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【番外編】遠藤周作『沈黙』をゆるく解説(あらすじ編①)

■はじめに

みなさんこんばんは。11月になり、今年も終わりに近づいてきますね。

今回は番外編として、カトリック教徒として知られる作家、遠藤周作の代表作である『沈黙』を取り上げます。

私はあまり本を読む方ではなく、とりわけ小説はほとんど読む習慣がありませんが、遠藤周作に関してはそこそこ作品を読んでいます。この度、10年ぶりくらいに読み直し、解説記事を書こうと思い立ちました。

『沈黙』は1966年に発表された遠藤周作の代表作であり、日本を代表するキリスト教文学作品として、日本国内のみならず海外でも高い評価を受けています。

映画にもなっていて、1971年版と2016年版があります。私は2016年版を観ましたが、非常に素晴らしい作品でした。

今回はnoteであらすじの概説と、自分なりの感想及び解説を、3回に分けてお送りします。

はじめに断っておきますが、ネタバレを含みますので、ネタバレが嫌な方はそっと回れ右をしてください。できるだけゆるく、そして簡潔にまとめるつもりですのでよろしくお願いします。

■フェレイラの棄教

舞台は17世紀、江戸時代初期の長崎です。あの日本史上に残る大規模一揆、「島原の乱」が起こった直後という設定ですね。キリシタンが中心となって起こった内乱でしたので、幕府はより一層キリシタンの弾圧を強めていった時代です。

そんな時代、海の向こうのポルトガルにあるイエズス会のもとへ、ある一通の手紙が届くことろからこの物語は始まります。

その手紙の内容は、「日本で宣教活動をしていた司祭、フェレイラが『穴吊り』なる拷問を受け、ついに棄教した」というものでした。この手紙にイエズス会士達は衝撃を受けるわけなんですね。

フェレイラという神父はとても信仰に篤く、熱心に宣教活動をしていたと伝えられていましたし、後輩司祭の面倒見もよく、多くの人に尊敬されていた人物なわけです。だから、フェレイラを師としていた司祭の一人、ロドリゴは思うんです。「あのフェレイラ先生が棄教するなんてありえない!」と。このロドリゴがこの物語の主人公です。

■日本へ

ロドリゴは同僚のガルペマルタという二人の司祭とともに日本へ渡り、真相を確かめに行くことにしました。もちろんイエズス会の上の人たちは反対しました。弾圧の強まった日本に行くなんて危険だ!と。しかも、飛行機なんてない時代ですから、何か月もかけて船に乗っていくわけです。文字通り命がけの渡航なわけです。そりゃあ止めますよね。でも最終的にはロドリゴ達の熱に押されて渡航は許可されることとなりました。

ここからはロドリゴが祖国へ宛てた「書簡」という形で話が進んでいきます。

ロドリゴ一行は祖国ポルトガルからアフリカ大陸を迂回して、インドのゴア、さらにマカオへと向かいます。マカオは当時ポルトガルの植民地でしたから、ポルトガル人も多く滞在していて、いろいろな情報を手に入れやすかったんですね。一行はそこでヴァリニャーノという司祭に出会い、日本の実情などについて情報を得ることになったのですが、ヴァリニャーノは言うわけです。「日本に行くのはやめとけ」と。日本はキリシタンの弾圧が凄惨で、宣教師たちはみな海外追放されてますからね。「伴天連追放令」とか有名ですよね。そして、長崎には「イノウエ」という名の奉行がいると話すんです。

実はですね、冒頭のイエズス会に来たフェレイラが棄教したことが書かれた手紙にも奉行の名前があったんです。その名は「竹中采女(うねめ)」といい、かなり厳しい拷問を信者たちに行った、とにかく恐ろしい人物という記述だったのですが、この「イノウエ」なる人物は、竹中とは対照的に穏やかな気性の人物だというんですね。しかもなんと、イノウエは「転び(棄教)キリシタン」、つまり「元キリシタン」であるというのです。そんな人物が長崎のキリシタン弾圧の中心を担っていると。なんとも奇妙な話にロドリゴは驚きます。

そんな中、日本へ行くための船を探している間に、ロドリゴ一行はここで初めてとある日本人と出会います。その名はキチジロー。きましたね。この物語のキーパーソン中のキーパーソン。もう裏主人公、『魔法少女まどか☆マギカ』でいえば暁美ほむらのようなポジションのキャラです。いったいどんな人物なのか。

一言でいえば「薄汚いヘタレ」ですね。言いすぎですかね。でもほんとにそんな感じなんですよ。粗末な服を着て、歯が黄色くて、薄ら笑いを浮かべてるんですね~

それでいて臆病でお調子者、加えて大酒飲み。とんでもないヘタレですよね。どうやらキチジローは肥前出身で、漂流していたところをポルトガル船に助けられてマカオに滞在してたらしいんですが、日本に帰りたいということで、どう見ても信用ならない男なんですが、ロドリゴ達は未知の国である日本へ航るにあたり、水先案内人がやはり必要ということでキチジローも同行させることにしたんです。

そしていよいよ日本へ向けて出発するんですが、キチジローは相変わらずのヘタレっぷりで、船酔いしてゲーゲー吐いて、きったない吐瀉物にまみれてるんです。ロドリゴも「ほんとにこいつを連れてきてよかったのか?」なんて思ってるわけですよ。

でも、キチジローは吐いて朦朧としている中で、なにやらつぶやくんです。「・・・サンタ・・・マリア・・・・」

もちろんこれはユースケのことではありません。聖母マリアのことですね。「もしかしてこいつ信徒なんじゃないか?」と思って本人に「お前信者か?」と聞くんですけど、はいともいいえとも言わず「ヒヒッ・・・」と薄ら笑いを浮かべるわけです。キモオタかよ!ってね。思わず突っ込んじゃいたくなりますよね。

そんな中、なんと不運にもマルタが当時流行していた感染症、「マラリヤ」にかかってしまうんですね~これは痛い。大航海時代から、こうした長期の船旅は常に死と隣り合わせですね。栄養も十分に摂取できませんし、衛生状態も悪いですからね。結局最終的に、このマルタは助からず亡くなってしまいます。カトリック的に言えば「帰天」したということですね。

■トモギ村

長い長い船旅の末、一行はついに日本へ降り立ちます。キチジローに先に調べに行ってもらったところ、数名の日本人がやってきます。その一人が「モキチ」という若者でした。彼曰く、この地は「トモギ村」という、長崎からは離れた場所にある貧しい農村とのことでした。この村にはかつて外国人の司祭がいたそうなのですが、追放されて以来6年もの間、村人たちはキリシタンの信仰を守り続けていたそうなんです。

聞くところによると、信仰を維持するために、村人達は独自の信徒組織を作ったそうなんですね。組織のトップは「じいさま」と呼ばれ、司祭の代わりに洗礼を授ける役。その下は「とっさま」は祈りやキリスト教の教えを信者たちに説く役。その下に「み弟子」という補佐的な役があるということでした。

モキチたちはロドリゴとガルペを歓迎するわけです。なにせ6年ぶりに会った神父様ですから。「パードレ、パードレ」と呼んで、涙ながらに喜んだんです。ちなみに「パードレ(padre)」とはポルトガル語やスペイン語で「神父」を表す語。英語のfatherに当たる言葉です。

ロドリゴとガルペは小さな炭小屋に隠れながら、毎日のように通ってくる信者たちとミサをしたり、説教したり、告解(ゆるしの秘跡、俗にいう「懺悔」)の秘跡を執り行ったりしました。司祭としての務めを果たしながらフェレイラの情報を集めようとしますがなかなか情報は集まりません。

そんななか、炭小屋にイチマツという男がやってきます。彼はトモギ村の人間ではなく、五島の人間でした。潜伏キリシタンといえば、のあの五島ですね。そんな彼からあの男、そう、キチジローの情報を聞くんですね。

そういえばいつの間にか消えたなキチジローは?と。後でも言及しますがこのキチジローはとにかく神出鬼没、出てくるたびに「またお前か」って突っ込みを入れたくなるんです。『ご注文はうさぎですか?』の青山ブルーマウンテン張りの神出鬼没さですよ。

イチマツ曰く、キチジローは自分と同じ五島の出身で、転びキリシタン、つまり棄教者だというのです。キチジローは年前に兄妹とともに取り調べを受け、踏み絵を踏まされ、彼は棄教を宣言して逃げ延び、兄と妹は殉教したとのこと。そうか、だから「お前は信徒か?」と尋ねると曖昧な態度だったわけですね。

五島ではいまだに多くの信徒がいると聞いたロドリゴは、五島へ行くこととなります。そこでキチジローとは再会するんですが、相変わらずのお調子者の様子。ロドリゴはここでも大歓迎されました。「パードレ!パードレ!」ってね。もはや大スターですよ。ロドリゴは数多くの信徒と交流し、洗礼に告解、ミサにと大忙しです。秘跡やミサは司祭でなければ執り行うことはできませんから、信徒たちにとっては本当にうれしかったでしょうね。信徒達は十字架やロザリオ、メダイを欲しがったんですけど、あいにく持ち合わせていなかったので、ロドリゴは自分の持っていたロザリオをバラして、その玉を一つ一つ信徒たちに渡していくんですね~それを大切に信徒たちが持ち帰るんです。すごいですよね。そもそもロザリオをばらしてること自体がどうなんだ?と私なんかは思うんですが、これこそ信仰ですよね。

■役人の探索、取り調べ

6日間の滞在を終えてトモギ村へ戻ると、なんと大変な状況になっていました。そう、役人たちがやってきて、キリシタンの探索が始まっていたんです。役人たちは、「キリシタンを捕まえたら銀100枚やるぞ!」とか「年貢を減らしてやるぞ!」とか、ご褒美をちらつかせて信者をあぶりだそうとするんですね。いや~恐ろしいですね。なんとかキリシタンであることを隠してその場は逃れたものの、その後も役人たちはその後も何度か調査にやってきます。そして「村人から3名、出頭せよ」と命じます。

誰が行くのか?そこで名乗り出たのがモキチ、村の中心人物である若者ですね。それと同じく中心人物で年輩のイチゾウ、そしてなぜかよそ者のはずなのにロドリゴについてきたキチジローの3名です。

キチジロー、

ま   た   お   ま   え   か。


おまえ五島の人間ちゃうんかい?と。なんでしれっとトモギ村におんねん?と。

そして3人は取り調べを受けるんですね。出頭する前に3人はロドリゴに相談します。「パードレ、わしらは踏み絵を踏めと言われたらどうすれば?」と。ロドリゴはやむを得ないことだから踏んでもいい、と話すんですね。恐らくは踏んだ後、ロドリゴのもとにやってきて告解すればOK、という考えだったのでしょう。

取り調べで踏み絵を踏めと言われた3人は、ロドリゴの言う通り踏みます。これで一安心、あとは帰ってパードレに告解すれば・・・と思ったらですね、


「甘いわ!!!!!!!!!!!!!」と言わんばかりに、役人は「お前ら、まさかそれで逃れられると思うなよ?踏むときにちょっと足が震えてたぞ?わしは見逃さなかったぞ?」と言うんです。怖すぎる。なんなんですかこの役人は。『白い砂のアクアトープ』の副館長張りの厳格さと徹底ぶりですよ。基本的人権も信教の自由もない時代、怖っ!って思いますよね。

そして続けるんです。「この絵に唾を吐きかけろ。そして聖母に対して侮辱的な言葉を吐いてみろ。」と。この「侮辱的な言葉」は相当過激な言葉なので、ここでは自主規制しますね。気になる方はぜひ本作を読んでみてください。

これを言われたモキチとイチゾウは震えながら泣き出すんですね。「そんなことはいくらなんでもできない・・・」と。

一方そのころキチジローはですね、フツーに唾吐いて聖母を侮辱しました。

・・・いや、やるんかい!また自分だけ逃れとるやん!兄貴と妹の時と全く同じやないか!スラムダンクの安西先生に言わせるところの「まるで成長していない・・・・」ってやつですよ。

結局キチジローは釈放、モキチとイチゾウは水磔(すいたく)の刑に処されることとなりました。水磔とは何ぞや?これですよね。これは小説を読んでもイメージしにくいかもしれません。なので是非映画を見ていただきたい。それはもう、とんでもない拷問ですよ。

画像も見つけたので貼っておきます。

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海辺に十字架を立てて、そこに縄で縛りつけるんですね。そのまましばらく放置しておくと、潮が満ちて水位がどんどん上がり、海水が体を飲み込んでいき、最終的には水没して死に至るというものです。一瞬で殺すのではなく、徐々に水が上がっていくことによって恐怖心を与えるもの。長時間苦しみ続ける、とんでもなく残酷な刑です。いっそ首を切り落としてくれた方が楽ですよね。

この水磔によって、モキチとイチゾウは殉教します。村人たちは水磔に処される二人の様子を見ているわけです。見せしめの処刑ですよね。こうすることによってほかの村人たちにも棄教を促すという意味があります。

・・・いや~本当に悲しいですね。

そしてロドリゴとガルペは話し合います。このままではまずいと。外国人宣教師がいると知られたらとんでもないことになる。ここはひとまず二手に分かれようということになります。

ガルペは平戸へ行き、ロドリゴも村を離れるんですね。あてもなく、誰もいない村、山の中、あちこち放浪するわけです。食べ物も何も持っていないのでお腹もすいて、喉も渇いて、もうぶっ倒れそうな状態になったとき、

「おーい、パードレ~」

向こうから声がするわけです。そして見覚えのある顔がこっちへ近づいてくるんですね。



そう。キチジローです。


ま     た     お      ま      え      か


お前、絶対複数人に分裂しとるやろ!それともあれかな、ドッペルゲンガーかな?影武者かな?どんだけロドリゴとのエンカウント率高いねん!初代ポケモンにおけるコラッタ(Lv.2)張りの出現率やないかい!

キチジローは「久しぶり~」みたいな感じで近づいてくるわけですよ。ロドリゴもさすがに疑うんです。「こいつ、俺の居場所を役人に言うつもりなんじゃないか?俺を売るつもりなんじゃないか?」と。

そんな思いを尻目に、キチジローは持っていた袋から干した魚を出して、焚火をして焼き始めるんですね。ロドリゴはもうめちゃくちゃ空腹ですから魚の焼けるにおいによだれダラダラなわけですよ。キチジローに「どうぞ食べてください」と言われて、ものすごい勢いで魚にかぶりつくんです。「ドラゴンボール」の悟空の食事シーン張りに勢いよく平らげるんです。食事が終わると、ロドリゴは喉の渇きを訴えるんですね。それを聞いてキチジローは「ちょっと待っててください」と言って、川の方へ降りていくんですね。ロドリゴはキチジローを疑ってますから、「ひょっとしたら役人を連れてくるのでは?今のうちに逃げたらいいのでは?」という思いがよぎりますが、キチジローは竹の筒に水を汲んで戻ってきたんです。

「よかった~キチジロー、お前いいやつやないか!」ってな感じで、水を飲ませてもらって、いろいろと話すんですね。踏み絵を踏んでしまったこと、後悔してるんです、俺は弱い人間なんです、モキチやイチゾウのように強い人間ではないんです、と。それを聞いたロドリゴは「告解をしないか」とキチジローにいうんです。キチジローはそれを受けて、ロドリゴと一緒に祈りを唱えるんです。

ああ、キチジローはちゃんと改心して、悔い改めたんだなと。私はこのシーンを読んで感動しましたね。そうだよ、それでいいんだよキチジロー、と。

ところがこの後とんでもないことが起きるんですね。

ロドリゴとキチジローが祈っていると、何やら数人の足音が聞こえてくるんですね。こっちに誰かが近づいてくる。

キチジローは言います。「パードレ、許して、つかわさい(ゆるしてください)」

そう、なんと、ロドリゴはキチジローの密告によって、ついに役人につかまってしまうんです。

・・・・・



おい、おい、おい。

キチジローよ。ちょっと待ってくれよと。

さっきの俺の涙を返せゴルアァァァァァァァ!!!!!!!!

どうしてだよ!なんで、おまえ、ほんとさぁ・・・・・

初めて読んだときは開いた口がふさがりませんでしたよ。

キチジローェ・・・・

先ほどキリシタンを密告すれば銀100枚という役人の言葉がありましたが、パードレを密告したら銀300枚なんだそうです。キチジローはお金が欲しくてやったのか?それはわかりません。

ただ、連行されていくロドリゴを見てキチジローは「俺は弱い。俺はモキチやイチゾウのような強い人間にはなれない」と泣きながら叫ぶんです。

・・・切ないですよね~

キチジローは単なるクズでどうしようもない男、とも言い切れないのが、このキチジローのセリフに詰まっていると思いましたね。


さて、捕まってしまったロドリゴはこの後、どんな運命をたどるのでしょうか?次回、「あらすじ編②」に続きます。

それではまた!

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