イスラエル・ワクチン接種プロジェクト(1)

昨年(2020年)12月19日の安息日明けに、ネタニヤフ首相とその配下(?)のエデルシュタイン保健相がファイザー社から買い付けたワクチン接種第一、第二号になるのを生中継で見た。ネタニヤフに注射したのは病院長だかの男性で、保健相は女性看護師。そういうところでさえ「ボスは俺」感を出していくネタニヤフなのであった。

その翌日から、まずは医療関係者、そして60歳以上、慢性的な疾患があるリスクグループへの接種が始まるということで、携帯電話のメッセージでも私が属する健康保険機構クラリットから、アプリか電話(クラリットの予約センター)で予約しろと言ってきた。でもまあ私は60歳にはぎりぎり引っかかっているけれど、そんなに急がなくてもとゆっくりしていたら、22日になって夫と娘にそんな態度ではだめだと諭された。だってネット予約はシステムがダウンしてるみたいだし、電話はつながらないみたいだし、と言ったのだが、夫は何度もトライして2月中旬のがネット予約できたのだという。それで私も保健機構クラリットのマイページ的なところから、オンライン予約に入ろうとする。そこには自分の通院歴や検査結果、処方薬などがすべて入っており、ホームドクターその他の予約もいつもそこでやっている。数度ログインを試みたら重いながらも何とかつながり、もたもたしていると娘が「私がやるから」と操作。ようやくページが変わって夫と同日に予約が取れ、娘がすかさずスクショを撮った。

まあこれでとりあえずは話が済んだと私は思っていたのだが、夫は2月なんて悠長なことは言っていられないという。お隣さんは別の保健機構で、けっこうすぐの予約が取れたらしい。それでいろいろ聞いたところ(別に特に聞かなくても国民が全員その話をしているのだが)、アラブ人居住区ではワクチンへの忌避感が強く、すぐに予約が取れるという情報が回ってきた。イスラエル国内なら、自分が属しているのと同じ保健機構が運営しているクリニックであれば全国どこでも予約が取れる(しかしいくら予約が空いていても、自分のではない保健機構の運営する場所に行くことはできない)。イスラエル国内には、ユダヤ人、アラブ人(ムスリムとクリスチャン)、ドゥルーズ等の人々が住んでおり、混住している地域(たとえばハイファ)もあるが、居住区が分かれている場合が多い。同じユダヤ人であっても、超正統派と世俗派は生活規範があまりにも異なっており、同じ地域に住むのは極めて困難、ほぼ不可能である。それで29日にネットを介さず直接ナザレのクリニックに電話したら、1月1日の予約が取れた。イスラエルには保健機構が4つあって互いに競争しているから、それほどお役所仕事でもないのであった。電話で予約してもすぐにネットシステムに反映され、携帯電話のメッセージが送られてきた。その時私が把握したかぎりでは、ワクチン接種は、1)自分が属している保健機構にネットか電話で予約 2)主要国立病院等が接種所を設置。予約不可で待ち時間などは運しだい。3)高齢者施設への巡回 の3つで行われているらしい。

というわけで1月1日早朝にXmasの飾りが残っているナザレ(アラブ人居住区)のクリニックまで行ったのであった。ナザレのクリスマスツリーは、今年もイスラム教過激派に焼き討ちにあったという報道があったけれど、クリニックの人たちはいたって感じよく、簡単な問診のあとすんなり接種。国民と住民の健康情報(にかぎらずあらゆる情報)はすべてIDで管理しているから、接種してくれた女性看護師さん(だと思うが医者だったのかもしれない)は、目の前のコンピュータ画面でまず私のアレルギー既往をチェックしていた。接種後はファイザー社のワクチンのロット番号なども書いた証明書をくれて、3週間後の2度目の回を予約。1度目の接種を受けた人は必ず2度目の接種の予約ができると保証されている。1度目の接種後数日してようやく50%の効果。2度目の接種後に90%以上の効果になるから、くれぐれも安心しないでマスクとディスタンスを守ってくれと言われた。
 

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その後いろいろ話を聞いていると、イスラエルはヘンなところが合理的だから、予約は60歳以上とリスクグループ枠の人しかできないのだけれど、-80℃の冷凍庫から出したら数日で使用不可になるとかで、使用期限が迫っているワクチンがある接種所やクリニックだと、たまたまつきそいで来た若い人や、夜になってから急に近隣住民に呼びかけて、枠外の人にも接種しているようだ。確かに廃棄処分にするぐらいなら、どうせ将来接種する枠外の人に接種したほうがいいに決まっている。というわけで、ネット上には「今このクリニックでワクチンが余っている」という情報も飛び交っているらしい。それに対しては反論もあり、余っているのを接種対象者に回せないかという意見も出されたが、その日にならないと余っている状況が分からず、その情報を集約して流す時間的余裕がないというのも事実らしい。いずれにしてもIDナンバーで管理しているのだから、だれがいつどこで接種を受けたのかはデータ上で一目瞭然なのである。

私は少し腕が重いぐらいで、1度目の副反応はほとんどなかったと言える。しかしイスラエル人、事前の調査では信用できないとか様子見だとかシニカルに答えていたのに、フタを開けてみたら予約殺到。現金というか合理的というか。だいたいこういうプロジェクトは、速度と参加人数が決め手なので、やるとなったらとにかく推進するしかない。このへんの感覚がなかなか日本の人には分かってもらえないのだけれど、言ってみればゲームにおける戦術なので、うまくいくこともあるし、うまくいかないこともある。情報を集め、リスクも見きわめ、いったん戦術を決めたなら、それがなるべくうまくいくように協力するのが、個人が、あるいは共同体が生き延びる方策だという考え方。もちろん重症化しないようにするのは自分のためでもあるし、家族のためでもあるし、医療崩壊を防ぐためでもある。諸般の事情でワクチンを打てない人々の権利は尊重されなければならないけれど、自分に体力があり、ちょっと頑張れば(許容範囲の副反応をがまんすれば)いいだけなら接種しよう、という気持ちは私自身も持っていた。

別の言い方をすれば、たとえばミサイルなりロケット弾なりが飛んできて空襲警報が鳴ったら、車に乗っていたらとりあえず車を止めて道路わきに身を伏せるか、自宅や町にいたら防空壕や階段の踊り場に駆け込むのが当然とされており、その際に転んで骨折したり、車に轢かれたりする人も出てくるわけだが(そういうケースもあった)、だからといって何もしない人はまずいない(そういう人も僅かだがいる)。みんな「そういうものだ」と思っている。いずれにしてもそこで「そもそもなぜそのような事態に至ったか」「だれに責任があるか」を議論していてもしょうがない。そういう議論はまたあとでゆっくりすればいい、という考え方。

当初大々的に言われていた、2度接種済の人へのグリーンパスポートは、今のところ濃厚接触時と海外から帰国時の2週間隔離免除以外はペンディングになっている。もしそういうパスを出すとして、市民の人権という観点からも、接種済証明だけでなく、たとえば48時間以内のPCR検査陰性証明、既に罹患した人の血清抗体証明とセットでないと難しいのではという意見も出されている。今後の推移を見守るしかない。

2度目の接種については(2)に続く

#イスラエル #ワクチン

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