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3節 vs京都サンガ 〜勝った。それだけ。〜


0.はじめに

昨年末に苦杯を舐めた京都の地。あの時の虚しさを払拭すべく、今年も亀岡の地にやってきた。

ロケーション、スタジアムの構造などはベスト。遠征民にとってはこれ以上ない。

1.Preview

1-① 京都サンガ

 ホーム京都はこのゲームを迎えるまでリーグ戦W1-D1-L1。曹貴裁監督の目指す方向性は一貫しているため、キャッチしやすい点ではあるがここまでのゲームで見せた姿勢と、このゲームのスタート11人を合わせた時の狙いについてみていく。

・保持
 特徴的なのは前線3枚の流動性と、早いタイミングで高い位置を取るSBである。長いボールを使いながら、圧力をかけて即時奪回を連続させる、幅を目一杯使いながら敵陣で相手のブロックを動かして飛び込む。ピッチ、時間の使い方が「大きく速く強く」が基本線である。
 その一方で、これは昨年から継続して取り組み、構築している課題であるが、相手がそのゾーンを埋める場合に対しては、金子・川崎らを中心とした出し入れをベースにした「作り」も見せている。
 注目点で言えば、特にRSB福田が高めのポジショニングを取った時に、RCBアピアタウィア久から遠距離になることで、ビルドアップ面の進化と合わせた時に、マリノス(特に対面のエウベル・ロペスら)からのプレッシングに対してどのように振る舞うだろうか、という点であった。

気になったのはCB-SBの距離感とそのタイミング。
マリノスのプレッシングがどう対処するかを試合前のポイントに挙げた。

・非保持
 
非保持局面においては、まさに「捕まえる」というアクションが目立つのが京都の特徴である。中でもポイントはRSB福田の縦スライドである。そして、アピアタウィアがその背後の広大なスペースを埋めるという構図となることが多い。このゾーンに対して、マリノスがビルドアップを挑むのか、はたまた飛ばしてスペースを取りに行くのか、エドゥアルド、永戸、エウベルら左ユニットに注目した。

・前節の振り返り
 前節では川崎を相手にアウェイで勝利を収めた。
これは保持局面同様の新たな取り組みとして、非保持での「構える」局面というのも構築し始めているのが伺えた。特にそれが現れていたのが前半である。フロンターレのサイドユニットを重心をやや低めに設定しながらコンパクトなライン設定を敷き、「望まないオープンな展開」が継続しない状況を作る意図が見えた。しかし、陣地回復から敵陣での振る舞いという点で見ると、原がポストプレーを収めどころを作るものの、フィニッシュ局面で人数をかけられず、高い位置での圧力が分散してしまうためにその回数としては増やしていけない状況が続いていた。
 展開が変わったのはハーフタイム明けで、マルコ・トゥーリオを投入、4-3-3で全体の重心を引き上げたことで前線に加えてSBが敵陣への侵入を繰り返して人数をかけてフィニッシュを構築する、そして圧力を高めて継続する「私服の京都」を見ることとなった。
 このゲームを見た印象としては、「取り組んできたセット守備」を持ちつつも、川崎戦で再認識した「ゲームを掌握する前重心」がマリノスに対してのアプローチとして優先されるのではないかと考えた。
 また、左ユニットに松田天馬と佐藤響が起用された点については、流動的かつ敵陣でのアグレッシブなチャージを繰り返す中で、マリノスの守備陣系を動かしてそのスペースに侵入することを意図して、突撃性能があるタイプの2人をチョイスをしたものと思われる。

RSB福田の縦スライドが特徴的。その背後のスペースはアピアタウィアが広い範囲を埋めるタスク。
「前のめりに仕掛ける」は京都の生命線、ファーストチョイスに予想したのはこの形だった。

1-② マリノス

 ACL、リーグ戦と全く異なる対戦相手を目の前にしながらも、人選、それぞれのタスクにおいて新しい変化や選択肢を見せてきたここまでの戦いだった。キャンプ以来取り組んできたIH及びハーフスペースへの「破壊に向けたアクション」を取りながら、その裏側にあるリスク管理という課題に対しては福岡戦などで見せた「局面狭小化」。この両面が状況に応じて積み上げの(現段階での)成果として見えることを期待した。

2.1st Half 

2-① 京都の局面の作り方

 このゲーム、スタートから顕著だったのはマリノスのCB、特にエドゥアルドから京都の最終ライン背後のスペースに走らせるボールを流し込むシーンであった。水沼の先制点のシーンでは、エドゥアルドが背後に流し込んだボールを一度アピアタウィアが跳ね返し川崎が後ろ向きに受けた際、渡辺皓太が背後から寄せ切って選択肢を奪ったことがスタートとなった。また、SBの福田が川崎に収まるか否かのタイミングで高い位置を取ろうとポジショニングを取り直していることもあって、プレッシングを背後から受けた川崎がアピアタウィアに戻した時に選択肢を失い、ロペスのチェイスでロストしてしまった。
これは単純なミスではなく、京都のチームとしてのポジトラ時の矢印の向け方と、マリノスのネガトラ時の振る舞いの噛み合わせで生まれたものである。
とはいえ、シンプルにそのスペースを狙う意図はその後の数的優位を生み出したという結果から見ても、このゲームにおいてマリノスのプレーヤー間で意思統一がされていたことが伺える。

マリノスの選択はアピアタウィアが管理するポケットのスペースに対しての長いボールの配球。特に福田の背後への狙いは明確で、先制点に加え、アピアタウィアの退場を誘発した。

2-② 京都4-4-1セットへの変更

 早い時間のレッドカードは、両チームにとってどんな影響を与えたのだろうか。数的優位と聞けば、それはプラスに映るはずだ。ただ、サッカーというスポーツにおいては、10人のチームの「割り切り」がそれを上回ることもしばしば発生する。
 京都は序盤に見せていた縦スライドで捕まえるプレッシングから、原をトップに、アンカーの金子をCBに置いた4-4-1でのブロック形成にシフトした。
この局面で顕著だったのは、RWG豊川の「1人で2枚をケアする」運動量とスピードである。エドゥアルドへのチェックから連続して永戸へのチェイシングを行い、マリノスのボールホルダーを追い込む様は数的不利を感じさせないエネルギーを見せた。
 そして、このセット守備への移行はマリノスが狙うスペースを消し、京都の前線が持つスピードを活かしたカウンターを生むことになり、マリノス陣内でのアタックによる圧力をもたらしてゲームの様相を一変させた。

数的不利になった後の京都4-4-1。
これがサッカーの難しさで、10人になることでかえって相手の狙いをぼかすことにもなるのだ。中でも、豊川のチェイシングはこの後もマリノスに対しても猛威を振るった。

2-③ ゲームブレイク

 早々に2点をリードしたマリノスであったが、徐々にそのオープンな展開を管理できない構図が生まれ始めたのが前半残り10分辺りからである。ゲームブレイクが起きる過程を、保持と非保持両面で見ていく。

・保持
 数的不利になった京都は、先述の通り4-4-1のセット守備がベースになった。マリノスとしては、それまでポイントにしていた背後のスペースが消されることとなった。それに対して、マリノスが取った選択は「ワイドで引っ張るWGを使いながら、IHがハーフスペース突撃」という手段であった。
 しかし、割り切って前向きな対応をする京都の最終ラインはこれをケア、奪取からポジティブトランジションに移行した。この際、マリノスはIHが出たスペースがポッカリと空くことになり、CB+喜田が京都の前線3枚に対して数的同数を強いられる形が繰り返し発生した。

・非保持
 さらに、非保持面では11人のマリノスが10人の京都に対して、局所的に見ると数的不利を強いられるという一見矛盾した状況が生まれた。
 これはSBのポジショニングによってマリノスのWGが押し下げられることでロペスが2CBを監視する状況となることに起因している。川崎と松田が後ろ髪を引くため、渡辺皓太と植中はここに出にくく、食い付けば喜田の脇のスペースからワイドへの展開からWG-SBのチェーンが永戸と松原に対しての数的優位を生むことになったのだ。

 そして、前線からの圧力が増す中で佐藤響がエドゥアルドの視覚から掻っ攫って奪った1点目、(このシーン、筆者はバルコニー席から「Man on!」とコーチングしてしまいそうになった)、そしてセットプレーからの2点目によって、リードを吐き出し、京都が会場の雰囲気を一層盛り上げた状況でハーフタイムを迎えることとなった。

保持面。
マリノスにとっては「望まないオープンな展開」に。
非保持面。
全体の数的優位はマリノスが持つにも拘らず、局所を見ると実は数的不利となる構図。

3.2nd Half

3-① 細部に宿るクオリティ

   〜スローインの難しさ〜

 カオスな様相を呈したゲームに決着を付けたのは、「スローイン」というありふれた、されど重要なセットプレーからの得点であった。
 このシーン、マンツーマンの京都はスロワーの松原健に対してマルコ・トゥーリオが近い距離で監視していた。(DAZNはその瞬間を見逃してマルコ・トゥーリオをどアップに映していた)
水沼がその背後から外側に流れると、そこには佐藤がチェック。これによって生まれたポケットに侵入したのはキャプテン喜田であった。松原は喜田のやや後ろにバウンドする柔らかいボールを投げ入れると、これをフリックしてややマイナス気味の位置で浮いた植中へ、ボレーはヒットしなかったものの、これをロペスが押し込んでマリノスが勝ち越しに成功した。
 このシーン、なんと言っても年長者3人による「スローインに対してマンツーマンの相手へのアクション」の連続が起点であり、スローインという当たり前のプレーだからこそマリノスが積み上げてきた連携、相互理解、クオリティが存分に活きたシーンと言えるだろう。

セットプレーにおいてもマンツーマンで捕まえる京都。対して水沼宏太が佐藤響を釣り出して生まれたスペースに侵入した喜田。松原はこのアクションを見逃さず的確なスピードと球種を選択。年長者3人がさすがの連携。最後は植中を経由してロペスが押し込んだ。

3-② コントロール?仕留める?

 後半スタートに幸先よく勝ち越し点を奪うことができたマリノスは次の一手として、ジョーカー宮市を投入し、エウベルを中央に置いて更なる火力を生み出そうとした。守りに入らず仕留めにかかる姿勢は今のマリノスを支えるものである。ただその一方で、京都が敷くブロックに対してキャンセル、やり直しが効かない前がかりを生んでしまったように映った。サポートの距離感が遠く、敵陣での押し込み、循環に繋がらない状況はパッチ全体に波及し、右サイドでのロストからポープの退場へと繋がった。

エウベルを内側で起用するオプションは「破壊」を試みる際のオプションに。しかし、宮市とのセットはユニットというよりも個+個。決定機逸もあってゲーム掌握に至らず、むしろオープンな展開を助長し、ポープの退場に繋がった。

3-③ 楓馬と蓮と懸念と期待

 ゲームは3-2でなんとかモノにしたが、チームとしては徐々に周囲との連携が取れてきて、そのセーブ技術やディストリビューションに特長が見えてきたポープが次節サスペンションという懸念を残した。
 代わって入った白坂は、「緊張した」と本人が 語るように硬さもあってかトラップミスからあわやのシーンを作ってしまった。しかし、セーフティなキックやパンチングなど状況に対しての判断は良かった。HONDA時代、天皇杯で浦和を破った経験を持つ両利きGKはこの期間に味方との連携を深めていることだろう。次こそは11人のピッチでその実力を発揮してほしい。
 また、WG起用された加藤蓮は深い位置でのボールキープ、味方との連携でプレッシングからボールを逃す、フリーランなど、この難しい状況で確かにチームを助けるクレバーな働きを見せた。ヴェルディから加入して間もないがそのユーティリティ性は貴重な存在である。負傷者が戻りつつある今、チームの層を厚くし、競争を活性化させるポリバレントに注目したい。
「誰が出てもマリノス」に象徴されるマリノスの強さ。このようなピンチの時でこそ発揮されてほしいと切に願う。

4.序盤戦を振り返って

 筆者がこのゲーム内で気になったのは、特に後半の振る舞いである。というのも、ここまでのゲームを振り返ると、福岡戦で見せた「逆IHが絞って曲面を小さくする」トランジションへのケアとゲームコントロールを、このゲームでは見せなかったことである。前半スタート段階でのプランは早々に崩れてしまったし、そこへの対応を前半のうちに取るというのは難しいものである。しかし、ハーフタイムを使って変化をもたらし、ゲームをコントロールする方向に舵を切ることも可能だったのではないか。
 マリノスは勝ち越し後も「壊す」ことを選択した。しかし、決定機逸もあってこの機を逃すと、ポープの退場によって数的優位さえも吐き出してしまった。マリノスの最大の武器が前線の個々の質であることは言うまでもなく、それを最大限活かすのであればオープンな展開を制することであるのも頷ける。しかし、状況の変化に対して、そして相手に対してどう振る舞うかを考慮すると、筆者の目にはゲームを掌握しきれない拙さに見えてしまった。そして、各試合ごとに見せるオプションがどこかぶつ切れ単体に終わっている感も抱いた。

京都戦では見せなかった「局面を小さくする逆IHの絞り」。
調整期間を経て迎える名古屋戦から、チームとしての積み上げと調整力に期待。

5.最後に 

 これにて、2024スタートの連戦がひとまず終わった。トーナメント戦での勝ち上がりという結果は残した。意図のあるカードによってものにしたゲームもあった。その一方で、相手の変化への脆さや、手数と反比例して関係性の未成熟感も見えた。そして、各ゲームで見せる積み上げ、習得が点と点から線に繋がるような継続性・連続性感が薄い感を抱いてしまうこともあった。
 インターナショナルブレイクを挟み、名古屋戦からは前半戦の山と言える大型連戦を迎える。チームとしては、これまでなかなか取ることができなかった「熟成期間」である。そして、このタイミングで昨年負傷で戦列を離れていたメンバーの復帰も噂されている。フルメンバーが揃えば屈指の戦力を誇る一方で、新指揮官としてはその最適解を見出す難しさもあるだろう。得た収穫と新しい選択肢を引っ提げながら、自分たちが目指す方向への積み上げと自己課題の解決を経て、成長するチームが向かう先を見守りたい。

引用

sports navi 京都vsマリノス










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