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振り返らなかった #シロクマ文芸部

注意:今日のお話はいつもと違ってふんわかほんわかしておりません。楽しいお話でもありません。風鈴ではなく不倫がでてきますので、気が進まない方は迷わずここまでにしてくださいませ。

振り返るのはいつも私の方だったからずっと気づかなかった。あなたが振り返らない人だということに。

ふたりが親友になったのは高校時代のことだ。良くある話だけれど、苗字のあいうえお順で決まった出席番号が「遠藤」と「岡村」で前後だった。それが始まりだ。そうこうしているうちに、あんなことやこんなことがあって、仲良くなった。長くなるのでここははしょりたい。とにかく、男女の友情なんて信じていなかったけれど、こういうことってあるんだなと不思議だった。恋愛感情が一切なかったか、といえば、ちらり、はらり、ほろり、くらいはあったかもしれない。けれど、恋愛でくくったら終わりが来てしまうかもしれない、という変な思い込みがさや子にはあった。よくあるセオリーかもしれないけれど、別に真実でもなんでもないわけだったのに、とにかくそう思い込んでいたから、せっかくの親友を手放すような危険は冒したくなかった。

あれから十五年もたった。岡村から聞いてほしいことがあるとよばれていってみれば、その相談というのが、「不倫している」というのだ。びっくりした。美人の妻がいて、妊娠中だと聞いたばかりなのに。誰にも言わずに黙っていればいいのに、良心の呵責に耐えかねてさや子に告白したのだという。今まで一度も腹が立ったことがないのに、その時は腹が立った。別れたほうがいいよね?と聞かれたからだ。岡村だってただのオトコだ。別に不思議はないかもしれない。けれど、びっくりした。青天の霹靂くらいびっくりした。岡村を聖人君主だと思い込んでいたのかもしれない。

でも親友だからこういった。

「ねえ、もし、奥さんが同じように誰か別の人に抱かれてるとしたらどう?あなた耐えられるの?」

いつも岡村は駅の改札をぬけていくさや子を見送ってくれた。振り返ると目が合うから、必ずさや子は一度振り返った。癖のようなものだ。

「今日は私が見送るね」と伝えると彼は改札をくぐっていった。彼は振り返らなかった。

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シロクマ文芸部だというのに、小牧部長が読むというのに、こんな話になってしまいました。このあと、岡村はフォークに刺される予定です。ああ、どうしよう。だって、しめじさんのこのお話の印象が強すぎて、そして無性にこの言葉を誰かに言わせたくて。

小牧部長、来週は今年のしめくくりですね。
メリークリスマス♫


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