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カフェカワウソにて #シロクマ文芸部


珈琲と小鳥のカフェ、それが、清子さんがよくいく「カフェカワウソ」の謳い文句だ。

ドアベルを鳴らしながら店内に入ると、焦茶色の古い柱はよく磨かれて、つやつやとしている。まるでカワウソの毛皮のようだ。居心地の良い店は細長く、くつろいでいるカワウソの体のようにカーブを描いている。ほとんどの席が窓に面していて、四角いすべり出し窓から木漏れ日が差している。庭にはりんご、杏、アーモンド、桜、ゆすらうめ、山桃にかりん、それから、洋梨まで、いろいろな実のなる木々があり、その足元にはハーブや草花、それからベリーまで、ちょっとした楽園のよう。安全なその庭にはあちこちから小鳥たちがやってくる。

清子さんがよく座るカウンターからもその光景はよく見えた。カウンターの向こう側がガラス張りになっている。この店は彩光も木々の緑も空も、最高だ。ただ一つ問題点があった。なにぶん窓際が多すぎて、紫外線を浴びるのだ。室内で帽子をかぶるなんて無礼なこともできないし、何より寛げない。日焼け止めを塗ってくるのだけれど、いや、塗ろうとしているのだけれど、そこそこ不精者の清子さんはついつい「まあいいか」と塗り忘れ、いや、塗ってこない。すると、色白な清子さんでも、ちょっと頻繁に来てぼんやりしすぎると、こんがりとカワウソ色になっていく。

「色白は七難隠すっておばあちゃんに言われたんだけど、七難ってなんだろう?」

ある日、ふと清子さんは考えた。ふむふむ、一難めはとりあえず、顔立ちってことだろう。昔の人って本当に今だったらみんなセクハラとレイシズムで責められるわよと思いつつ、次々、二難めは?え?何かしら。

清子さんは凍りついた。七つあるはずなのに、一個しか思いつかないなんて。自分の想像力の無さにガックリとした。そもそもこれは褒め言葉なんだろうか。褒め言葉だと信じてきたけれど、考えてみると、色が白いからあなたちょっとまあいろいろゴニョゴニョゴニョって言ってたのかしら、おばあちゃん。

そもそも、清子さんはこの少しこんがりとした肌が嫌いではない。健康的でいいではないか。花緒さんは清子さんの白い肌を羨むけれど、清子さんは花緒さんの秋色のよくはえる肌色がとても好きだ。

からんころ〜ん

「マスター、カワウソコーヒーひとつお願いします」

花緒さんがにこやかにやってきた。
そういえば、珈琲もカワウソ色だなと清子さんは思いつく。カラメルソースも、ミルクチョコレートも、それから、ココアだって。清子さんはその日初めて気づいた。世の中にはカワウソ色の好きなもので溢れているのだと。

(清子さんシリーズ)

☕️

今週も無事にシロクマ文芸部に参加できました♪
小牧部長、いつもありがとうございます。

ムスメ時代に(若い頃っていう意味)祖母によく、清子さんと同じことを言われました。その頃はとっても色白だったんです。今は、トラオさんと一緒に日焼け止めを塗らずにノーメイクで歩き回っているので、すっかりカワウソ色になりました。

カフェカワウソはカフェペンギンの隣近所にありそうです。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。