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[法案調査] 物価高騰対策給付金に係る差押禁止等に関する法律案

2023年11月29日審議予定の本法案は地方創生及びデジタル社会の形成等に関する特別委員会より提出されており、令和5年11月2日に閣議決定されたデフレ完全脱却のための総合経済対策における住民税非課税世帯を対象に1世帯あたり7万円を給付する政策に関連し、その差押えを禁止する法律案である。なお物価高騰対策給付金の詳細に関しての詳細は、執行主体となるであろう地方自治体の発表にて「未定」となっている(11月27日現在)。

令和5年11月2日(木)臨時閣議案件 | 閣議 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)
【詳細未定】住民税非課税世帯への物価高騰対策給付金(7万円)について|八王子市公式ホームページ (city.hachioji.tokyo.jp)

本法律案は11月24日の衆議院本会議にて全会一致で可決しており、採決は意義の有無にて行われた。以下に衆議院における法律案を示す。

物価高騰対策給付金に係る差押禁止等に関する法律案 (shugiin.go.jp)
物価高騰対策給付金に係る差押禁止等に関する法律案概要 (shugiin.go.jp)
物価高騰対策給付金に係る差押禁止等に関する法律案要綱 (shugiin.go.jp)

給付金は新型コロナ感染症流行以降、年に複数回実施されている。その度に”給付金に係る差押禁止等に関する法律案”は審議されており、ほぼ同様の条文にて可決されてきている。その一例を下記に示す。

令和五年三月予備費使用に係る低所得者世帯給付金に係る差押禁止等に関する法律案:参議院 (sangiin.go.jp)

本記事では近年給付金に伴い慣例的に提出される給付金差押禁止法について、差し押さえに関する根拠法および諸制度とともに整理する。


差し押さえに関する根拠法の整理

差し押さえは国税徴収法第四十七条に基づく徴収職員によって行われるものと、民事執行法に基づく裁判所および執行官によって行われるものに大別される。

国税徴収法第七十五条から七十八条および民事執行法第百三十一条では差押禁止財産が定められており、”生活に欠くことができないもの”等が該当する。また貸金業法二十条および二十一条では取り立て行為の制限が規定されており、強引な方法で取り立てを行うことは違法とされている。消費者金融などにおいては一般的に、合法な差し押さえに至るまでの取り立ての手順は確立している。闇金と言われる違法な貸金業に関しては、債務そのものの有効性が問われることになる。

そして今回の法律案と強い関連を持つものとして、貸金業法二十条の二では公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限が下記の通り規定されている。

貸金業を営む者は、貸付けの契約について、公的給付(法令の規定に基づき国又は地方公共団体がその給付に要する費用又はその給付の事業に関する事務に要する費用の全部又は一部を負担し、又は補助することとされている給付(給与その他対価の性質を有するものを除く。)であつて、法令の規定により譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができないこととされているものをいう。以下同じ。)がその受給権者である債務者等又は債務者等の親族その他の者(以下この条において「特定受給権者」という。)の預金又は貯金の口座に払い込まれた場合に当該預金又は貯金の口座に係る資金から当該貸付けの契約に基づく債権の弁済を受けることを目的として、次に掲げる行為をしてはならない。(後略)

貸金業法より引用

なお民事執行法の担い手である執行官は、執行官法に定められる通り執行官採用選考試験によって採用される。受験資格は「法律に関する実務」の経験が通算10年以上と規定されている。

(参考リンク)
国税徴収法 | e-Gov法令検索
民事執行法 | e-Gov法令検索
貸金業法 | e-Gov法令検索
執行官法 | e-Gov法令検索


ディスカッション

1,法律案に罰則規定がない点について闇金等と関連して

本法律案には罰則規定がなく、その実効性は貸金業法等周辺法における禁止規定に依存している。合法的な差し押さえは徴収職員もしくは執行官によって行われるため、本法律案によって差押禁止を決定すれば、周辺諸法を遵守するかぎり本法律の主旨は果たせるという建付けと推察される。

一方で困窮している世帯では違法な闇金業者からお金を借りていることも想定でき、給付金を狙い撃ちにした違法な取り立てが活発になる事態も想定できる。このような違法な取り立てに対しては、不法原因給付を根拠として借入無効や違法業者の口座凍結といった法的措置を取ることになる。

いっぽう困窮世帯がこれら法知識に触れる機会は限られており、知る機会がないもしくは弁護士費用が確保できない等の理由で泣き寝入りとなることも想定できる。

本法律案において差押禁止を決定するならば、それら違法事業者よる差押えや取り立て等に対し、受給者の注意喚起となる情報を手続き案内に盛り込む等対策は取られているのか質問したい。

2,いわゆる貧困ビジネスにおける通帳の取り上げは規制できるか

給付対象となる非課税世帯には、生活保護受給者も含まれる。生活保護受給者は被保護者住居等で生活していることも多く、同施設と契約の下金銭管理サービスを受けている場合もある。

いっぽう住居管理者が金銭管理サービスの名目で生活扶助費を使い込むことが”貧困ビジネス”として問題になっており、大阪府・埼玉県・茨木県および基礎自治体は条例等において対策を進めてきた。

本法律案に関わる給付金は金銭であるため自己財産との区分けは難しく、使い込み等が立証困難であると考えられる。これら貧困ビジネスにおける補助金の使い込みも一種の差し押さえと考えた時、どのような対策が考えられるか質問したい。

貧困ビジネスを規制する条例 | 法制執務支援 | 条例の動き | RILG 一般財団法人 地方自治研究機構

3,「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を「非課税世帯への物価高騰対策」として行うことの整合性

本法律案に係る物価高騰対策給付金は「デフレ完全脱却のための総合経済対策」における補正予算13.1兆円の一部であると考えられるが、総合経済対策の主旨に対し非課税世帯への給付金という使途が適切であるかは疑問である。

日本経済新聞によると食料品を中心に物価はインフレしており、困窮世帯への支援は必要である。ただしこれは本来最低生活費の再計算によって行われるのが本来の筋と言える。

今後もインフレ状態を持続させようというならばそれによって引きおこる国民の購買力低下に対し、まず財政規律に基づいた歳出削減によって国民の公的サービス負担の軽減に努めるべきであり、赤字国債によって支えられる補正予算による支出増はインフレを加速させコントロールを失う懸念が大きい。

本法律案は給付金の差押禁止に関わるものであるが総合経済対策の閣議決定に遡って、デフレ完全脱却のためにシニョリッジによるインフレ加速が必要な対策だと判断したのかを問いたい。

消費者物価指数、10月2.9%上昇 4カ月ぶり伸び拡大 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

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