アダムスミス 情操 前編

1.「同感」能力

スミスは「国富論」を書いた誰もが知っている経済学の巨人です。しかし彼は道徳と経済について本を書いていたのです。人間の習性、考え方、心理を見事に見抜いたスミスはやはり只者ではありません。
「人間がどんなに利己的なものと想定されうるにしても、あきらかにかれの本性のなかには、いくつかの原理があって、それらは、かれに他の人びとの運不運に関心をもたせ、かれらの幸福を、それを見るという快楽のほかにはなにも、かれはそれからひきださないのに、かれにとって必要なものとするのである。」
 有名な一節。ここにすべてが凝縮されています。われわれは確かに利己的な生き物です。しかしどういうわけか、他者の幸福や不幸に同感するという本性ももっている。完全に利己的な生き物というわけではない、と語ります。
 われわれが他者に同感できるのは、われわれに「想像力」が備わっているからだと考えます。「想像力によってわれわれは、われわれ自身をかれの境遇におくのであり、われわれは、自分たちがかれとまったく同じ責苦をしのんでいるのを心にえがくのであり〔後略〕」そしてこの想像力によって喚起される同感は、他者の境遇に向けられるのです。「同感は、その情念を考慮してよりも、それをかきたてる境遇を考慮しておこるのである。」 相手の気持ちを目の当たりにするだけでは、なかなか同感は起こりません。 相手のおかれた境遇を目の当たりにしたとき、同感がかきたてられるのです。

2.同感を求める

さて、われわれは他者に同感する能力を持つだけでなく、他者からの同感も、本性的に求めようとします。「われわれは、自分の快適な情念よりも不快な情念のほうを、いっそう友人たちに伝達したがる。」「愛と歓喜という快適な情念は、なにも附随的な快楽なしにも、心を満足させ支持しうる。悲嘆と憤慨のにがく苦痛な情動は、同感の慰めによっていやされることをもっと強く必要とする。」からです。

3.人はどういうときに同感するか

人が他者に同感するその条件は何か?それは、他者の感情の、原因と効果のバランスです。 大した原因でもないのに、感情を爆発させて大騒ぎする人に、私たちはなかなか同感できません。「どんな小さな原因によってももえあがる、つむじ曲がりで気まぐれな気質ほど、見下げはてたものもないのである。」
 「人類は、生まれながら同感的であるとはいえ、他人にふりかかったものごとにたいして、主要当事者を当然に興奮させるのとおなじ程度の情念を、けっして心にいだくことはないのである。かれら自身は安全だという考え、かれら自身はじっさいには受難者ではないのだという考えが、たえずかれらのじゃまをする。」 同感を求める人は、相手が理解できるよう感情のバランスをとる必要があると言います。「かれがこれを獲得することを望みうるのは、ただ、かれの情念を、観察者たちがついていける程度に、低めることによってなのだ。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?