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オヤシロ

八咫烏の尾を追い潜った鳥居に刻まれた相合傘傷、を塗潰す罰印墨。
小指で傷を辿りますれば爪の先端が燃殻に擬態を始めた。
焦臭さに顔を顰める奥歯を噛み、振返る先には寂しそうな手鞠。彼女のあるじの呼吸は随分前に霞に喰らわれたのだという。

曇天は益々に機嫌を傾けてゆくらしい。肌寒く、然し蒸れた、窒素の大群は籠女籠女と輪になり囃す。
風物詩、交尾乞います絶叫。真昼間に鼓膜を掴んで爪を立てていた蝉鳴の外郭は、歩を進める毎に置き去りとされて。

己の影にちうちうと吸付いて革靴踵より正気を飲もうとするは何方様。
石段を淡々と探索しますと、虎視眈眈、散々に禿げた参羽の鳩が、千切れた御籤紙を啄む振りで目玉を剥く。

何処ぞから流れたシヤボン玉、弾けて。目が眩む。
一幕降りたか真ッ暗のもと、八咫烏を探す。生き戻りたくて。息も取り上げて。

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