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リアルとバーチャルが融合する街

拝啓
 穏やかに秋が深まる今秋、いかがお過ごしでしょうか。お忙しい中でも爽やかな季節を満喫なさっていることと推察します。
 さて、日頃は何かといたらぬ私に、いろいろとお心遣いをいただき、言葉では言い表せないほど感謝しております。
 先日も引っ越し祝いの席にご出席いただき、ありがとうございます。その時にお祝いとして頂いたお皿がリアル空間に届きました。バーチャル空間で見た時も白地に青の模様が美しいと思いましたが、実物はしっとりとしたつや感も相まって、白と青のコントラストが際立っています。大切に使っていきたいと思います。
 それでは、次はリアル空間の部屋にも是非遊びにきてください。紅葉入りの紅茶を手に入れましたので、一緒にお茶を楽しみたいと思っています。
 略儀ながらまずは書面にてお礼まで。
敬具
9月12日
桑藤 優花

 私は先日、コンセプトシティのマンションの一室に引っ越しをした。この街はリアル空間の情報が反映されるバーチャル空間がセットになっている。いわゆるデジタルツインというやつだ。
 部屋の中も同様で、バーチャル空間の部屋の模様替えを申請すると、リアル空間の部屋に業者がきて模様替えしてくれる。契約しているサービスにもよるが、半年に1回程度が無料で、それ以上に模様替えしたい場合は有料である。
 家具や雑貨、服等はポイントで交換して取得する。シェアリングの方が安いが期限が決まっていたりと制約がある。買取もあり、モノによってはこちらを選択することも多い。友達にプレゼントすることもでき、先日引っ越し祝いとしてお皿のセットをもらった。
 街の様子もリアル空間の様子がバーチャル空間に反映されている。天気はもちろんのこと、走る車や道を歩く人もデフォルメされて反映しているので臨場感が高い。祖母とバーチャル空間を散歩したところ、「昔は道を歩く人や車の数を数える人が時々いたんだけど、もう必要ないね~」と言っていた。そんな不確かなデータで大丈夫だったのか気になってしまった。
 街のデジタルツインについては様々な意見があるが、私はこの街に引っ越してきて良かったと思っている。引っ越し祝いのパーティでは、リアルでは部屋に来てもらうことが難しい人たちにも参加してもらえた。まあ、今はほとんどが初期設定の家具だから、部屋が整ったらまたみんなで集まりたい。
 そのためにはポイントを貯めないといけない。ポイントは、加入サービスに含まれている分、お金で購入、クエスト達成のだいたい3パターンで取得できる。クエスト達成とは、「横断歩道で小学生の登下校を見守る」という簡単なものから、「模様替え作業」といった重労働など、色々な仕事があり、達成するとそれに合ったポイントがもらえる。街の住人の依頼なんかもあるので、住人同士の交流も生まれたりするらしい。今度、掲示板を見に行ってみよう。そんな話を母と話していると、「まるでゲームの冒険者ギルドみたいね~」なんて言っていたけど、魔物退治とかはないので少し違うかな。
 リアルとバーチャルがゆるーく連携しあう街、今後も色々なサービスが試行されていくだろう。肌に合わなければリアルだけの世界に戻ればいい。私はこれからこの街で暮らしていく。
以上

街の設定
・街中で死角ができないように監視カメラを配置
・道路や橋、水道管や電線等のインフラ設備にはセンサ追加
・カメラ映像から道を利用する車や人の、属性や数を取得
・街の管理室ではセンサ値と通行量、天気等から街の劣化監視と整備を実施
・不審な動きをする人や車がいたらアラート発信
・住民に提供しているバーチャル空間では、人や車の動きはデフォルメされたアクターで表現する(プライバシー保護のため、誰かはわからない)
・家の中の動作はもちろん計測していないし、他人の家には勝手に入れない(招待制)
・お店など、一般公開している建物には入ることができる
・街の統計データの一部は購入可能でデータを提供すれば解析の依頼も可能
・コンセプトとしてリアルと乖離したバーチャル空間を作成することは禁止
以上

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