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2022年新作映画ベスト20ランキング

こんにちは。ギルドです。
2022年もそろそろ終わりを迎えます。
この一年で鑑賞した作品をランク付けしてみました。

ご参照くださいませ。

■概要

今年は98本鑑賞しました。
昨年は56本だったので、映画のモチベを高いまま維持して鑑賞できたと感じています。
特に今年は映画自体のクオリティが底上げされていたり、東京国際映画祭・東京フィルメックス以外の映画祭にも顔を出したり、現地で多くの人と交流する事が出来たのは本当に良かったです。

様々なジャンル、映画館・映画祭・配信で良い映画を沢山観ることが出来たのでTOP20でまとめていきたいと思います。

今年は新作映画、旧作映画で鑑賞していこうと思います。定義はざっくりこんな感じです。

新作映画:日本で2022年に映画館で初上映・初配信されたタイトルの作品
     2022年 日本の映画祭で上映された作品

旧作映画:主に監督特集で扱われた作品。4K対応などの過去作の復興作品(WANDAなど)


20位「タバコは咳の原因になる」(カンタン・デュピュー)

東京国際映画祭にて。
全てのヒーロー映画に対するアンチテーゼのような存在。
「他人の不幸は蜜の味」、ならぬ「他人の怪談は再構築する飯の種」を体現した映画で、「空想の恐怖というものが作られたもの」である事を客観的に観た映像・与太話・伝聞の情報と様々な形で展開するのが印象的でした。

ヒーローのキャラも濃くて、人間味もあって、でもどこか皮肉った小馬鹿にしたテイストが好きです。
デュピューはクソデカ蝿や喋る革ジャン、殺人タイヤ、若返るヤバい穴などテーマ性に特化した監督だが、本作はテーマの尖った感じと主題に宿るゴダール「気狂いピエロ」的な色がドハマリした映画だと感じました。


19位「女神の継承」(バンジョン・ピサンタナクーン)

ヒューマントラストシネマ渋谷にて。
ナ・ホンジンDNAとタイの土着的な土地・信仰で化学反応を起こしたグロテスクなモキュメンタリーホラー映画。
タイの雰囲気は「ブンミおじさんの森」や「時の解剖学」で知っているので、その世界観の中で「エクソシスト」や「来る」を合体したような展開でグロテスクかつ不気味な「呪い」を現出するのがシンプルに怖かった。
終盤の展開から予想しない出来事に進むのも面白かった。

人間の動物的な部分を「呪い」のバフでとんでもない絵面に仕上げた意味で強く印象に残った作品。


18位「ニトラム/NITRAM」(ジャスティン・カーゼル)

伏見ミリオン座にて。
実際に起きた無差別銃乱射大量殺人事件の犯人の行く末を描いたお話。
知的障害・自閉スペクトラム症の生きづらさ・行き違いのみならず、マッチョイズムに対する不器用なアプローチ、愛する人の喪失の不器用なアプローチと満たされない事への苛立ち…などの言語化できない動機づけを緻密に構築する展開が印象的でした。
知的障害・自閉スペクトラム症の他者と微妙に違う演技や行き違いによって段々と心の傷跡が深まって行動・彼のいる環境に伝播する演出に本作の「やるせないけど誰にでも大なり小なりありえる恐怖がある」事を教えてくれる。
その意味でスリラー映画としての怖さもきちんと存在するのだ。


17位「サンガイレ、17才の夏。」(アランテ・カヴァイテ)

JAIHOにて。
曲芸飛行を夢見る彼女の羨望やトラウマを彼女の目線や空想の地続きで現出する。
映像も廃墟や夕焼けを交えたファンタジーに仕上がっていて、二人の少女のやり取りを通じた決意と再生の物語として素晴らしかった。
こういった話で映像だけでなく、夢を追う人間の傍にいる人も重要だと思う。本作ではサンガイレに寄り添うアウステの気配りは凄く素敵で、全編通じて心地よさもあった。
特に自傷というセンシティブなテーマをポジティブに捉えて、アウステの存在がサンガイレの羨望・苦悩・衝突にも付き添ってくれてサンガイレの大成にも付きそう姿に愛おしさを感じる。
LGBT映画に留まらない愛おしさ、ファンタジーな絵作りが大好きな映画です。


16位「ミスター・ランズベルギス」(セルゲイ・ロズニツァ)

伏見ミリオン座にて。
「群衆」という存在が「ステレオタイプ」として描かれた「国葬」「粛清裁判」から進化して、フレデリック・ワイズマン「ボストン市庁舎」のような「トップダウンで市長→職員に伝播する」を受け継いだ「群衆が非暴力で暴力に立ち向かう」希望の映画だと感じました。
アーカイブ映像とインタビュー映像を交互に映すシンプルな構成だが、その構成から見える「ソ連当局の支配と暴力」が過去の歴史から循環していることが見える。これが「ドンバス」「バビ・ヤール」とセットで観る事で「支配と独立」が循環していること、現代のロシアとウクライナに関する問題にまで繋がる事を実感させるのだ。
その気付きを与えた意味でも本作は「群衆の非暴力で支配から独立は出来る」ウクライナに向けた激励を込めた映画で目頭が熱くなった。


15位「麻希のいる世界」(塩田朋彦)

名古屋シネマテークにて。
アイドルへの憧れと、アイドルに猛烈に推すファンの関係を描いた「危なっかしいコミュニケーション」を描いた映画だと感じました。
その姿を外野から観ると大変危なっかしい事を示すような「物事に潜む相反した二面性」を見せるのはポスターからは読めなくて色んな意味で驚きました。

青春音楽映画と見せかけた本気のぶつかり合いのコミュニケーション映画で圧倒されました。


14位「ドンバス」(セルゲイ・ロズニツァ)

伏見ミリオン座にて。
ウクライナ内部でも分離主義勢力によっていざこざがあったりフェイクニュースによって情報操作が進む一種の内戦が存在するお話。

セルゲイ・ロズニツァのドキュメンタリー映画要素が色濃いけど、フェイクニュースを撮影するクライシスアクターから始まり、フェイクニュースの撮影で起きた事件で終わるのが印象的。
クライシスアクターに対するスカッとする出来事で〆る本作に「自国で起こった不毛な戦いに終止符を打たなければいけない」、というロズニツァ監督なりの怒りが封入されていてフィクション映画だからこそ為せる技とみた。

ある意味でフェイクニュースに始まりフェイクニュースで終わるウクライナ国内に潜む「ブラックボックス」を炙り出した「怒りの映画」で素晴らしかった。


13位「ソウルに帰る」(ダヴィ・チュウ)

東京フィルメックスにて。
養子としてフランスで育った韓国籍の女性が実親を探しに韓国にいって怒りをぶちまける「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的なお話。

興味深いのは「言語が通じない」ことであり、韓国籍なのに韓国語が分からない事で異国の地にいる不思議な感覚を覚えました。
「言語が実親とで通じないが故に言語化出来ない苛立ち」にまで発展して怒りが防衛本能に発展したり、強い防衛本能が求めてもない結果に行き着く残酷さがあるのだ。

袈裟を憎んでいたつもりが本能的には袈裟に愛着があって、でも袈裟に愛を伝える時には伝える相手が不在になる息苦しさは観てる此方も辛くて応える。


12位「わたしは最悪。」(ヨアヒム・トリアー)

伏見ミリオン座にて。
30歳になって様々な節目に対して「自分には才能あるからまだ早い」といって四苦八苦するお話。
人生の節目と「自分は最悪な人生だ」といって徐々に追い詰められていく様は現代社会の慣習への逆張りと「本当は理想の生活を送りたかったなぁ…」の心は泣いてる的な切れ味の鋭いテイストに仕上がっててそれが強く刺さりました。

大人だけど大人になりきれなくて、大人にさせるのは大きな失敗と他者の死生観で前進するのは個人的に観てて考えさせられる。


11位「マンティコア」(カルロス・ベルムト)

東京国際映画祭にて。
自分自身の内面に潜む化物じみた性癖は内面の世界(自分自身の職の手と目に見える世界)と外部の刺激によって醸成されていくお話。
バーチャルとリアルの摩擦によって知らぬ間に自分自身がマンティコアそのものになる姿は圧倒的で、マンティコアの多層的なメタファー以上に積み重ねが良い。
あと女の子も立ち振舞や足が綺麗で個人的にタイプな女の子なのもポイント高いですw

ラブロマンス映画で女の子が可愛い、男の共感みが高いのも相まって東京国際映画祭ではダークホース的存在として良い映画体験をしました。


10位「No Bears」(ジャファル・パナヒ)

東京フィルメックスにて。
映画内映画と撮影指示出しをするパナヒ監督の二面から展開していくが、映画撮影に封入されたパナヒ監督の実体験と危機を掻い潜って映画を撮って実態を曝け出す。
そこに「俺は映画というプラットフォームで当局の規制・部族慣習の特異に唱え続ける。だから映画を撮るのをやめない」という意思を感じて、他の監督では作れない映画の独自性が強いのが良かったです。

去年の東京フィルメックスで鑑賞した「時代革命」のような衝撃を覚えた作品でした。


9位「戦争と女の顔」(カンテミール・バラーゴフ)

伏見ミリオン座にて。
戦争は一見すると終わって明るい方向に進むようにみえて、実際は内面に残った戦争の爪痕が毒化して苦しめていくお話。
PTSDに苦しむイーヤ、子供が産めず更にPTSDによって子供まで失ったマーシャの二人の女性を通じて、内面の苦しさに向き合う姿は戦争の直接的ショック描写よりも酷いし着眼点が素晴らしいと思った。

PTSDで人間がフリーズするような感覚、緑と赤という色使いによる主従関係の変化も含めてディテールもストーリーラインも見事な映画でした。


8位「LOVE LIFE」(深田晃司)

伏見ミリオン座にて。
団地と手話を用いて人間関係・贖罪などの変遷を「空間」表現で描ききった緊張感ある映画でした。
「ドライブ・マイ・カー」に寄せた映画に見えて本作は精神的な「孤独」は誰にでも存在するし向き合うのが難しい事を示したり、言語の持つ攻撃性や秘密の合言葉的な可能性を追求しているのが魅力的な映画でした。

団地映画として、部屋の間取りから来る断絶・2つの団地を行き来する事で生まれるサスペンスが素晴らしく、矢野顕子「LOVE LIFE」の多面的な引用や曲自体とのマッチングも含めて心に強く残った。
あと「よこがお」「淵に立つ」と違って明るい希望の方向へ向かう感じも良いですね。


7位「あのこと」(オードレイ・ディヴァン)

伏見ミリオン座にて。
「中絶」を題材にした映画で、「17歳の瞳に映る世界」と同様に夢を追いかけるのを台無しにする「妊娠」からどう逃げるか?を扱う話。
この映画はとにかく「妊娠」を夢を壊す爆弾のような象徴として映すだけでなく、「中絶」という筆舌に尽くし難い痛みを共有しておきながらも「中絶」というグロテスクでタブーなシーンをもありのままに映すのが印象的な映画でした。

随所に登場する「○○週目…」という言葉も相まって、まるで時限爆弾をどうやって解除できるか?とか誰に相談しても助けてくれない疎外感を如実に描いていて、そこにも圧倒されました。
最終的には痛覚も中絶の行動そのもののグロさをも共有する姿に着地させてて、なんというか映画の強度が凄かったです。


6位「アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ」(ラドゥ・ジュデ)

シアター・イメージフォーラムにて。
名門校教師のプライベートセックス動画流出で問題視される「性」を皮切りにルーマニア特有の民度、レイシズム、歴史修正主義…と様々なテーマに派生し、最終的には人間の思想そのものが矛盾の塊だよねと着地させる力技が凄かった。

型破りな映画ながらもブラックコメディの風刺も強烈で、観た後の衝撃は今でも忘れられない。


5位「すずめの戸締まり」(新海誠)

TOHOシネマズにて。
「君の名は」で映画館通いを再開した自分にとって集大成の作品を目の当たりにして目頭が熱くなる不思議な映画でした。

「君の名は」「天気の子」をベースに数多くのSF映画の文脈を引用していって現代の時代象徴を刻んで、「見えない恐怖」が付きまとう様を炙り出していく。
アニメ映画としてのキャラの魅力や映像の綺麗さに留まらない主題と盛り上がりの熱さに「映画に本能的に夢中になった感覚」を気づかせてくれた意味で大好きな映画です。


4位「バビ・ヤール」(セルゲイ・ロズニツァ)

伏見ミリオン座にて。
アーカイブ映像や文書を組み立ててウクライナのキエフで起こった「支配と暴力の侵略」が綿密に循環していく姿を炙り出すお話。
アーカイブ映像や文書を構築して映画の文脈に落とし込む姿はサンプリングしていって曲を作るHIPHOPみたいなベクトルを感じて、編集によって「暴力の歴史」という文脈に昇華した本作に圧倒されました。

セルゲイ・ロズニツァ監督の中では最高傑作であり、アーカイブ映像を使ったドキュメンタリー映画としての推進力・面白さにおいては一つの到達点に達したのではないだろうか?

バビ・ヤール跡に出来たダムもこの映画の後に事故で死者が出たらしく、闇が深いと思った。

3位「チャイコフスキーの妻」(キリル・セレブレンニコフ)

京都ヒストリカ国際映画祭にて。
男根主義と政治によって不当な扱いを受けたチャイコフスキーの妻アントニーナが「今の自分がこんな扱いを受けているのは自分の努力が足りないからだ」と感じて逆にチャイコフスキー陣営が苦しむお話。
この映画には男根主義の政治に翻弄される女性、チャイコフスキーみたいな天才・好青年は酷い事はしない盲信…など、様々な主題が潜んでいるが個人的には後述する理由で男根主義に翻弄される女性が「自分の努力が足りないんだ」「もっと愛されるように頑張らなきゃ」てなって段々と凶暴になって、それが彼女の見える世界にまで波及する様に圧倒されました。

この映画が好きな理由は他にもあって
ニコニコ動画で昔流行っていた「ヤンデレCDと会話させるシリーズ」を思わせる構成であり、学生時代に死ぬほどこのシリーズを観ていた自分にとってはその強化版がキリル・セレブレンニコフから出してくれる事に驚愕を覚えた。
あと最近beatmaniaIIDXに入った「いつかオトナになれるといいね。」も本作に凄く近いテーマ性でデジャブのような感覚を覚えましたw

日本上映したら多くの人に刺さる映画なのは間違いないから早く日本公開して欲しい!

↓参考


2位「ノベンバー」(ライナル・サルネ)

シアター・イメージフォーラムにて。
全ての要素で隙がない魅力的な映画でした。
「マルケータ・ラザロヴァー」「サタンタンゴ」、それ以外ならば「イレイザーヘッド」のモノクロ映画のアート要素強めの作品群を換骨奪胎した作品でした。 しかも本作の何が素晴らしいかって、そういった他作品群のエッセンスを引用しながらも互いを食う事無く、むしろ相互で絵的な魅力の底上げをしてくれる所にあるところが良いです。
世界観も「サタンタンゴ」のように窮屈で閉鎖的で、宗教事情に詳しくなくても生と死、聖と俗という「黒水仙」テイストな主題に対して明快かつ爽快感ある展開で進んでいき、神秘的なラブロマンスとして非情に強度のあるストーリーラインに仕上がっている。

いろんな要素で自分に刺さる要素ばかりで「映画本来の面白さはこれだ」という概念の塊をぶつけられた大傑作でした。


1位「春原さんのうた」(杉田協士)

名古屋シネマテークにて。
コロナ渦の中で愛する人の喪失感に向き合う女性のお話。
空間やそこに配置された虚像と実像に強い主題が存在して、喪失感が室温に放置された氷のように徐々に溶け出していくような映画である。
全編通じて静かに平和が浸透していき、ゆったりした時間軸の中で見守る優しさに昇華していく。
映画だと分かっていても、まるでそこにいるような映画と現実がシームレスに繋がっていて、今を生きる我々の心に直接浸透していく魅力があった。

この感情は他のどの映画にもなくて、観終わった後にボロボロ泣いて前へ進もうと奮い立たせてくれる「春原さんのうた」が2022年で最も好きな映画になりました。


特別枠:0位「MEMORIA/メモリア」(アピチャッポン・ウィーラセタクン)

映画についてもっと詳しくなりたい、深堀りをして映画の良さを最大限に引き立てたい。
それを強く実感させ、本気にさせてくれたきっかけの映画が「MEMORIA」である。
この映画のために色々と準備して、準備した先にある達成感は他の映画にはない魅力が詰まっているのだ。
映画として素晴らしいけど、それだけでは説明できない映画の空気感や主題の奥行きがあって個人的には特別な映画の一つになりました。
(あとは去年の東京国際映画祭で鑑賞した映画でもある)


※2022年旧作映画ベスト10

10位「ひとつの歌」(杉田協士)

9位「マルケータ・ラザロヴァー」(フランチェク・ヴラーチル)

8位「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」(シャンタル・アケルマン)

7位「ダムネーション/天罰」(タル・ベーラ)

6位「WANDA/ワンダ」(バーバラ・ローデン)

5位「裁かるゝジャンヌ」(カール・テオドア・ドライヤー)

4位「オルメイヤーの阿房宮」(シャンタル・アケルマン)

3位「奇跡」(カール・テオドア・ドライヤー)

2位「ガートルード/ゲアトルーズ」(カール・テオドア・ドライヤー)

1位「囚われの女」(シャンタル・アケルマン)



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