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【推しの聖人】~「聖人崇敬」の基礎講座~(後編)

前編はこちら


■聖人崇敬の実例①洗礼名

かな「さあ、大分時間が経ってしまったけど、後編いくわよ!」

ルビー「聖人崇敬の基本は分かったんだけど、実際崇敬ってどんなことが行われているのかな?」

かな「聖人崇敬は、前回ルビーも言っていたように、アイドルの『推し活』に近いものがあるの。」

アクア「例えばどんなものがあるんだ?」

かな「最もわかりやすいのは洗礼名ね。」

ルビー「洗礼を受けると名前をもらえるんだよね?」

かな「そう。前回も少し触れたけど、これは聖人崇敬の概念がある教派で行われる慣習ね。洗礼を受けるための準備期間の段階で、好きな洗礼名を自分につけることができるの。『この聖人のように生きたい』と思うものを自分で選んでもいいし、神父さんに考えてもらったり、教会の先輩信徒に考えてもらったりと、その手段は問わない。」

アクア「いわば自分が『推している』聖人を自分の名前として付けることができるというわけだな。」

かな「そう。有名人で洗礼名を持っている人として、例えば将棋棋士の加藤一二三さんは『パウロ』、元総理大臣の麻生太郎さんは『フランシスコ』という洗礼名ね。いずれも有名な聖人から取られている。ちなみに洗礼名は聖人由来でなくてもいいの。例えば戦国武将・明智光秀の娘・細川ガラシャの『ガラシャ』はラテン語で『恩寵・神の恵み』という意味だし、キリシタン大名として有名な高山右近の洗礼名『ユスト』はポルトガル語で『正義の人』といった意味なの。」

ルビー「へえ。その辺は結構自由なんだね。そういえば、外国人の名前って結構聖書や聖人に由来してるみたいだよね。」

かな「ええ。例えば『ジョン』という男性名は使徒ヨハネに由来するものだし、『ポール』はパウロ、『メアリー』は聖母マリア。この辺りは挙げればきりがないけど、洗礼名ではなく、本来の名前も聖人由来なものは多いわね。洗礼名を付けないプロテスタントの人であっても、こういった名前の人たちは多いから実質洗礼名をつけているのと変わりないわね。」

アクア「人名もそうだが地名もじゃないか?サンフランシスコ(聖フランシスコ)とか、サンパウロ(聖パウロ)とか。」

かな「そうよ。そう考えると聖人崇敬はかなり身近なものってわかるでしょ?他にも聖人ネタが由来の国旗のデザインなんかもあるしね。」

ルビー「『推し活』は身近なんだよ!だからアイドルオタクを悪く言うのはやめようね!」

かな「いやいや、話が飛躍しすぎだから。」

■聖人崇敬の実例②守護聖人

かな「続いては守護聖人ね。これは聖人が特定の国や地域、職業を、それとゆかりのある聖人が守護しているという思想ね。」

アクア「ちょっと知ってるぞ。アイルランドの守護聖人聖パトリックデーとか有名だしな。」

かな「さすが博識なアクアね。アイルランドにカトリックの教えを広め、アイルランドの守護聖人となった聖パトリック。彼の命日である3月17日は祝祭日として、国中がアイルランドのナショナルカラーである緑一色になるの。さらに、シャムロック(三つ葉のクローバー)もモチーフとして多く使われるわ。」

ルビー「シャムロックにはどういう意味があるの?」

かな「聖パトリックが布教活動をする際、シャムロックを用いていたことが由来なの。三つの葉っぱを『三位一体』を伝える象徴として使っていたらしいわ。三位一体についてはこの記事も参考にするといいわよ。」

アクア「緑色やシャムロックといった象徴的なものを掲げて祝うのはまさに『推し活』だな。」

ルビー「地域に守護聖人がいるのは何となくイメージできるけど、職業にも守護聖人があるんだね。ってことは私たちみたいな芸能人にも守護聖人がいるのかな?」

アクア「いやいや、そんなものあるわけないだろ。」

かな「ふふん・・・それが、あるんだな、これが。」

アクア&ルビー「あるんかい!!!!!?????」

かな「芸能人、っていうと少々あいまいなんだけど・・・例えば私やアクアのように俳優業をやっている人間には『聖ヴィトゥス』という守護聖人がいる。かつて聖ヴィトゥスの祝日には踊ってお祝いをする習慣があったことから、踊りにまつわる職業、ダンサーや俳優といった職業の守護聖人となったの。」

アクア「なんだか少々強引な気もするな。」

かな「そこが面白いところなのよ。例えばニヴェルの聖ゲルトルードという聖人は、修道女として祈りをささげていた時、ネズミが彼女の体に這い寄ってきても気づかないほど熱心だったことから『ネズミに対する恐怖』への守護聖人だったりするわ」

ルビー「面白い!なんだかこういうのって日本人にも馴染みそうな気がする。例えば神社に行って『この神社の神様はこういったことにご利益があります』っていうじゃない?それに近い感じがする。」

かな「そこについては厳密にいえば違う概念だし、異論ももちろんあるだろうけど、私も同意するわ。神様や神聖なものをみぢかなものの守護者として当てはめるのって、日本人のお家芸だからね。守護聖人はとにかく幅が広くて膨大。調べるだけでも面白いから、ぜひ調べてみてね。ここのサイトが参考になるわよ。」

https://shop.thesacredsecret.com/?mode=f177

アクア「ちらっと見たけど、マジで多すぎるな・・・森羅万象が何かしらの聖人によって守護されてそうだ。」

■聖人崇敬の実例③聖遺物

かな「最後に紹介する『推し活』、それは聖遺物ね。」

ルビー「わかった!聖人が残した遺品を大切にしようっていう習慣のことでしょ!」

かな「そうね。それもあるけど、そんなレベルのものだけでは収まらないのよ。聖遺物の中でもとりわけ崇敬されるのは聖人の遺体や遺骨!!!」


聖ウルスラの遺骨とされる聖遺物

アクア「なんだか急にホラー要素になってないか?」

かな「これに関してもかなり数が膨大にわたるから、一つだけ紹介しておくわね。東京にあるカトリック神田教会には、あのフランシスコ・ザビエルの遺骨が顕示されているの。」


ルビー「へぇー!なんかちょっと見てみたいかも!」

かな「ちなみにフランシスコ・ザビエルは日本の守護聖人。命日である12月3日がザビエルの祝日とされているわ。」

アクア「日本がもしカトリックの国だったら、12月3日はアイルランドでいう聖パトリックデー的な日になっていたかもしれないな。」

かな「この遺骨はおそらく本物だと思うけど、聖遺物は本物かどうか信ぴょう性が薄いものも結構あるわ。例えば『聖十字架』という、イエスが磔にされた十字架そのものとされる破片が世界中で発見されているんだけど、その破片を全部合わせたら、イエスの身長が30mくらいあったとしか思えないほどのバカでかい大きさになってしまうわ。」

アクア「シュールすぎるだろ。」

かな「まあ、これは私の意見だけど、聖遺物にかんしては行き過ぎた面もあるわね。昔から聖遺物は高値で取引されたり、権力者が聖遺物を所有することで自分の権力を誇示することにもつながったりするから。」

ルビー「なにごとも、ほどほどがいいってことですなあ。」

■おわりに

かな「とまあ、色々と聖人崇敬の実例を見てきたわけだけど、要するに聖人崇敬っていうのはキリスト教の長い歴史の中ではぐくまれてきた文化であり、『聖伝』の最たるものだということね。」


ルビー「せいでん?」

かな「聖伝っていうのは。キリスト教の信仰の歴史の中で、信者たちによって受け継がれてきた伝承のこと。平たく言えば文化よ。聖人を敬うという文化の中で生まれてきた聖人のお祭りや聖遺物、洗礼名、守護聖人・・・それらは聖書にはない、キリスト教の長い歴史が生んだ産物ってこと。」

アクア「聖書にはない、っていうことは逆に言えばプロテスタントからは批判の対象になりやすいってことだな。」

かな「そうね。プロテスタントは『聖書のみ』だから、聖書に根拠のないものは退ける。それはそれで一つの考え方だと思うけど、いたずらに批判だけするのではなく、『そういう考え方もあるのだ』という理解は最低限、持っててほしいわね。聖人崇敬をする教派は『聖書だけでなく、聖伝も大切にする』っていう立場なんだから。」

ルビー「そうだね!とりあえず私的には、アイは今すぐ聖人になるべきだと思います!アイドルの守護聖人として!」

アクア「それには同意だな。」

かな「アクアって頭がいいのか悪いのか、たまにわからなくなるわ・・・」

おわり

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