トーマスさんのこと−1
もう2週間前になるけれど、オランダのアムステルダムからトーマスさんが、来てくれたのでした。
1週間にわたって、スタジオの整備、去年購入してそのままになってた足踏み活版印刷機の使い方の講習、うちのスタッフ向けの欧文活版印刷の基礎講習に加え、オランダの活字デザイナーについてのオープンレクチャー、丸一日のレタープレスワークショップ開催と、予定がびっしり詰まった7日間だった。
トーマスさんは、グラフィックデザイナーであると同時にヨーロッパのレタープレス界ではかなり名前の知れたプリンターでもある。なにより、細山田さんがレタープレスの世界に、本格的に足を踏み入れるきっかけを作ってくれた、お師匠さんなのだ。
そもそも、17歳の時にアムステルダムのレタープレススタジオに出会い、そこから、69歳になった今まで、ほぼずーっとレタープレスと関わってきたトーマスさん。グラフィックデザイナーとして、ロンドン、パリで活躍したのち、アムステルダムにLetterpress Amsterdamという名のレタープレススタジオをオープン。
今も年一回ミラノで開催される、LWS (レタープレスワーカーズサミット)を最初に主催したのも彼である。
えてしてシャイで、横のつながりがうすいレタープレスを愛するクリエーター同士をつなぐ場として、新しい技術やアイデアを交換する場として、今でもLWSは本当に貴重なイベントで、最初にこのアイデアを形にした、トーマスさんの行動力には感謝しかない。
そんなトーマスさんがはるばる20時間もかけて、アムステルダムから日本の富ヶ谷まできてくれたのは、うちのスタジオをどうにかきちんとしたレタープレススタジオに整備したい!というわたしたちの悩みを解決するミッションをお願いしたからだった。
日本語の活版印刷所も文字の数がものすごく多いから、おそらく3000文字以上、整備も大変だとおもうけれど、欧文の活版スタジオもなかなか手強い。
そもそも、イギリスーアメリカでつかわれていた活字と、ヨーロッパで使われていた活字はその高さが、ほんの数ミリだけど、異なる。イタリアはまたヨーロッパともイギリスーアメリカとも違う、独自の高さの活字を使っていた。 国によって活字の高さが違うから、当然それを一緒に印刷することはできなくて、それぞれの高さにあった、スペースやリード(行間をつくるもの)が必要なのだ。
わたしたちのスタジオは、そんな高さの異なる、いろんな国の文字が、混ざっていて、まずはそれが大きな問題。 それ以外にも、文字の間を埋めるスペースがサイズごとに整理されていなかったり、印刷機のローラーが長年の怠けた使い方で、ゴミがたまりまっくってたり(汗)、ものさしやカッターなど、作業するときによく使う道具が、なぜだかしょっちゅう行方不明になっていたり、使いたい時に使いたいツールが手元にないことがしょっちゅう起こる。トーマスさん、どうか助けてください!
アムステルダムのトーマスさんのスタジオは、わたしがこれまでみたスタジオの中でもトップクラスに整理整頓されているスタジオだった。
一文字一文字、活字を組み合わせ、活字の間の間隔を調整し、行の幅を思った通りに組んでいく。そんな欧文の組版では、必要な大きさのツールがすぐに探せることが何より大切。そのためにも、システマティックに、活字とツールが整理されていなくてはいけない。
わかってはいても、これがなかなかできない。 そもそもの、欧文活字の組版のしくみをよく理解していなければ、なにがどこで必要なのかも的確にはわからないからだ。
今回、チームのみんなが、トーマスさんと一緒に、活字を正しく組んで印刷するというすべての工程を、いちから学び直すことで、スタジオがより使いやすい、とうか本来あるべき姿がなになのか、が具体的に見えてきたきがする。
先日、帰国したトーマスさんから、「僕が帰ったあとで君たちがしなくてはいけないことリスト」がおくられてきた。A4用紙4枚にびっしり写真いりで。
トーマスさん、次回日本に来た時には、きっとよくやったっと、ほめてもらえるスタジオにしておきます。
7日間、本当にありがとうございました。