外国企業が書く英文クレームの可読性について
パテント誌の2024年7月号に、宮下洋明先生が、請求項表現の改善案に関する論説を投稿されていました。日本出願で一般的に使われているクレームの形式は、知財関係者以外には読みにくく、発明が理解しがたいため、可読性の高いクレーム形式を提案されています。
少し引用させて頂きます。
一般的なクレームは、体言止めが繰り返されるため、各構成について、詳細な説明(修飾語)が表れた後に、初めてその構成の名称が表れます。例えば、以下の例では、「プロセッサ」という構成が表れる前に、「前記メモリに接続され」、「前記メモリに記憶されたデータを処理する」という修飾語が表れますので、これを読んだ後に初めて、「プロセッサ」のことなのか、ということが分かりますので、慣れていない人には読みにくいです。
これに対して、以下のような記載形式を提案されています。この形式では、まず、この装置が「メモリ」と「プロセッサ」を備えることが明示され、その後に、「メモリ」及び「プロセッサ」がの詳細がそれぞれ示されます。その詳細は、「メモリ」及び「プロセッサ」が主語となり、その後に詳細(述語及び目的語)が示される「節」で示されるため、各構成の詳細を日本語の文法に沿った自然な読み方で理解できるというものです。
このように、日本語で一般的なクレームは、専門家以外には読みにくい形式になっています。では、英文クレームはどうなっているかを見ていきたいと思います。
以下は、Ford社のUS2022/0305976のクレーム1です。
英文の一般的なクレームでは、構成の名称が冒頭に表れますので、その発明がどのような構成を持っているかがすぐに分かります。また、インデントを利用することで、さらに下位の構成も容易に分かります。上記の例では、"a seating assembly frame"と"an extension member"が上位の構成であることが分かり、さらに、"seating assembly frame"のなかに、"seat frame""seatback frame"という構成があり、"extension member"の中に、"an end"という構成が2つあることが分かります。
また、英文では、名詞の後に分詞構文や関係代名詞によって、詳細を繋げることができるため、通常の文のように読むことができます。例えば、最後の"an end coupled to an adjustment device disposed on the seat frame."との記載は、冒頭に"an end"という構成の名称が表れ、その後に"coupled to an adjustment device disposed on the seat frame"という詳細な説明が表れるため、"an end is coupled to an adjustment device disposed on the seat frame."というような通常の文章として読むことができます。したがいまして、可読性は高いと思います。
以下に、仮訳を示します。できるだけ、インデントした部分が分かりやすくなるように訳しましたが、少し冗長で可読性が高いとは言いにくいです。日本語では、文法的な制約から修飾語を名詞の前に持ってこなければならないためです。
(仮訳)
1. 座席アセンブリであって、
座席アセンブリフレームであって、
シートフレームと、
シートバックフレームと、
を備える座席アセンブリフレームと、
前記シートフレームに結合され、前記シートフレームに対する伸長位置と前記シートフレームに対する圧縮位置との間で、作動力に応答して移動可能な延長部材であって、
前記シートフレームに固定的に結合された端部と、
前記シートフレームに配置された調整装置に、結合された端部と、
を備える延長部材と、
を備える、座席アセンブリ。
これを宮下先生が提案する記載方法に変えると、以下のような感じになります。このように書くと、日本語としての可読性がかなり高くなります(端部は説明のために第1端部、第2端部に変更しています)。
(仮訳)
1. 座席アセンブリであって、
この座席アセンブリが備えるのは、座席アセンブリフレーム及び延長部材であって、
前記座席アセンブリフレームは、シートフレームと、シートバックフレームとを備え、
前記延長部材は、前記シートフレームに結合され、前記シートフレームに対する伸長位置と前記シートフレームに対する圧縮位置との間で、作動力に応答して移動可能であり、
前記延長部材は、第1端部及び第2端部を備え、
第1端部は、前記シートフレームに固定的に結合され、
第2端部は、前記シートフレームに配置された調整装置に、結合されている、
もの。
以上のように、英文クレームは、文法的に元々可読性の高い記載になっていることが多いですが、日本語クレームの可読性を高くするためには、宮下先生のご提案のようにかなり抜本的な変更が必要になりそうです。
(おしまい)
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