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【番外編】遠藤周作『沈黙』をゆるく解説(あらすじ編②)

前回(あらすじ編①)はこちら

はじめに謝罪させてください。このシリーズ、前回の記事では「あらすじ編2回、解説1回の全3回」の予定と書きましたが、訂正させていただきます。あらすじ編は全3回に変更します。私の技術不足で、あらすじを2回で要約することが困難であると判断したからです。

それでは早速、あらすじを前回の続きから追っていきましょう。

■捕縛と論争

さて、キチジローの裏切りによってロドリゴは捕縛されてしまいます。連行されたロドリゴは、とある小屋に入れられるのですが、そこでモニカという洗礼名の女性(聖モニカ由来なので、バンドリ!のモルフォニカは関係ありません)と、ジュアンという片目の男性と出会います。

この二人にもフェレイラのことについて聞いてみますが、二人ともフェレイラのことは知らないとのこと。フェレイラさん本当にどこで何をしてるんでしょうか。

そこへ一人の年老いた侍がやってきます。ロドリゴはこの老人がトモギ村へやってきたあの侍だと一目でわかるんですね。

侍は言います。「こんな年寄りに苦労かけるでないぞ」「わしはお前らが憎くてこんなことをしてるわけじゃないんだぞ」などと、優しい感じで棄教を促してくるんですね。これぶっちゃけきついですよね〜厳しく言われるよりこういう言われ方の方が余計にきつい。例えるなら『響け!ユーフォニアム』の滝先生みたいなもんですよ。怒鳴ったりするのではなく、優しく諭す感じで指導された方が何倍もメンタルやられるあの感じね。逆に恐怖という感じがしますよね。

ロドリゴとも話をしますが、役人は「お前が転ぶ、つまり棄教すればみんなここの百姓どもは助かるんだ」と言うばかりです。

次に来た役人は、いわゆる通辞役の人間でポルトガル語も話せる人でした。その役人はセミナリオ(神学校)の出身であり、洗礼も受けたのだと話すんですね。ところがですね、この役人はキリシタンになったものの、パードレたちに自分たちの言葉や文化についてバカにされたのだと話すんです。そして宣教師たちに対して、「パードレはありがた迷惑な存在であり、この国はキリスト教を受け入れないのだ」と話します。

ここで、ロドリゴと通辞役は宗教論争をすることになるのです。ザビエルの時代からずっと、日本人と宗教について論争することは多々あったようなのですが、あのマカオで出会ったヴァリニャーノから「日本人は頭が良い。論争がいかなるものかを理解している」と言われた事を思い出すんですね。聞いたことある方もいらっしゃるでしょうし、この手の論争は現在進行形で何度も繰り返しおこなわれています。日本人クリスチャンならこういった論争をクリスチャンでない人としたことがあるかもしれません。僕はないですけどね。(いや、ないんかい!)そもそも家族以外で自分がクリスチャンであることを知ってる人自体がいないので。まあこの時点で僕はダメ信者ですよね。知らんけど。

通辞役はですね、仏教との対比でキリスト教に批判的なことを言います。キリスト教ではデウスというものが万物の源であり、神道の神や仏教の仏も皆人間と変わらぬ存在で、神仏とデウスは別物という。しかし仏は人知を超えたものであり、永久不変のものだというんです。

ロドリゴは万物は自然に存在し、世界には始めも終わりもないとあなたたちは言うが、万物は創造主のデウスが創ったものであると言い返します。

すると、「ならばデウスは悪人も創ったと言うのか?」と言われます。それに対してロドリゴは「悪とは人間の智慧分別とは反対のものである」と返し、通辞役が「ならばデウスはなぜ自分が創った人間に苦しみを与えるのだ?」と問うと「デウスから離れたものが苦しみを受けるのであり、デウスの掟に従えば平安の元に生きられるのだ」と反論します。

■真相と「沈黙」

そんなやりとりが続き、通辞役は「こんな論争をしてても埒が開かん。」と打ち切ります。そして転ばなければ「穴吊り」の刑を受けると忠告してくるのです。冒頭の手紙でも出てきたあの穴吊りですね。どうやら穴に逆さに吊るされる刑らしいのですが詳しくはここでは明かされません。

そして通辞役は続いて「イノウエ殿の取り調べを、あなたも受けることになるだろう」と言うのです。

イ・ノ・ウ・エ・・・・

キターーーーーーーーー!!!!!

ついに出たかと。あのヴァリニャーノが言ってた、恐らくはこの『沈黙』のラスボスであろうあの!?

ロドリゴは身震いするんですね。いったいどんな奴なのかと。

通辞役はさらに言うんですね。イノウエ殿の取り調べで、何人ものパードレが転んだんだぞ、と。名前を挙げていくんです。そしてその中に「パードレが・フェレイラ」と言う名前が出てくるんですね〜

フェレイラが、と。俺の師匠がと。あの手紙の内容は間違っていなかったんだと言うことを。通辞役に「知ってるのか?」と聞かれるんですがここでは知らないとシラを切ります。「そのフェレイラという司祭は生きているのか?」と聞くと、「生きて長崎に住んでおり、日本人の名前を名乗り、日本人の女性と結婚した」という情報を言われます。

ロドリゴは絶望的な気持ちになります。そりゃそうですよね。あんなに尊敬していたフェレイラが棄教していたことが事実だったのですから。命がけで日本までやってきたのにこの結果ですよ。

ロドリゴは言います。「主よ、あなたはなぜ黙っておられるのか」

タイトル回収ですね。こんなに苦しんでいるのに、神様はなぜ黙っているのか。「神の沈黙」。これこそがこの作品最大のテーマなのです。

■ヨコセのウラ

ロドリゴはその後、囚人達と一緒に船に乗せられて何処かへ向かいます。船着場を離れる時、誰かが何かを叫びながら船を追いかけてきました。

その人何処かで見たことがある感じだな〜・・・と、そこで気付くんです。

皆さんもうお分かりですね。そう。キチジローです。



・・・いや、


ま    た    お    ま     え     か。


お前いつここに来た?なんでロドリゴの居場所知ってんねん?と。どこから来て、お前、江戸時代初期やぞ?車も電車もないのにどうやって移動してきたんやと。

もうツッコミどころが多過ぎて仕方ないのですが、まあ「キチジローだからね、しょうがないね。」ってことにしておきましょう。

船が着いた先は平戸のポルトガル船がかつて行き来していた港で「ヨコセのウラ」と呼ばれる港町でした。かつては宣教師達の拠点となった場所で、教会がたくさんあって、大いにキリシタン文化が反映していた町だったそうなのですが、現在は教会も焼き払われ、宣教師達や信者達は追放され、廃れてしまったそうです。

ロドリゴは馬に乗せられて街中を連行されます。群衆が物珍しそうに見たり、笑われたり散々な目に遭います。そしてその群衆の中に一人の男を見つけるんですね。


言うまでもなくキチジローです。


だからま  た  お  ま  え  か  。


お前どうやって来たん?モーターボートとかジェットスキーとかで移動して来たんか?追いつくの早過ぎやろ?あれかな、実はさっきのキチジローとは別個体なのかな?『エヴァンゲリオン』の綾波レイ的な感じかな?「たぶん私は3人目だから」とかそういうこと言っちゃうあれなのかな?

ロドリゴも呆れて「お前なんか去れ!」と言う気持ちになっちゃいます。「去れ!」ですよ。そんなセリフ、ロドリゴか『もののけ姫』でアシタカに初めて会った時のサンくらいしか言わないレベルですよ。キチジロー、ここまでくると最早只者じゃないですね。最初に薄汚いヘタレとか言ってごめんなさい本当に。

ロドリゴは連行される間、今の自分の状況を、十字架を背負ってゴルゴタの丘まで歩いたキリストに重ねるんですね。そして「十字架の道行」の祈りを唱えるんです。来ましたね。十字架の道行。「ヴィア・ドロローサ」って奴ですよ。この記事で詳しく解説してますのでどうぞご覧になってくださいね。

■イノウエとの邂逅

ロドリゴはしばらくの間牢屋で過ごしました。その間にそこの囚人達と交流を持つんですね。交流自体は黙認されており、パンや葡萄酒がないのでミサこそできませんでしたが、一緒に祈ったり、告解をしたり、久しぶりに司祭らしいことをするんですね。

数日が経ち、また取り調べを受けることになります。数人の役人達のいるところで、一人の役人からは労いの言葉をかけられるんですね。「遠い異国までよく来た。さぞかし苦労も多かろう。」みたいにね。ロドリゴもなんだか救われた気持ちになって、ちょっと心を許せるかもーみたいに思うんです。

その役人と色々話すんですね。役人は「キリシタンの教えは異国で葉が茂り花も咲くが、日本では葉は萎え、つぼみの一つもつけない」と、植物にたとえて話すんです。

ロドリゴはこれに対して「私はそうは思わない。かつては数十万の信徒がこの国にいた。あなたが何を言おうと私は転ばない。何を言おうと私は罰せられるのでしょう。」と言います。

役人は「我々は理由もなく罰することはしない」と言いますが、ロドリゴは「イノウエ様」が言えば私は罰せられるのでしょう?と言います。

すると、その場にいた役人達は思わず吹き出すんですね。「あなたの目の前にいるそのかたが井上筑後守(いのうえちくごのかみ)だ」

エェーーーーーーーーー!!!!!

実はですね、先ほど取り調べの部屋に入って来た時からロドリゴは気になっていたんです。役人達の中に一際年老いた、温厚そうな人がいることを。口を開かず、ロドリゴの言うことに深く頷いたり、笑みを浮かべたり、なんかいい人そう、俺のことをわかってくれそうな爺さんがいるなと。それがなんとあのイノウエ様だったんです。

フェレイラ含め数々の司祭を棄教に追いやったんですから、どれだけ恐ろしい風貌なのかと思っていたら、全然想像していたのと違うわけですよ。この「物わかりの良さそうな温和な人物」がラスボスな訳ですよ。

RPGとかでもありますよね。めちゃくちゃ怖くて強そうな見た目のやつが実は中ボスで、パッと見弱そうなやつがラスボスで拍子抜けみたいなね。

■踏絵

先ほどの取り調べの後、部屋に戻るとあの片目のジュアン達が何やら庭に大きな穴を掘っていました。何のためなのか役人に尋ねると「あれはトイレだよ」と答えます。いやいや無理があるでしょそれは。もうここまで読み進めれば誰もが、あの穴が何のために掘られたのか理解できると思います。

この穴、相当大きかったようで、穴を掘らされていた人があまりのきつさに一人倒れてしまい、そのまま亡くなってしまいました。

そんな中、外で何やら怒鳴り声が聞こえました。見てみると一人の男が役人に怒られていたんです。

その男こそキチジローです。


ま  


お前さあ、ロドリゴを追って来たのかもしれないけど、ここやばいところだよ?ヤクザのアジトに一人で侵入して来たのと感覚的には同じだからね?ほんとその勇気と行動力は尊敬に値するよ。

キチジローは叫ぶんですね。パードレ、自分は罪深い人間だと。告解させてくれと。ロドリゴはキチジローに裏切られて酷い目にあっているわけですから、感情的には許せませんよね。でも司祭は告解させてくれと言う申し出を、個人的な感情で拒否することはできません。「ゆるしの秘蹟は与える。だが私はあなたを信じたわけじゃない。」と言い、告解を受けるんですね。でもキチジローはロドリゴからしたら煩わしい、ウザい存在であることは間違いありません。この『沈黙』を別のタイトルに変えるのだとしたら、私だったら『キチジローがウザいロドリゴの話』にしますね。『先輩がウザい後輩の話』、今期のイチオシアニメですよ。おすすめです。

その後、ロドリゴが見ている前で踏絵が行われます。4人の囚人達が順番に名前を呼ばれ、絵を踏むように言われるんですが、全員踏もうとしません。4人が戻ろうとしたタイミングで、あの片目のジュアンが突然、役人によって刀で首を落とされてしまいます。


ぎゃあああああああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!


もう、衝撃ですよね。『鬼滅の刃』じゃないんだから!って思いますよね。鬼滅の刃は人を食う鬼の首を落とす話ですが、ジュアンは絵を踏まなかっただけで斬首ですからね?炭治郎もビックリですよ。

役人は見せしめで殺したわけなんですね〜そして言うわけです。「心から踏めとは言わん、形だけ踏んでもお前たちの信心に傷はつかないだろう」と。


ちなみにですね、その場にいたキチジローは普通に踏んで難を逃れました。


    た

        お  

            ま

                 え

                      か

                            。



お前さっき、涙ながらに懺悔したばっかりやないかい!もうさあ、逆に凄すい。心臓に毛が生えまくってるやろ?そこでロドリゴが見てんねんぞ?

文字通りの鋼のメンタルですね。国家錬金術師になったら間違いなく「鋼」の二つ名をもらえますよ。

ロドリゴは「ですよねー」って感じでキチジローを完全に見限ります。そりゃそうですよね。そしてこの惨劇を見てまた思うんです。「神よ、なぜ黙っているのか?」と。あなたのために命を捨てた人間がいるのになぜ?と。

キリストが十字架で死んだ時は、大地が揺れ、神殿の垂れ幕が真っ二つに裂けたわけですが、それと比べてなんと哀れでみすぼらしいことか・・・と、絶望に絶望を重ねることとなるのです。


さて、次第に追い込まれていくロドリゴ、この後一体どうなってしまうのでしょうか?

次回、あらすじ編最終回です。ちゃんと完結させますので乞うご期待。

それではまた!





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