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ひみつの種 #シロクマ文芸部

手渡されたのは光る種。
もしかしたら、これはもしかしたら!
震える手が私の興奮を伝えている。

彼と出会ったのは約一年前、
いつも行く団子屋さんの前でのことだった。
私は大好きなきなこあんこ団子を、
えいやと、残っている五本全部大人買いした。
後ろに並んでいた人から

「ううう」 

と声にならない呻き声が聞こえて
振り返ってみたらなんとも恨めしげな表情の彼がいた。
ハッとして、

「もしかしたら、きなこあんこ団子?」

と声をかけると、首を縦にぶんぶんとふった。

「すみません、きなこあんこ、三本に減らしてもらえますか?」

お店の人に頼んで減らしてもらった。
きなこあんこ団子愛好家としての矜持を保ち、
仲間と分け合うのは大切なことだもん。

その後は恋愛漫画のように、
二人はめでたく付き合うことになった。

そんなある日のことだった。
彼がこういった。

「ねえ、知ってる?
 金のなる木ってあるじゃない?
 あれみたいに、団子のなる木っていうのがあって
 その種は幻の種って呼ばれているんだって。
 しかも光っているらしいよ」

知らなかった私は、その木の種が猛烈に欲しくなった。
二人のお付き合い一周年記念にぜひその種を手にいれ
育て始めたい、という強い願望が芽生えていた。

一方、仕事が忙しい彼とはなかなか会えない日々が続いた。
私は一人必死に団子のなる木の種を探していた。
見つけられないと二人が壊れてしまう、
そんな幻想まで抱いて、憔悴していた。

そしてとうとう一周年記念日がやってきた。
仕事の忙しい彼からの連絡はなく
トボトボと一人家に帰って、種探しの疲れで
うとうと眠り込んでしまった。

ピンポーン

目をこすりながら、ドアを開けると彼が立っている。
あれ?夢かな?
ほっぺたをつねったけれど夢じゃない。

彼が怖い顔をして立っている。

え?何?まさか別れを決意して?

「今日じゃなくてもいいんじゃない?」

つい口からこぼれてしまった。
すると彼は

「いや、今日じゃなきゃダメ」

半狂乱の私は

「いやだ、別れるなんて、いやだ。
 まだ一緒にいっぱいお団子食べたいもん!」

と叫んだ。

すると彼がこういった。

「ええええ?誰が別れるの?
 僕は光る種を届けにきたんだよ」

手渡されたのは光る種。
固くて、丸い輪のついた。
多分お団子はならない。
ずっと一緒にお団子は食べられるみたいだけど。

ほんのさっき、こちらの企画に気づいて、
即興で書いてみました。

小牧さん、今回も楽しませていただきました。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。