2024年映画 上半期ベスト10
2024年に観た映画の上半期ベストについてまとめます。
■概要
上半期は41本鑑賞した。
仕事の環境が一気に変わりそれなりに箔が付き始めたこと、キャリアやプライベート設計やらであまり映画を観れなかったと思う。
とはいえ、上半期は珍しく新作・旧作共に素晴らしい作品に多く巡り合えて良かったと思う。
上半期のラストはシャンタル・アケルマン映画祭2024でシャンタル・アケルマンと共同で編集したクレール・アテルトン氏の解説も聴けたこと、アケルマン監督の『南』という映画で出たエンパワーメントを森美術館「シアスター・ゲイツ展」で知れたり…
と、良質な映画だけでなく映画で伝わるエンパワーメントを違った媒体で再度追憶できる有意義な時間を過ごせたと思います。
ガッツのある熱量ある記事は年末の年間ベストでちゃんとやるので今回は
というnote運営の言葉を信じて、あっさりした記事で贈ってみる。
■新作映画上半期ベスト10
10位:草野なつか『王国(あるいはその家について)』
昨年くらいに話題になっていた映画。
この映画の特徴は『役者に宿る感情・確からしさがどのように生まれていくか?』を段階的にドキュメントしていく原理主義な構成にあると思う。
映画を観るにつれて演じる役者に少しずつ俳優から別人物へ肉付けされていく変化を追体験できて面白かった。
個性的な映画ながらも、観た時の感情・観た後の監督・プロデューサーの話でより本作の魅力を感じた。
9位:濱口竜介『悪は存在しない』
グランピング建設に向けた様々な人々の正義と対話を扱った話。
対話が面白いのはこれまでの濱口映画同様にあって、本作はそこに
・対話の可能性という人間の営み
・神的存在の不可避的な干渉
が入り混じった神秘的な映画に仕上がっている。
撮影も自然光を一番綺麗に映す編集に気を遣っていて、それによる神秘性・美しさを現出した絵作りが良かった。
8位:アンドリュー・ヘイ『異人たち』
凄く繊細でノスタルジックで温かい映画だった。
当事者なりの想いが映画の時系列を変化して「夢」という形で現出し、「夢」と現実がシームレスに交差しながら一人の人間の葛藤と成長を映す姿に惹かれた一作。
異人という世界のミステリアスさと彼が見たかった世界が混在する事で、渇望している世界に溶け込んだ当事者がどのように前へ進むか?を問う映画で面白かった。
7位:三宅唱『夜明けのすべて』
友情とも愛情とも違う"強い繋がり"が互いの異なる劣等感から脱却し新たな道に進む希望の映画。
夜明け前が最も暗い事を示す映画でもあるし、夜を見上げて光に渇望して再び夜を見上げた時に…という絶望と希望をカメラワーク・異なる人物で再演技するアプローチで見事に示すのが良かった。
どんな人間でも等価に暗闇と夜明けを受け、暗闇の中であっても指し示す光によって救われ次の夜明けに向けて一歩進む勇気づけられる一作。
6位:バス・ドゥヴォス『ゴースト・トロピック』
ある女性の夜中の一期一会を映したお話。
眼差しの映画でもあり、見えない場所で様々な人物の寄り添う優しさで支えられている人情の映画で惹かれました。
そんな優しさを包み込むBGMと自然音との融合がとても心地よい一作。
5位:バス・ドゥヴォス『Here』
ゴースト・トロピックに並ぶ良い映画でした。
偶然の出会い、その出会いによって生まれる神秘的な出来事を恩を贈ること、追体験すること、様々な場所へ運ぶ事によって現出したミニマムながらも圧倒されました。
顕微鏡を覗く行為を追体験する営みを通じて、映画ならではのマジカルさを表す一方で「あなたの居場所はここにある」と声を掛ける優しさも存在する一本。
4位:ラドゥ・ジュデ『世界の終わりにはあまり期待しないで』
とても痛快である。
前作『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』におけるメデゥーサが生まれるきっかけは何か?を風刺した映画。
反復される労働で生まれる不満・交通渋滞やレイシズムで虐げられた人々の声が届かない一方で"演じる"事で発散できる怒り、怒りを端的に表現する隠れ蓑として使われるレイシズム・罵声が簡単に拡散される"世の中の不条理さ"が共存した一作。
それをTikTok等の新しいプラットフォームに組み込んでヌーヴェルヴァーグ的アプローチで実験要素と作家性を両立するフットワークの軽さ、それらを通じて獲得される別人格とレイシズムを借りた不満への爆発する力業に圧倒されました。
3位:ローラ・ポイトラス『美と殺戮のすべて』
ナン・ゴールディンのオピオイド危機に携わる運動・経緯をドキュメントしたお話。
彼女の行動・気概を辿ると彼女の人生を歩みながらも、彼女が尊敬する姉の人生を歩む二人三脚のような生い立ちをドキュメントしていて感動しました。
姉の人生を歩む一方で姉が愛読したジョセフ・コンラッド『闇の奥』の「人生とはおかしなもので、無益な目的、無慈悲な必然性に基づいている。(中略)」の"無慈悲な必然性"に対峙する姿に敬愛の美しさが凝縮されていると感じました。
2位:ルカ・グァダニーノ『チャレンジャーズ』
上半期の中で最もブチ上がった映画。
過去と現在の時制をテニスの試合のようにサーブしていくが、その中で試合のように勝敗・優勢劣勢を現出していく。
勝者と敗者、それを裁定する審判の3者がテニスの試合を通じて"彼らの人生"をもテニスのように支配していく姿、それらの試合の経緯による試合そのものへの重みが増す感覚を追体験する部分が面白い。
その面白さはラブロマンス・スポーツ映画でありながらも西部劇やアクション映画など他のジャンル映画に化けていって化け具合に圧倒されたしラストの大盤振舞な演出に拍手喝采ものでした。
1位:ビクトル・エリセ『瞳をとじて』
上半期の新作映画で最も素晴らしい映画はビクトル・エリセ最新作『瞳をとじて』です。
この映画は現実世界と虚構世界という相容れない存在を"映画"によって繋ぎとめるマジカルさを現出し、過去の栄光の素晴らしさは感覚を通じて色褪せない事を力説した所に感動しました。
現実と過去の話、忘却と想起の話、熱意と失意の話…と様々な対照的なテーマが封入され、まるでヤヌスのように二つの頭を持つ映画として徹頭徹尾描いていく。
けれども様々な出来事・異なる存在との交錯する中で結びに存在する映画的奇跡を現出し、過去の輝きは現在にも感情として影響する美しさに感動しました。
■旧作映画上半期ベスト10
10位:カール・テオドア・ドライヤー『吸血鬼』
9位:セルジオ・レオーネ『荒野の用心棒』
8位:シャンタル・アケルマン『南』
7位:ラオール・ウォルシュ『鉄腕ジム』
6位:シャルロット・ルボン『ファルコン・レイク』
5位:カール・テオドア・ドライヤー『ミカエル』
4位:アンドレイ・タルコフスキー『アンドレイ・ルブリョフ』
3位:タル・ベーラ『ヴェルクマイスター・ハーモニー』
2位:ジャック・リヴェット『彼女たちの舞台』
1位:ジャック・リヴェット『パリでかくれんぼ』
旧作で最も素晴らしかったのはジャック・リヴェット『パリでかくれんぼ』でした。
この映画は忘却された真実に対する向き合い方、新たな人生の進み悩む3人の女性を映した映画である。
とにかく自由度が高く、忘却された真実への距離感や讃美歌のようなミュージカルのメッセージ性だけでなく型にとらわれない自由さが映画的楽しさに最後まで続く不思議さが共存していて最高でした!
■特別賞
ジョナサン・デミ『ストップ・メイキング・センス4Kレストア』
旧作ベストに入れようとしたけど単純に忘れてました。
1983年12月ハリウッド・パンテージ・シアターでのトーキング・ヘッズのライブ。
ライブ自体も面白いが、この映画の凄いところはテンポ感とカメラワークがバチクソ決まっているところにある。
映画においてカメラワークの重要性を説き、最高の映像を最高のタイミング・画角で指し示すとさながらライブ会場にいるような高揚感すら現出可能である事を知れた意味で感動しました。
■今後の抱負とか
ちゃんとnoteを定期的に書きます、はい。
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