日本唯一の砂漠で迷子になった
伊豆大島には日本唯一の砂漠がある。裏砂漠と呼ばれる。
日本国土地理院か地図上で「砂漠」と表記されるのは、日本中探してもここだけである。
裏砂漠は、大島温泉ホテルから30分ほどのトレッキングコースを歩くと着く。
ミステリーきっぷで伊豆大島に到着したのは午前6時だった。空はまだ夜のように暗かった。
到着した岡田港の前にはバスが何台か停まっていた。元町港行きのバスと、大島温泉行きのバスが目についた。
大島温泉ホテルには、大島のランドマークである三原山が一望できる露天風呂があると、前もって調べて知っていた。温泉行きのバスに乗ることにした。
10分か20分程度バスに揺られ、大島温泉ホテルに着いた。
フロントで温泉と朝食をお願いした。ホテル到着が6時半頃、朝食は7時からとのことだったので、先に温泉に入ることにした。
露天風呂に入ったとき、まさに夜が明けようとしていた。東の水平線からやわらかい色の火球が滲んでいるのが見えた。
しばらくそれを見ていると、太陽はゆっくりと水平線から顔を出した。日の出の瞬間に日を見ていたのはこれが人生で初めてだ。
温泉から上がったあと、朝食を取る。バイキング形式で、和食も洋食もあった。これから三原山に登るつもりなので、エネルギーを蓄えるべく、主食、鮭の塩焼き、卵焼き、味噌汁、サラダ、ナポリタン、ヨーグルトと色々と食べた。大島牛乳とやらも飲んだ。
ホテルから三原山に向かう。
ホテルからは土日祝のみ三原山口行きのバスが出ているようだが、わたしが行ったのは平日だった。そのため、山には歩いて登らないといけない。
ホテルでトレッキングコースの地図をもらい、山に向かう。三原山に向かう途中で裏砂漠にも行けることを知り、裏砂漠にも寄ることにした。
40-50分ほど歩き、裏砂漠に着く。
まるで地球でないかのような景色だった。
裏砂漠の砂は黒い。強風により植物の種が飛ばされ、裏砂漠に植物はない。ただただ黒い砂がずっと向こうまで広がっている。
10分ほど写真を撮りながら風を味わっているうちはよかった。
さてではトレッキングコースに戻るか、と思ったものの、帰り道がよくわからない。あまり一面砂漠なので、目標となるものがないのである。
ヘンデルとグレーテルのようにビスケットかなにか目印になるものを落としてきたらよかった、と思った。
トレッキングコースは裏砂漠から北の方角にあることは把握していた。
しかしスマホは圏外で、Googleマップは頼れない。電波がないとわたしはなんと無力なのだろうと思った。
しかもスニーカー、セーター、ジーンズにウールのコートというトレッキングをあまりにもなめた服装で来てしまったため、足は砂に取られ、滝のように汗が流れるも砂漠の強風ですぐに冷えて、暑い上に寒いという不思議なことになっていた。あまり長い時間迷子になっているとまずいというのが直感的にわかった。
わたしは名探偵コナンの大ファンなのだが、昔コナンが「日本は北半球なので、腕時計の短針を太陽に向け、その短針と12時の真ん中の方向が真南」と言っていたのを思い出した。
コナンの教えに従い、腕時計と太陽を頼りに北の砂丘を登ると、やがて海の向こうに富士山が見えた。
伊豆大島から富士山は北西に位置するため、富士山を目印に歩きてなんとかトレッキングコースに復帰することができた。
迷っていた時間は30分ほどだったと思うが、ヒヤヒヤした。なめた装備で砂漠に行くのは絶対にやめようと思った。
(※あとから知ったのですが、iPhoneのコンパスは電波がなくても使えるらしい)
コナンと富士山に救われた。
地図が発達した現代では迷子になることは減ったが、かつて地図がなかった時代、もしくは性格でなかった時代は、富士山のような超弩級のランドマークを目印に人は旅をしていたのだろうなと思った。
無事トレッキングコースに帰ってきたので、今度は50分ほど歩いて三原山火口まで登る。
こちらも砂利というも石がゴロゴロ落ちているので、足首を固定してくれるトレッキングシューズで歩いたほうがよい。
さらに50分歩いて火口のまわりを歩く。お鉢巡りである。
三原山は活火山であり、最近だと1986年に全島民避難となるほどの噴火をしている。もし今急に噴火したらわたしは絶対に助からないな〜と思いながらお鉢を巡る。
一応山腹にシェルターはあるが、これでどの程度噴火の被害から逃れられるのかはわたしには分からない。
お鉢巡りを終え山を下っていると、砂利に足を取られて転んだ。ずるっとゆっくり尻もちをつくこけ方で、怪我はなかった。
とはいえ、やはりスニーカーで登るのは心許ないなと思った。
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