特権に基づき甲を競売した代金から優先弁済を受ける形で売買代金を確保できる。」(44字)

☝上の解答は、「~に基づき」「~形で」という問いかけの文言を採用しつつ、「優先弁済」の用語に加えて、「優先弁済を受ける手続き」まで簡潔に書いたもので、私が今年の受験会場にいたらあまり時間がかけられない中でこれで解答したと思います。
 ただ、1回字数オーバーし、誰が誰に優先するという説明があった方がベターなこと、先取特権の動産「競売」という用語は民法上の用語ではなく民事執行法上の用語であることから、もしかしたら試験委員が想定している解答例は、「競売」の説明までは不要とし、以下のような解答例を想定しているかもしまんせん。

試験委員がイメージしていると思われる解答例(民法の範囲で解答)

「Aは動産売買の先取特権に基づき一般債権者に先立って弁済を受ける形で売買代金を確保できる。」(44字)
☝民法303条の文言に寄せ、かつ、誰が誰に優先するかを指摘した解答例

 なお、動産を目的とする担保権の実行は、民事執行法190条1項(一番下に掲載)では「競売」が予定されています。民法の動産先取特権の条文では「競売」の用語が出てこないですし、「競売」まで書けない行政書士受験生が少なくないと思われますので、「競売」の用語を書いていなくても減点はしないと思います。「競売」という用語が解答に書いてあれば、採点をする側は、担保物権の優先弁済的効力の内容を具体的にわかっているなぁという印象はもつと思いますが、試験委員はそこまで要求していないのではないかと思います。

(動産競売の要件)
民事執行法190条1項
動産を目的とする担保権の実行としての競売(以下「動産競売」という。)は、次に掲げる場合に限り、開始する。 (以下省略)


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講師とよた
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