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井岡一翔でPPV!?

 6/24の井岡一翔の試合の、AbemaでのPPVが決定しました。
 カードは、WBA王者フランコとの再戦。初戦と違い井岡は既にWBO王者ではないので、統一戦ではありません。

・Abemaの考えは?

 大晦日の大田区総合体育館での二団体王座統一戦で空席があった選手の試合を、PPVで放送するとは。Abemaは思い切ったお金の使い方をする、としか言えません。

 Abemaは、サッカーのワールドカップは無料で放送していました。広告費が入るとは言え、間違いなく大赤字。短期的な収支だけを考えたらやるはずがありませんので、投資と割り切っての放送だったのでしょう。井岡に対しても、一種の投資なのだと思います。

 しかし、日本の視聴者のPPV購入へのハードルは、かなり高い。それは私自身も同様です。
 私は井上尚弥には熱狂していて、ドネア戦は見ましたが、バトラーとの四団体統一戦のPPVというか有料放送は、見ませんでした。記念すべき試合ではありましたが、試合としては何の魅力もなかったのが正直なところ。
 タイトル戦ですらなかったディパエン戦(2021年12月)のPPVも、もちろん見ていません。むしろ「こんなクソカードに金払うかよ、視聴者ナメんな」と思っていました。

 私が見なかったPPVでも十分儲かったようですが、

平日にさいたまスーパーアリーナを満員にする井上
 

大晦日の大田区総合体育館を満員に出来ない井岡

 では、そもそも集客力、特に「金を出しても見る」という客を集める力が違います。

 このPPVは、井岡の試合を金を払ってまで見るようなボクシングマニアの人口を把握するのに、格好の試金石になると思います。ただAbemaは、PPV件数を公表はしないでしょうから、一般にはその結果は分からないですが。

 個人的には、井岡の渋い試合では価値として2000円ぐらいが限度だと感じますが、逆に、安くしてもそれほど視聴者は増えないという仮定で、敢えて高めに設定する、という手も考えられます。
 井岡を支持するボクシングマニアは、多少高くても買うでしょうから、そうやって利益を増やす、という考え方も有り得るでしょう。その辺りは、Abemaのお手並み拝見、としか言えません。

 何にせよ、TBSで夕方に放送するよりは、大きな放映権料が入る目処が立っているのでしょう。素人目にはとてもそうは思えませんが、ヤマ勘で決めるはずはありませんので。

・ファイトマネー

 とは言え、もう一つ考えられるのは、井岡はファイトマネーの取り分に法外な要求はしていないだろう、ということ。彼が望むのは今後のエストラーダ戦のようなビッグマッチや、勝者としての名誉であり、一生遊んで暮らせるお金、ではなさそうなことは、その発言や態度からうかがえます。もちろん、それが完全な真実かどうかは分かりませんが。

 いつまで経っても実現しないスペンスvsクロフォードは、クロフォードは集客力(PPV含む)も無いのに高額のファイトマネーを要求するので話がまとまらない、といった意見を目にすることが多いです。その真偽はともあれ一般論として、ファイトマネーの高さはビジネス上の一つの障害になり得ます。井岡の場合は、恐らくそれはないだろう、ということです。
 フランコも、所詮はと言ってはなんですが軽量級ですので、数億円のファイトマネーを要求するとは、あまり思えません。TBSが呼べたくらいですので、大したことはないのでしょう。

・カードの魅力不足

 しかしそもそも、井岡vsフランコ2は、WBOからは中谷潤人との対戦司令が出ていたのを蹴って王座を剥奪されてまで、井岡が実現させた再戦です。しかしそうしたお題目とは裏腹に、魅力的なカードでは全く無いと思います。
 目標としているファン・フランシスコ・エストラーダ戦のためにベルトが必要なのは分かりますが、何故フランコとの再戦なのか。それを理解出来ている人は、本人と陣営以外にはほとんどいないのではないでしょうか。

 私はBOXING BEATに載っていた井岡のインタビューを読みましたが、
「フランコに勝たないと前へ進めない」
 と言っているだけで、中谷戦をクリアしてWBO王者としてベルトを持ったままエストラーダ戦に臨めばいいじゃないか、という声への回答にはなっていないと、正直感じました。
 注目度は段違いに高くなるはずの中谷戦とベルトを捨ててまで、フランコと戦う理由になるとは思えません。

 井岡の近年の試合で最も世間一般の評価を高めたのは、田中恒成戦でしょう。この試合井岡は、
「自分にはやるメリットが無い」
 と公言していました。コロナ禍により海外から選手が呼べない事情から、やるしかない一戦でした。
 しかし、注目を集める日本人対決、かつ二階級制覇王者で無敗のスピードスターとして世界的な知名度もあった田中を相手に完勝を収めたことで井岡の価値は上がり、メリットは大いにあった、という意見を、何かの記事で見ました。それも一理あると思います。

 井岡にとって中谷戦で得られるであろうそうした「メリット」は、リスクに見合うものではなかったのでしょう。逃げた、と言われることも、いい大人ですので、当然想定しているはずです。
 それでも、フランコなら確実に勝てて、エストラーダ戦に繋げられる、という確信があるのだと思います。

 いちファンとしては、泥試合の微妙な判定になることが見えているフランコ戦より、中谷戦が見たかったのは当然です。
 競技の世界なので、素人には分からない技術戦もあって当然。しかし、それに金を払うかどうかを決めるのは、素人の側です。やる側にリスペクトを欠いてはならないとは思いますが、自分の金を出すか出さないか、面白いと思うか思わないかの判断は、当然個人の自由です。

 私自身は、井岡の試合は面白いと思わないので、今回のPPVは買いません。500円でも買いません、Abemaの有料会員になるのが面倒なので。
 最高にエキサイティングな井上尚弥の試合がLemino会員(無料)で見られて、井岡の試合はPPVとは、完全にアベコベとしか思えませんが、エンタメビジネスの中では往々にしてあることでしょう。

・スポーツ観戦ビジネスの行く末

 井岡のPPVの成功、不成功には関心が無いですが、その結果を受けて、スポーツ放送ビジネスの成功への更なる模索が進むでしょう。

 旧態依然としたスポーツ新聞や雑誌のコラム、Yahooニュースのコメント欄には、地上波で見られないことへの嘆きが見られます。しかしコメントしているのは、「テレビはタダで見るもの」と思っている中高年がほとんどですし、見たいと思うものにはお金を払う、という価値観は、少しずつ広がっていると思います。当然その速度は遅いですし、金額も低めではありますが。

 そして、散々「テレビ離れ」と煽っておきながら、いざテレビ放送が無いと「一般層に届かない!」と騒ぐのは、マスコミのお家芸です。
 従来の方法のままではダメだと言いながら、いざ別の方法を考えたら、その方法の欠点を拡大して騒ぐ。テレビとPPVに限らず、マスクを外す外さない、2類と5類、構図は似通っています。これが一番簡単に、責任を負わずに済ませつつ、アクセス数を稼ぐ手段なのでしょう。
 騒いで注目を集めるためには何度でも手の平を返すので、あまり気にする必要はありません。
 人口減少やテレビ離れに加えて、視聴率、という曖昧な指標では広告効果は測れず、広告費は出せない、という面も強くなっているのではないかと思います。
 何にせよ、覆水盆に返らず。地上波テレビでお金が湯水のように垂れ流された時代は、もう帰って来ません。中高年の「昔は良かった」論は無視して、今後の変化を前向きに捉えて行きたいと思います。まあ、私も中高年ですが。

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