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買えばよかったおみやげ
わたしは旅行先で、あまり自分へのおみやげを買わない。
パッと見ていいなと思うおみやげとはたくさん出会ってきたけれど、それを買って身につけている自分や、それがインテリアとしてと置かれている自分の部屋がどうにも想像できなくて、買わないことが多い。
買わなかったおみやげを「あれ買ったらよかったな」と後悔することはほとんどない。ほとんど。
ただ、ほんのいくつかだけ、買わなかったことが心に残っているおみやげがある。たぶんそれらは買ったほうがよかったおみやげなのだろう。
インドネシア 離島で見かけた珊瑚のネックレス
小学生の頃、父親がシンガポールに住んでいたので、わたしも長期休みはシンガポールに滞在していた。
父親は仕事で忙しい人だったが、マレーシアへの出張にわたしも連れて行ってくれた。休みの日は離島ツアーに参加した。どこかの小さな島に行く、日帰りのツアーだったと思う。
船底は透明のガラスか何かでできていて、海の中が見える船だった。
そこの海はとても住んでいて、日本近海では見られないような色鮮やかな熱帯魚がたくさん泳いでいた。
離島は観光地で、船着場のそばに屋台のおみやげ屋が並んでいた。
屋台には観光客向けの雑多なおみやげがたくさん並んでいたが、その中で目を引かれたのは、ピンク色の珊瑚のネックレスだった。
桃のように少しオレンジがかったあたたかいピンク色の珊瑚と、確かゴールドの細いチェーンのシンプルなネックレスだったと思う。
もしかしたら父親にお願いすれば買ってもらえたのかもしれないが、なんとなくそんな気にならなかった。そのときは欲しいと思ったというよりも、ただ目を惹かれた、というだけだったから。
ただ、あれから20年近く経つ今でもあの珊瑚のネックレスのことをわたしは克明に覚えている。
わたしはかなり忘れっぽいほうだ。20年近くに色々なことを覚えて、色々なことを忘れた。
そのなかでほんの一瞬見かけただけなのにいまだ忘れない珊瑚のネックレスを、きっとわたしは買うべきだった。
ロシア サンクトペテルブルクのインペリアル・イースター・エッグ
インペリアル・イースター・エッグは、金細工師ファベルジェによって作られ、ロシア帝国ロマノフ王朝の皇帝に納められた卵形の飾りもののことをいう。
本物は現在はモスクワのクレムリンに展示されているようだが、レプリカはみやげもの屋にたくさん売っている。
大学のとき、サンクトペテルブルクにいった。サンクトペテルブルクのちょっと上等なみやげもの屋には、インペリアル・イースター・エッグのレプリカがたくさん売られていた。
わたしは名探偵コナンのファンなのだが、『劇場版名探偵コナン 世紀末の魔術師』に、このインペリアル・イースター・エッグが登場する。
ロシアでインペリアル・イースター・エッグを見たとき、「これがあのエッグ!」と感動した。
が、レプリカとはいえ良いものなので、大学生の身分で買うには少し高かったため、断念した。
大学を卒業して就職して、またロシアに来たときに買おうと思っていた。しかしロシアのウクライナ侵攻によって、そう簡単にロシアには行けなくなってしまった。こうなることがわかっていたら、背伸びをしてでもあのインペリアル・イースター・エッグを大学生のわたしは買っただろう。
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