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南の島も笑ってる 第6回

2日目。
文中に「トム・クルーズの映画」とありますが、調べてみると「カクテル」という映画でトム・クルーズ演じる主人公が恋人と滝壺で泳ぐシーンがあり、どうもこれのことを言っているようです。

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カヌーを降り、ジャングルの中を歩いていく。暑い、暑い。
それでもしばらく歩いていくとふいに視界が開けた。そこにヒナイサーラの滝があった。
それはまさしく滝であった。50mぐらいだろうか、高い崖の上から一筋の水がどうどうと落ちている。下は大きな岩が固まって滝壺を作っており、50mの高さから落ちている水は容赦なくこの岩々にぶつかっていた。
その形状は強いて言うなら華厳の滝に似ているということになるのだろうが、華厳の滝はこんなには近づけない。
この滝は近づけるどころか、その周りにはお土産物屋はおろか柵も何もなかった。正に手つかずの自然がそこにあった。

滝壺はなかなかの広さだった。それがどうぞ好きに遊んでくださいねーと言わんばかりに我々を誘っているので、おうそれならと早速泳ぐことにした。
思ったより深く、足がつかない場所もあったが冷たくて気持ちいい。この島に来てようやっと涼しい場所にたどり着いたような気がする。
途中熱帯特有のスコールが降ってきたりしたが、我々は気にもせずトム・クルーズの映画よろしくはしゃぎまくっていた。
滝の真下にも行ってみた。滝に打たれ都会のアカを落とす、煩悩を振り払うための修行だ。岩の上で座禅を組み、目を閉じて瞑想に。。。ぐわっ、水の塊が頭の上にどかんどかんと落ちてくる。とてもじゃないが気持ちを落ち着かせる状況ではない。
もう煩悩は振り払えただろう。我々は勝手に解釈して滝下から離れた。

これだけの滝なのに観光客は全然いなかった。そこにいたのは我々2人と家族連れが4人、あとニコンのカメラを首からぶら下げた1人旅っぽい女の人だけであった。
皆さん我々と同じくカヌーでここまで遡ってきたそうである
家族連れは両親と女の子2人であった。女の子たちは俺たちと同じように滝壺できゃあきゃあと騒ぎながら元気一杯泳いでいた。
女の子たちに写真を撮らせてよと頼むと、ちょっとはにかみながらもいい笑顔でポーズをとってくれた。

そんな感じでしばらく滝壺で楽しんだ後、我々はこの滝の上、水の落ちる場所まで上がっていくことにした。
そこまでは一応道が整備されており登ることができる。
さっきのジャングルは平らだったが、今度は登りだ。なかなか険しい。

「明日の予行になりますね」

俺はエガさんに言った。

その「明日」が今回の旅の目的であり、俺が2年連続で西表島旅行を敢行した理由であり、何も知らないエガさんを誘った根拠であった。
それが

西表島縦断ハイク

である。
昨年、キャンプ場で知り合った人から西表島には島を北から南に貫く登山道があると聞いた。
大人の足でも10時間はかかるという道のり。それだけでもとんでもないコースだが、登山道もきれいに整備されてるわけではなく、登山者は木に巻かれたテープだけを目印に進んでいかなければならない。
毎年何人かは必ず遭難者が出るため単独行は禁止。そして登山前には必ず警察に届け出なければならない。
他にも崖から落ちた、道に迷った、ハブに遭遇しただの様々な話を聞かされた。ハブは本島に比べて気立てがいいから噛まないらしいが、そんなのは何の気休めにもならない。
しかしこれだけ散々脅されたにもかかわらず、バカさ、いや若さゆえか、この無事に帰れるかどうかわからないアドベンチャーに俺はすっかりコーフンしてしまった。
そのコーフンが1年続いてしまい、今ここにいるというのが事の次第である。

この話、エガさんにはしていなかった。したら断られるに決まっている。
きっと楽しいさ、楽しんでもらえるさとその時は楽観的に考えていた。
その時は。

(続く)


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