シャーロック・ホームズはコーヒー派
英国といえば紅茶ですが、有名な名探偵シャーロック・ホームズはコーヒーをこよなく愛していました。
今回はシャーロック・ホームズの作品中に出てくるコーヒー並びに紅茶を飲む場面から、そのバックグラウンドにどのような人間関係があったのかを考察してみようと思います。
まずは、ホームズがコーヒーを飲んでいるところの抜粋。
次の朝、私達がトーストとコーヒーの朝食を摂っていると、ボヘミア王が慌てて部屋に入ってきた。
【ボヘミア王のスキャンダル】
ここでは「私達」なのでホームズとワトソンがコーヒーを飲んでいます。ふたりともコーヒー派だったのでしょうか?
二人でいるときは大抵ホームズがワトソンの分のコーヒを用意、もしくはオーダーしています。
「ベルを鳴らせばメイドが君のコーヒーを運んでくるよ」
【五つのオレンジの種】
「コーヒーはテーブルの上にあるよ、ワトソン」
【六つのナポレオン】
部屋に降りて行くと、朝食が並べられていてホームズがコーヒーを注いでいた。
【四つの署名】
どうやらホームズは当然のようにコーヒーをワトソンに振る舞っています。
少なくとも、ワトソンは「コーヒーが嫌いというわけではない」と言えそうです。
また、ホームズは機嫌の良いときにもコーヒーを飲むようです。このときは一人で飲んでいる場面が多いです。
彼は含み笑いをしてコーヒーを注いだ。
【ブラック・ピーター】
「大変なことになってきたねぇ」ホームズはコーヒーを飲みながら他人事のように言った。
【四つの署名】
刑事たちが血眼になって捜査している事件で、自分だけが真相を知っている時などよく一人でコーヒーを飲んでいます。皮肉屋の彼らしい情景ですね。
あまりにもホームズがコーヒーばかり飲んでいるので、もしかしたら221Bには紅茶がないのではないかとも思えますが……、
ハドソン夫人が紅茶とコーヒーを持って入ってきた。
【海軍条約文書事件】
このように、お客様がいるときには、紅茶の選択肢も用意する紳士ぶり。
記述はありませんが、きっとこの時もホームズはコーヒーを選んだに違いありません。
ではホームズは紅茶を飲まないのでしょうか?
そんなことはなく作品中には何度か紅茶を飲む描写もあります。
ありますが、状況がかなり偏っています。
ホームズは面白いことに事件にのめり込みすぎて食事を忘れることがあります。たとえば……、
「あんまり忙しくて、食べることを忘れていたが、今晩はもっと忙しくなりそうだ」
【ボヘミア王のスキャンダル】
「飢死にしそうだ。食べるのを忘れていたんだ。朝から何も食べなかった」
【五つのオレンジの種】
このようにホームズはときどき事件に集中しすぎて食事そのものを忘れることがあります。そんなときに偏って何故か紅茶を飲む描写があります。
五時頃にひどく腹をへらして帰ってきて、私が頼んでおいた夕食用の紅茶をがぶがぶと飲んだ。
【恐怖の谷】
私がちょうど紅茶を飲み終えた頃にホームズが帰ってきた。明らかに上機嫌で、ゴム製の履き古したブーツを一足、手にぶら下げて部屋に入るとホームズはその靴を部屋の片隅に投げ捨て、自分で紅茶をいれて飲んだ。
「ちょっと通りすがりに寄っただけだ」ホームズは言った。「すぐに出かけるよ」
【緑柱石の宝冠 】
原文では“(He) helped himself to a cup of tea. ”となっています。
急いでいることを考えると紅茶を茶葉から淹れたのではなく、ワトソンが飲んでいた紅茶をポットからカップに注いで勝手に飲んだとみるほうが妥当です。
ここで注目してほしいのが、ホームズが紅茶を飲むときは大抵ワトソンが一人で家にいるときで、ワトソンは一人のときは紅茶を飲んでいるという事実です。彼はむしろ紅茶派だったのかもしれません。
ワトソンは、いつもはホームズに合わせてコーヒーを飲んでいたが、本当は紅茶のほうが好きで、一人で午後の紅茶を楽しんでいるときに、突然帰ってきたホームズに勝手に飲まれてしまうという悲劇を何度も体験しています。
もちろん鋭い観察眼を持っているホームズもワトソンが紅茶派であることは分かっていたでしょう。それでもコーヒーをワトソンに飲ませたがります。変な人ですね。
他にもこのような描写があります。
彼が青ざめて疲れた様子で帰って来たのは、午後10時前だった。彼は食器棚まで行くとパンを引きちぎり、ガツガツと頬張り、水をたっぷりと一気飲みして胃に流し込んだ。
【五つのオレンジの種】
水でもいいんだ? コーヒー派のホームズにとっては水も紅茶も同じようなものだったのかもしれません。ワトソン涙目です。
逆にホームズが嗜好品として紅茶を飲む場面はほとんどなく、僕が見つけられる限りでは一箇所だけでした。
しかしそれほど待つことなく、お茶を終えた時にちょうど電報が届いた。
【黄色い顔】
原文は“It came just as we had finished our tea. ”なのでワトソンだけではなくホームズも紅茶を飲んでいたことになります。
このときばかりはワトソンが紅茶を用意したのかもしれませんね。
まとめ
ホームズはコーヒー、ワトソンは紅茶。
合わせて読みたいエントリー
英国とコーヒー
参考文献:
シャーロック・ホームズ家の料理読本:
ファニー・クラドック (著), 成田篤彦 (翻訳)
シャーロック・ホームズ大図鑑:
デイヴィッド・スチュアート・デイヴィーズ (著) , 日暮雅通 (翻訳)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?