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未だその面白さが解らず

両親が亡くなって、近所に深い親戚もおらず、付き合いもしていなかったので私が主導で誰にも文句を言われず片づけを出来ることはかなり精神的な負担が無い。これはありがたいことだ。

しかし自転車で片道約20分ほど、坂道があったりの悪路はなくフラットな道を行くだけなのだが、「出来たら行きたくない」状態なのだ。ただ単に邪魔くさい。父と少し確執があったこともあり実家を捨てて出たので父が住んでいたマンションには全く思い入れがなくなってしまったのも一因だ。そのマンションで幼稚園から社会人になっても住んでいたのに。

死亡推定から約10日経って亡くなっているのを発見した。素人ではわからなかったが、救急隊員が部屋に入ろうとした時に「死者のニオイ」がしたようだ。遺体を動かしてはいないがさっと見たところ外傷もなく、父は寝る前には暖房器具を全て切っていたおかげで室内が低温状態になっており腐敗がほぼなかったのにも関わらず、やはりプロの鼻はごまかされなかったようだった。そういうこともあって週に一度は訪問し、窓を開けて空気の入れ替えを行うことをしている。常時換気扇はつけて、ほんの少しだけ窓を開けている。本当に真夏でなくて良かったと思う。刑事さんや看護師さんからも(排便も出血もなかったので)綺麗でしたよと言われた。

マンションに向かうとまず入口付近にある集合個別ポストを確認する。もう殆ど解約手続きが出来ているので郵便物はないがポツリポツリと送られてきている。まだ来ているなぁと思ったその時にカツンカツンとかなり大きい音が近づいてきた。その音は白杖を地面に叩いて確認する音にそっくりだったので、目の不自由な方がいらっしゃったのかな?お手伝い必要かなと、ポストの一角から出て音の主を探した。

エレベーターが開き、乗り込もうとしている小二くらいの男児がいた。白杖は持っていない。あれ?っと一瞬の間が出来た。小二の男児がエレベーターのボタンを押して私を待っているようだった。慌てて乗せてもらった。ありがとうと言うと「何階ですか?」と言ってくれる。今どきの子供にしてみたらよくできた子じゃないか!ご両親の躾が行き届いているね!と驚きつつ行く階を言うと、ボタンを押す手に真っ赤なアメリカンクラッカーが見えた。

(そーれーかー!!!!!!!それやな!!!あーあーあーなるほどなるほど!!それな!!それかあああ!!!)と心の中で叫んだら、男児が「これアメリカンクラッカーって言うんです!」と少し誇らしげに話しかけてくる。「おばちゃんの小さい頃にもそれ流行ってたから知ってるよ!」と返事をすると男児は驚いた顔をして「知ってるの?」と。

エレベーターのドアが開きありがとうとお礼を言って「バイバイ」と手を振って降りた。男児は「さようなら」と。またもやご両親の躾が発揮されたようで私の”バイバイ”は軽すぎて飛んで行ってしまった。

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