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第五回飛鳥文学賞応募作品「冬の祭り」 ウルティマオンライン

食料を貯め、壁に厚手のタペストリーをかけて、絨毯を床に。
暇さえあれば薪を割り、瓶詰を作って、塩漬けに燻製に…。
時間はあっという間に過ぎた。
雨水をためる樽が、雪に埋もれたころ、彼がやってきた。
あたたかい部屋の中でなら、雪嵐のなかで穴を掘ってやり過ごす話や、突然の豪雪に迷子になった羊飼いが、羊の群れの中で暖を取り、救助を待った話を聞いてもさほど恐ろしくはない。珍しい話はいつ聞いてもいいものだ。

王城の周りには冬の祭りの屋台が出るらしい。
そこで供される、果物の香りを付けた甘くてあたたかい赤ワインや、ハチミツ入りの林檎酒、湯気の立つパイ、真っ赤な橇や、色とりどりの箱が飾られたツリーの豪華さの話を聞いた。

王都にはなんて華やかで、美しい冬があるのだろう。
人々は着飾り、冬を楽しむ。夜でも影の出来るようなランタンのきらめきが、目に浮かぶよう。
王都の音楽学校の生徒たちは、街へ出て音楽を演奏し、お金をもらうこともあるのだという。人々が飲み、浮かれ歌う喧噪に、美しい音楽。

幸せなるかな、ブリテンの市民たち。

音と言えば、梢を吹き渡る風の音しかせず、暖炉の火を除けば明かりは小さなランタンひとつ。塩のきいた肉で作ったお決まりのシチューに、自分で作った羊毛のスリッパ。
干しリンゴのパイがおいしくないわけではないけれども…。
オルゴールの音が、低い天井に響いて、眠りを誘うこんな夜には、王都は遠い夢のよう。

「冬の祭りは俺たちだけで祝えばいい、さあ、これを料理しよう」
彼が荷物の中から、肉を出した。

…こんなのどこから?保存用のものではない、生肉。森の動物はすっかり痩せて、冬におびえて用心深い。うさぎや、羊でもない…赤身の、かなり大きいものだ。

「硬いかもしれないから、シチューだな」
見たこともない肉は、それを始末した人の提案に乗るのがいい。

火にかけてゆっくりと煮ている間に、他の物を準備しよう。
まず…あったかいワイン。これは簡単。
瓶を起こし、澱がおさまるのを待てばいい。
果物もリンゴならある。
冬も半ばで、皮にしわが寄っているが、まだ十分。

干し果物のパイは半分残っている。
これを温め直せばいい。
一昨日焼いた丸いパンも熱ければきっともっとおいしい。

「屋台で買ってきた。割れずに持ってこれたのは奇跡だな」
彼が出したのは、かわいいクッキーだった。
「ジンジャーマンクッキー」という名前なんだとか。ショウガが入っているのだろう。

トラメルとフェルッカ、二つの月が同時に天空で出会うという冬の祭りの日は、明日。
鍋の位置を調整して、明日の朝までゆっくり、シチューが煮えるようにしてから、就寝。

まだほの暗い朝のうちから、彼の吹く、調子はずれの口笛が聞こえる。
水を汲む彼は、早起きだ。
ミノック鉱山の仕事歌だという単調なその歌と彼の足音。
この小さな農場が、輪に囲まれた小さな世界のようだ。
雪と、暗いグレーの天球に灯る、蝋燭の小さな灯。

朝の仕事を済ませ、ついでに雪かきをした前庭で薪を割る。
雪はやみ、静かで、かじかんだ手に握ったシャベルの雪を掻き落しながら家に入ると、その温かさに思わず笑みが浮かぶ。
あたたかさが、一番のごちそうだ。

「こんなものも売っているんだ。実用というより、贅沢品だな」
彼が出してくれたのは、きれいな蝋燭だった。
試しに火をつけると、花の匂いがした。

夏に咲く、その花の香りに包まれると、青い空が目に浮かぶ。
あたたかい風、肌にふれる日の光。
ここにないからこそ、こんなに鮮やかなのだろう夏に心をうばわれる。
夏はまた来る。その予感を冬に感じさせるためにこの蝋燭はあるのだろう。
王都の職人さんはすごいことを考えるものだ。

シチューはおいしかった。
熱くて濃厚で、塩漬けではない肉が入ったシチューは冬には滅多に食べられるものではない。狩猟の腕がない者には無縁の贅沢だ。

「これはな、ドラゴンの肉なんだ」
彼の言葉に一瞬、私のスプーンが止まった。
ドラゴン??
火を吐くというあれ?
人が10人並んだほどの大きさがあって、角や羽があるという?

「あっはっは、すまん、驚くと思ってたから黙ってたんだが、つい」
彼が大笑いしている。
彼は、ドラゴンを狩り、その肉を王都で売り、自分たちのために取り分けておいた分をもってきてくれたらしい。

「俺は強いからな」
それはそうだろう…ドラゴンを倒す話は、神話か、おとぎ話だと思っていた。
自慢げに、にやりと笑った彼の顔が、「うまくいった」と言っていた。
きっと驚かせようと思っていたのだろう。

美味しいシチューを食べられることと引き換えに、ちょっと驚かされるぐらいなら、なんでもない。なんだか楽しい気分になって、私も笑う。

赤くて甘い、ワインのせいだけではきっとない。
冬に明るさを。小さな世界に喜びを。
多分今、私達は王都の王様とお妃さまよりも幸せだ。
あたたかく、満たされて春の予感を感じる、冬の祭り。
誰もがみんなこうして、優しい世界の輪の中で暮らせますように。

アバタールのお恵みとともに。

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