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サイズミック・エモーション

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日向みつきは18歳の予備校生。大きなお節介と小さな迷惑、そして世界規模の陰謀を抱えて、彼女は今夜も東京の空を飛ぶ!
本作は2003年に企画・発案、2004年に小説誌で発表、2006年にノベルスとして商業出版されたも…
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2020年7月の記事一覧

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みんなが、幸せでありますように。

 震度7を超える大地震と大規模火災により、2万を超える人命を奪っていった《首都圏大震災》。それから丸2年が経ち、東京は世界に誇る最先端のメトロポリスへと生まれ変わりつつあった。  落ち着きを取り戻した郊外で暮らす18歳の日向みつきは、一浪中の予備校生。5歳年上で親友の昭月綾や、中学生で妹分の大地瑤子らと共に、都市に潜む数々の事件をひそかに解決(?)していた。  そんな彼女らと、左遷されて退職することばかり考えていたキャリア官僚・久瀬隆平が出会ったとき、運命の歯車が大きく回り

主な登場人物(SE)

日向みつき(ひなた-) 18歳。浪人中の予備校生。 いたって普通な年頃の娘に見えるが、実は先進国共同の超能力研究所が莫大な資金を投じて強化・育成したサイコキネシス能力者。〔理論上は人類最強〕などと称されたことも。ただいま彼氏募集中。 昭月綾(あきづき あや) 23歳。みつきとは十年来の友人。 東欧系のクォーター。日本人離れした抜群のスタイルを誇る掛け値なしの美女で、世界トップクラスのESP能力者でもある。趣味はアンティーク家具やオカルト関連書籍の蒐集。   大地瑤子(おお

Overture

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おひさまは今夜も空を飛ぶ(1)

花も恥じらうお年頃?  ゴールデンウィークを目前に控えた、晩春。  JR中央線を走る電車のほとんどに掲示された中吊り広告に踊った週刊誌の大見出しは、通勤や通学の途中にある都民の目を強く惹きつけていた。 [三年後の首都圏大震災/五月二日の疼痛]  都心を壊滅させた最大震度七の激震と、大規模火災を始めとする二次被害。最終的に二万を大きく超える人命を奪っていった大災害から三年が経過した今、東京という街は何を失って何を得たのか。ノンフィクション作家が綿密な取材の元に渾身の力で書き

おひさまは今夜も空を飛ぶ(2)

持つべきものは友達だよね  翌朝早く、愛用の縁なし眼鏡にジャケット、ブラウス、ジーンズにズックという格好のみつきが、杉並区にある高級マンションを訪れていた。  出入り口は指紋の認証とパスワードを併用した電子ロックだが、みつきはそれらをあっさり通過、広いロビーでも迷うことなくエレベーターに乗り込み最上階へ上がる。そして[昭月]と表札のある角部屋の玄関先でインターホンのスイッチを押した。  だが、いくら待っても応答がない。 「……絶対居る。居ない訳がない」  五秒待って押

おひさまは今夜も空を飛ぶ(3)

複雑な事情があるみたい  都内某所、自走式立体駐車場の一角。  震災によって発生した負債を処理できずに倒産した総合デパートの駐車場だが、後の区画整理で主要道路から離れたことが災いし、放置されたままになっている。カビと埃、排気ガスで汚れた空間には外の光も満足に入ってこない。  松永泰紀は、今、そんな場所に居た。  病院になど行ってはいない。もちろん家にも戻っていない。ここで胸の痛みに脂汗を流しながら夜を過ごし、憔悴した顔の色が青ざめるのを通り越して黒ずんできた明け方近くに

おひさまは今夜も空を飛ぶ(4)

ビルの谷間で修羅場になって  歌舞伎町の一角にあるホストクラブが、その夜の営業を始める準備を進めていた。若いホストが次々に出勤し、身なりを整え、店の清掃を続けている。  その内の一人に、須賀健一郎の姿があった。  松永泰紀、松永恵と共に、件の生写真に写っていた見知らぬ少年。その現在の姿である。 「須賀、ちょっといいか」  店長を務めるホストに呼ばれて、須賀が振り返る。 「はい、何スか?」 「これから外に出るんだが、お前の車貸してくれ」 「いいっスけど、俺の車、シボレー

おひさまは今夜も空を飛ぶ(5)

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かくて救世への道を往く(1)

エリート崩れの核弾頭  東京都中央区、築地。  場外市場商店街の一隅にある大衆食堂、そのカウンターで、二十代半ば過ぎの青年が遅い昼食を摂っていた。店内に客は彼だけだ。ネクタイを緩めてシャツの第一ボタンを外し、店の看板メニューである海鮮丼をほおばっている。 「美味しいかい?」  食堂の厨房から、店番をしている店主夫人が声をかける。青年の食べっぷりが気に入ったらしい。 「……はい」  口中のものを飲み下してから、青年は答えた。 「うちは狭くて汚い店だけど、出してるもんに

かくて救世への道を往く(2)

男の意地を貫いて  日は沈み、夜の帳が街に降りる。  午後六時。一応の退庁時刻である。 「今日も、何もせずに終わるのか……」  久瀬は暗澹たる思いで鞄を手にして、席を立つ。  天井の蛍光灯を消して廊下へ出た。  驚くべきことに、情報調査室の薄暗い廊下に並ぶ扉のほとんどがすでに施錠されていた。  開かれている部や班も天井の明かりが落とされていて、闇の中でぽつぽつとデスクライトの点いた机が散見できるのみ。それすらも空席が多く、かろうじて管理職らしき職員の姿を見つけても、ラ

かくて救世への道を往く(3)

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かくて救世への道を往く(4)

迷える子羊、考える  大騒ぎになり始めたコーヒーショップを後にした四人は、立ち並ぶビルの屋上や住宅群の屋根を誰にも気付かれることなく飛び渡っていく。絶妙のバランス感覚と凄まじい跳躍力を持つ瑤子は基本的に身一つで、綾と久瀬はみつきの手を借りて。  その最中、綾は昨夜の事件について一通り久瀬に説明しつつ補足をする形で、 「超能力研究の歴史は、二十世紀初頭、二度にわたる世界大戦の頃に始まったの」  超能力に関する裏の歴史を語り始めた。  しばらくは荒事が続くと予想できるし、一

かくて救世への道を往く(5)

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