見出し画像

Y染色体とは何か

本稿は性染色体の一つであるY染色体について現在わかっている知見について説明する。最初にX染色体も含む性染色体の基本を説明し、そのあとY染色体の話に移るが、基本的な性染色体についての情報の部分は無料で読むこともできる。最近になりオリンピック選手関連で起きた事件などから性染色体、特にY染色体とは何なのかについて読者諸氏も基礎的なことは把握しておくのは良いと思っている。本稿の全文は500円で読むことができる。


1. はじめに

我々ヒトの染色体は46本であることは広く知られている。実際には1番染色体から22番染色体が2コピー存在し、さらにX染色体二つか、それともX染色体の他にY染色体がを持つケースに分かれる。前者が一般的には女性になり、後者は男性になるというのはあまりにも当たり前とも思われている。しかしX染色体がなくY染色体二つの個体はいない。それはなぜであろうか。そのあたりも含めて我々は性染色体についてどのくらい知っているだろうか。そして性染色体とはそもそもどのようなメカニズムで性を決めているのだろうか。そのあたりについても次章から解説していきたい。

2. 性染色体の基本

哺乳類においては一般的にはXとYは雌がX染色体を2本持つ性決定方式が採用されている。雌はXX型で雄がXYで観察される性染色体を有している。ただしトゲネズミのようにY染色体が消失してしまっている個体もある。こちらの場合はオスもメスもXO(Oは染色体がない事を意味する)であり、X染色体一本になる。性決定は常染色体の一つが変化して性決定も担うようになったと考えられている。

奄美大島に生息するアマミトゲネズミは染色体がXOでY染色体が欠失している。
https://hirakawazoo.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/amamitogenezumi05.jpg

また鳥類やヘビなどではZW形といって、こちらはオスがZZでメスがZWということで、オスがホモ(性染色体が二つとも同一であること)でメスがヘテロになる。また動物によっては性別が二つではなくより多数あると報告されているものもある。雌雄同体もある。

性染色体の進化
有羊膜類とは四肢動物のうち、発生の初期段階に胚が羊膜を持つ動物の総称でもあり、爬虫類や哺乳類、鳥類などが含まれる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%A7%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93

ちなみにヒトの場合はXY染色体はサイズがかなり異なる。下の図で分かるようにY染色体は相対的にX染色体よりかなり小さい。実際分子としてXY染色体を調べてみると、X染色体は154,259,566塩基対で804個の遺伝子があると見積もられている。一方でY染色体は62,460,029塩基対で66遺伝子があるとされており、Y染色体はとにかく遺伝子数が少ない

XY染色体の撮像

このようなところで性染色体の概要といったところであるが、Y染色体にはSRY (sex-determining region Y、スライと発音)と呼ばれる遺伝子が存在しており、このSRY遺伝子が性決定において男性方向への性分化をさせる上で大きな役割を果たすことがわかっている。Y染色体の詳細やSRYの実際の機能についても次章以降で説明していきたい。

3. Y染色体の構造

ここから先は

10,640字 / 7画像
この記事のみ ¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?