学校のカイダン
私は、幽霊を見る能力がないようです。しかし、その存在を感じることはできるようです。シンボリックに言えば、上に示した2つの赤い目とでも言えるでしょうか。見えはしませんが、背後に感じるのです。この視線により、背中を射抜かれる感じがするのです。
もちろん熱さや痛みなどありません。しかし、レーザー光線でも当たっているかのように、ジリジリ音が出ている感じです。目の前に現れるより、恐怖感があります。かえって急に目の前に出現して「オバケだジョー!」とやってくれる方がいいと思います。
背後からあの目で見つめ、薄ら笑いでも浮かべているなどと想像すると、かなりの恐怖感を感じます。もし、生命体ではない存在が草葉の陰から見つめているのなら、その実体は見えない方がいいのです。また、急に出てきて脅かすのは、あまりいい趣味ではありませんね。やはり、寒気を覚えさせる奥ゆかしさが、幽霊たる所以と言えるでしょう。
かつて、何人か霊体がはっきり見える人との出会いがありました。興味本心で、出る場所に連れていってもらったことがあります。だいたいが若い女性でした。出るという場所に着くと、一点をまっすぐ指さします。
「清掃用具ロッカーの上に、制服を着た女の子が立っています。見えませんか?」
落ち着いた口調で言うのです。ロッカーの上に何も見えません。何ヶ所か、こうしたスポットに連れていってもらいましたが、結果は同様でした。見えないがいるということに、恐怖感が増していきました。彼女は、さもありなんと、極めて冷静でした。
次は同年代の男性の話。学校内の廊下を歩き、保健室の横を通りかかった瞬間、女子生徒の呟くような小声て、耳元に「センセ!」と呼びかけられるとか。授業が終わり、職員室に戻る時も、同じ場所、同じ方向から「センセ!」と聞こえるそうです。その動揺ぶりを目撃していた人の、証言があります。
さて私は、見えも聞こえもしません。しかし、存在の圧力は感じます。寝ている時、掛け布団に異様な重さを感じたり、じっと見られている感じがするのです。いわゆるプレッシャーを感じるタイプなのです。
寝ている時の「金縛り」は、見えない手で肩を押し付けられ、抑え込まれている感じです。よく幽体離脱とも言われますが、半覚醒状態で体の自由が効かない状態なのだろうと思われます。割と冷徹に受け止めます。
その解き方は、私の場合、声なき声で唸り続けることです。気がつくと、枕から頭を浮かせて大きな口をポッカリ開けている状態で停止している覚醒した自分に気づきます。今まで、何回も経験しました。ヘトヘトに疲れているのに関わらず眠りが浅い時、この奇妙な現象が起きる傾向があるようです。
某中学校に勤務していた時のことです。3年生担当ともなれば、退勤時刻は、いつも午後9時を過ぎていました。そんな時刻ともなれば、広い職員室には、3年部スタッフしかいなくなります。他学年は、せいぜい7時を過ぎれば、さっさと帰ります。
午後9時の時計を全員が見ます。その時!3年部横の天井まで続く小高い窓ガラスが、突然大きく揺れ出します。地震で言うと震度4ぐらいですが、縦に長いガラス窓ゆえに、かなり激しい揺れに見えました。その時、他の学年横の窓は微動だにしていません。揺れているのは、3年部横の窓だけなのです。
この経験は、個人的な思い込みにあらず。12人ほどの集団による共通体験に他なりません。初心者が慌てふためく反面、ベテランの学年主任が「そろそろ帰れってことだな」と呑気なことを言い、それに合わせて全員が帰り支度をするという按配でした。この怪奇現象を起こした奴は、期待していた反応が得られず、さぞや落胆してることでしょう。
さていよいよ私の個人的な経験談を述べようかと思います。私一人だけの体験です。
外は暴風雪警報が出されるぐらい、雪が横から吹きつけてくる冬の夜遅くのことです。私たち2名に「閉門当番」の役目が回ってきました。だだっ広い校舎を二手に分かれて施錠を確認して、最後には生徒玄関で落ちあって、入口を閉めて完了します。
寒いし、風音が不気味だったので、できるだけ早く終わらせようと、小走りで巡回しました。残りは3年棟2階だけになった時、階下から奴の「目」を感じました。
3Eは、階段横にあって、清掃用具ロッカーの上には、いると聞いていました。ロッカーの上を見ないように、窓の鍵を手で確かめていきます。その教室の出入口は、ひとつだけ。窓際を移動していた時に、背後の出入口に真っ赤な「目」の存在に気づきました。
ブルっと震えたのは、寒さと怖さが入り混じったからです。ここで追い詰められてはと
思い、「誰だ!?」と懐中電灯の光を浴びせて、意を決して入口に向かおうとしました。その時、確かに階段を駆け降りる音がしました。ペタペタと音がしたようでした。
すぐに3Eから、3Fの後ろ側入口に、素早く突入。階段をペタペタと上る音がして、私が入った3F後ろから、赤い「目」が現れました。それでも素早く鍵のチェックをして奴より早く、3Gへ。後出入口から、怒りを強めた赤い目が、今にも飛びかからんと私の背中を直視しています。
外の暴風がピークを迎え、窓を破らんとして、校舎の2階も揺らしました。
その時、本能的に危機を感じました。奴が太い唸り声を出したのです。とっさの判断で後ろを振り返らず、ただただ前を向いて全力で逃げ出しました。
不覚にも階段から足を踏み外して、途中の踊り場まで転げ落ちました。上から赤い目が見ているのを察知して、捕まってたまるかと残りをジャンプで飛び降りて、眩しい職員室に踊り込みました。そして、入ってすぐに、へたり込みました。
「どうしました? 何かありました?」
後輩の冷静な質問に答えられず、3年棟を指差すことしかできませんでした。後輩数人が見に行ったけれど、誰もおらず、何の異常もなかったとのこと。
背後に感じただけでしたが、あの赤い目には、間違いなく悪意を感じました。何だったのか、未だに不明です。話をしても、怖がる人はほとんどいません。
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