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つわり遺伝子の話

本稿は残念ながら購読していなければ読めない。中身としてはつわりについての関係遺伝子・産物の解説になる。ただその内容を理解するためには、遺伝子やタンパク質はどういうものかを知る必要もある。そこで、本稿は遺伝子とつわりについては非購読者でも読める設定にしておきたいと思う。その上で購読部分からつわり遺伝子やその遺伝子産物(タンパク質)の話をしていくことにする。本稿は現段階では購読者のみ全文を読めるが、近い将来にはばら売りで誰もが読めるようにしたいとは思っている。


1. 遺伝子とは何か

まず本稿を理解するには遺伝子やその産物であるタンパク質の理解をする必要がある。多くの読者も知っているように、マイコプラズマのような単純な最近から、我々ヒトに至るまで、遺伝情報というのは基本的にはDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列によって規定されていることが長い研究により判明している。一部のウイルス(コロナウイルスやインフルエンザウイルスなど)はDNAによく似た核酸であるRNAを遺伝情報の総体(これをゲノム(genome)と呼ぶ)とすることもあるが、今の時点で報告される全ての生物としての条件を全て満たしている存在は、遺伝物質はDNAである。
 ヒトのゲノムは30億塩基のDNA配列で成り立っており、全部つなぎ合わせた長さは1メートルにも及ぶと考えられている(分子のサイズが1 mなのだから大変な長さである)。そして最近の研究によりヒトの細胞数は37兆個であることも分かっているが、基本的には一部の例外の一部のDNA部分を除いて、どの細胞も同じ配列となる。このゲノム(46本の染色体)の中に、遺伝子(gene)が23,000個含まれていると見積もられている。
 遺伝子情報の伝達というのは下の図に書いてあるような、セントラルドグマと呼ばれる流れに多少の例外はあれども基本的に従う。

セントラルドグマの図
https://www.rikelab.jp/glossary/post/images/2023/05/central_dogma01.webp
  • まずDNAが転写(transcription)と呼ばれる過程を経てRNAが作られる。RNAには色々な種類があるが、その中にあるメッセンジャーRNA (mRNA)から翻訳(translation)と呼ばれるプロセスを経るとタンパク質(protein)が生産される。このDNA→タンパク質→RNAという流れをセントラルドグマと呼ぶ。ここでついに遺伝子(gene)の説明になるが遺伝子というのは、基本的には生物を構成する上で部品や活動できるようにするためのツールキットのようなものである。これらがヒトの場合は23,000個あるのである。

  •  遺伝子とはRNAに転写されるDNAの部分のことであり、mRNAの場合は、タンパク質に翻訳される。そのためにある遺伝子から最終的に生み出されたタンパク質のことを遺伝子産物(gene product)と呼ぶこともある。そして本稿でこれから紹介していくのは、つわり(悪阻)に関係する遺伝子ということになるが、その前にこちらの無料部分でつわりとは何かについての説明もしよう。

2. つわり

さてつわり(悪阻, morning sickness)とは何かという話になる。

つわりとは、妊娠5週目あたりから起こる食欲不振、吐き気、嘔吐などの消化器系の異常のことです。一般に妊娠12週~16週目前後で症状が消えるといわれていますが、個人差が大きく、妊娠後期につわりが生じる妊婦さんも少なくありません。

https://shinsaibashi-fujinka.jp/pregnant/morning_sickness/

つわりというのはまさしく、妊娠女性に特有の症状であり、個人差も大変大きな異常と言える。そういう点では生理なども連想しやすいところであるが、このつわりが実際にどのようなメカニズムで起きるのかについてはもちろん長く分かっておらず、その分子レベルの実体が見えてきたのもごく最近ということになる。今年はつわりの実体因子についての論文が最高権威誌Natureにも掲載され、大いに理解が深まってきている状況にもある。
 それでは以下からつわりメカニズムおよび遺伝子の実体に迫って行こうと思う。

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