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プベルル酸(Puberulic acid)

本稿はここ最近話題になっている、小林製薬株式会社の商品である紅麹(べにこうじ)配合サプリメントの摂取者が健康被害を起こしている問題で、2024年3月29日の報道でプベルル酸(Puberulic acid)という聞き慣れない化合物が検出されたという報道があった。本稿はこのプベルル酸について現在の時点で判明していることについて平易な言葉で説明し、またもしこのプベルル酸の作用を研究するならばどのようなアプローチがあるのかについてもいくつか説明しようと思う。本稿は途中まで無料で読むことができる。最後まで読む場合は400円かかるが、公益性そのほか変化があれば価格は変動する。購読している場合はそのまま読むことができる。

1. はじめに

まずプベルル酸に入る前に、本件についての経緯を整理してみたい。こちらの毎日新聞によると、2021年の2月に小林製薬より紅麹コレステヘルプが販売された。その後、2024年になり1月から本製品について健康被害が生じているという連絡を小林製薬は医師から受けている。その後、3月に入りこの紅麹製品の使用者から死者が出始めており、3月29日現在、時事通信によると5人目の死者が出ており、70歳から90歳の男女である。

当初は紅麹の成分に毒性があるのではないかと疑われた。そして毒性物質として知られるシトリニン(citrinin)の名前が挙がった。

シトリニンは1931年にアオカビ(Peniccilium)から単離された毒性化合物(マイトトキシン)であり、分子量250くらいの化合物で以下の構造を持ち、腎臓毒を示す。作用機序として酸化ストレスやミトコンドリアの機能異常を引き起こすことが報告されている(以下の総説論文に書かれている)。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S027869151730580X

シトリニン(本稿の主役ではないので注意)

しかしこのシトリニンは検出されず、またその合成遺伝子を小林製薬の紅麹は持っていないという説明が有識者よりなされている。
 紅麹自体が無毒であるということならば、別の微生物が混入して、その微生物が毒性物質を生合成した懸念があるという考察がなされた。そのような中で、3月29日の報道で話題になったのがプベルル酸ということである。なので気を付けて欲しいのは、報道で得られる情報というのは時時刻刻と変化し、また当初確からしいと思われていた話も、そのあとに撤回されたりしれっと差し替えられていることがある。そのため、今の時点ではプベルル酸が最有力の毒性の原因化合物だったとしても、今後さらに別の物質があげられることもある。そういう点では、プベルル酸が紅麹の健康被害の中核的な原因化合物ではない可能性もあることには留意してほしい。ただし詳細は下の章で述べるが、プベルル酸は確かに細胞毒性があるために、人体に悪影響を与える懸念は十分にあるもので、仮に近未来に本件の健康被害の全容が明らかになったとしても、その毒性の一翼をこのプベルル酸がになってはいたという結論自体にはなり得る可能性はそれなりにありえる。
 このあたりまで読者諸氏には理解してもらい、次章からプベルル酸の説明をしていくので是非ともご覧頂きたいと思う。

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