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ウルティマオンライン戦士編「初めてのダンジョン」

「大体の経緯はわかりました。どんなモンスターなら、戦えそうですか?」先生の質問はこうだった。

ええと…。ヘイブンの坑道の、土エレなら…
あれは騎士と武士のスキルを習った時に練習したことがある。

「ああ、『訓練用からくり人形』と言われるやつですね」

確かに動きは単調だし遅いし、そうかもしれないけど!あれだって結構大変なのに!

「ほかに、戦ったことのあるモンスターは?ハーピーや、ガーゴイルはどうです?」

いや、あれは怖いです。ハーピーのあの爪だし、空は飛ぶし、ガーゴイルは魔法撃つし…

「じゃあ、モンバットは?」
あ、それは大丈夫です、いくら私でも、モンバットなら木こり中に倒したことぐらいあります。

「じゃ、モンバットですね。明日、ダンジョンに行きましょう、準備しておいてください」

ダンジョン?準備?私が?

「あー。武器も、防具もないですよね。そのあたりは私が用意しておきますから、ポーションとか、包帯、秘薬とかですね。かばんに詰めておいてください。私の作業部屋にポーションの樽がありますからね」」

とりあえずポーションは先生の作業部屋の掃除のついでに、赤いのと黄色いの、それから黒いのをかばんに入れた。着替えもいるかな…。
動きやすい服装がいいだろう、長いズボン、長そでのシャツ。
秘薬に、ハサミに包帯。皮が取れたら、持って帰れるかなあ…。

朝食後に、先生が、手早く私に緑の皮で出来た鎧セットを着せた。
「まあ、いいでしょう」
なんだか硬い…。動きづらい。
「色々な加工がしてありますからね。慣れるまで着るしかありませんよ」

「はい、これを装備してください」
斧?なんかとてもでっかい斧だ。私が木を伐るのに使っている手斧とは違う、両刃の、そして柄の両側に刃がついている。
重い!

「はいじゃあ、行先は、ファイアダンジョン。ラヴァダンジョンとも呼ばれます。まず、水晶玉の前で「fel Dungeon fire」こう唱えて、着いた場所で待機してください」

きょろきょろしていると、先生が到着。

「はい、じゃあ、行きますよ、ちゃんとついて来てください」

ちょっと、先生心の準備が!
先生の背中が、薄闇に浮かぶ。
先生のマントは、いつもはチャコールグレイなのに、今日は白い。

馬が下りられるギリギリの狭い坂道を降り、橋を渡り…怖い。
怖い、何の声なんだろう、聞いたことのない音、こげくさい匂いもするし、なんだかぬるい風が顔に当たる。
ダンジョン…怖い。怖いって。
馬の足元を、大きな蛇がすり抜けていく。
声も出ない。先生が一刀両断に蛇を殺した。

「しっかり前を見て!」
は、はい。
声が震える。

先生が扉をあけた。きしんで、開く扉。
がーーん、と閉まる音がまるで、閉じ込められたようだ。

ふっ。と真っ暗になった。
「!みっ」
思わず悲鳴が出た。
鼻をつままれてもわからないような、暗闇とはこのことだろう。
自分の手がどこにあるかすらわからない、真の闇。
ど、どうしよう、何にも見えない!

えっと、えっと、えっと!
カバン。自分のかばん。
あ、斧、斧落ちた?
馬からとりあえずおりて……

うわあん、何の声これ、先生は?
馬に、もう一回乗らないと、手綱は?これは馬のたてがみ?

真っ暗な中で、おろおろとして、その後のことは、もう覚えていない。

***
気が付いたら、先生が目の前にいて、私にヒールをかけていた。
黒いポーションを差し出されたので、飲んだ。
「はい、これ荷物。回収しておきましたよ」

ありがとうございます…。

「で、どうしたんです?」

私は先生に、蘇生してもらったみたい。
…っていうことは死んだのだね…。
まだ、なんか頭がはっきりしない。

確か、まっくらで…ポーション飲まないと、と思ったらかばんがどこにいったかわかんなくて、斧落として、馬から降りてさがして、
ええと、えっと…

「ごちゃごちゃいってますが、早い話が、暗くなってびびって、動転して、モンスターにやられたんですね、つまり」

はい、大体あってると思います!

「きびきび返事をすればいいというものではありませんよ!ったく。着替え、もってるなら着替えた方がいいですよ、もってないなら、もうそのローブ着たままでいいです、風邪ひきますからね!ほんっとにもう、次はもうちょっと準備しますから、今日は帰りましょう」
「ちゃんとついて来ないと、置いて帰りますよ!」

うあ、それは困ります!方向音痴なのに!
黒いポーションのおかげなのか、もう、あんなに真っ暗にはならなかった。

***
「はい、これを耳に」

先生が渡してくれたのは、黒い石のついたイヤリング。

見上げた私に、
「ったく、真っ暗になっただけでその場で動けなくなるなんて思いませんでしたよ。これを付けておけば、真っ暗にはならない、「夜目のイヤリング」というアイテムです。明日はこれを付けて行きましょう」

すごい…こんなアイテムがあるなんて、聞いたこともなかった。

「なんです、そんなすごいもんじゃないですよ、クリナップブリタニアキャンペーンの景品ですからね」

先生は面白そうに笑っていた。大したこっちゃありませんよ、なんて。
いや、あれは私も、ちょっとやってみたことがある。そのあたりにある物を放り込んだところで、2点とか4点とか…

先生、これ、何点の賞品なんですか?

「5000点でしたかね、そんな高い点数じゃないです」

ごせんてんーー???
すっごい点数だ。試みに皮鎧をセットで放り込んでも、40点も行かなかったと聞いたことがある。

「なんなら、もう2、3個、予備に渡しておきましょうか」

い、いえ、結構です!ちゃんと保険します!

目をむいてびっくりした私の顔をみて、あーーはっはっは、と笑いながら先生は部屋を出て行った。

本当に、人を驚かせるのが好きな人だ。
明日もまた、私はダンジョンに連れていかれるのだろう。

今度はどんな驚きが待っているのだろう。
怖い…。怖いけれど。
先生は言うのだ。
「絶対、戦えるようになります」と。

勇気が出せるのだろうか。
イヤリングがきっと、道を照らしてくれる。
もう引き返さない。
だから、最初の、一歩から。

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