外航船員として「チューター」沈没を見て思うこと

皆様ごきげんよう。
LLSY music & V chのレーシーです。

6月19日、Red Seaでリベリア籍のバルクキャリア、MV TUTORがラジコンボートの攻撃を受けて沈没したことはニュースで見ている方も多いかと思います。

フーシ派の海賊行為は過激になる一方で、その標的となっているのは一般商船たちです。
NYKのGalaxy Leaderが拿捕されその様子が動画として拡散し衝撃があったのが去年2023年の11月。
私が紅海を航行し目の前で一般商船がドローン攻撃を受けたのを目撃したのは同年12月でした。
そこから半年以上経ち、まだこのような事件が起きていることに衝撃を受けています。
攻撃が続いていることというより、この状態でまだ紅海航行を指示する傭船者がいることに、です。

スエズ航過後止まったままのMV.TUTORのAIS情報

船主業から荷物の手配まですべてできる超大企業でなければ、基本的に船の運用に携わるのは一社ではありません。
船を所有する船主、管理を行う船舶管理、乗組員の配乗を行うマンニング、そしてその船を借り受けて運用する傭船者(チャーター)などに分かれます。
基本的に私たち乗組員はマンニング、日本人の場合は管理会社(船主を兼ねてるところも多い)からくることが多いです。
乗船している間の航路や荷物は基本傭船社の指示に従います。

船上は思ったより情報が入ってこない

船に乗っていると陸上の情報はとたんに入ってこなくなります。
この辺りは管理会社にもよるかもしれませんが、基本的に陸上より通信が制限されているなかで得られる情報は多くはありません。
私たちも去年12月に紅海を通ったときは、チャーターやオーナーからその危険性を伝えられることはありませんでした。

紅海航行のセキュリティ事情

私が紅海を通過したときは、紅海~アラビア半島沖にかけてはHRA (High Risk Area)に指定されており、セキュリティが乗船してきていました。さらにデッキ上のハンドレールには鉄条網を巻き、消火ホースを展開して放水の用意をしておきます。
しかしセキュリティも人数は3人、単発式のライフル銃を1丁ずつ持ってくるだけなので、日本郵船のときのようにヘリで乗り付けられたり、私が見た時のように飛行ドローンで攻撃を受けたり、今回のMV.TUTORのようにドローンボートで攻撃を受けるとなす術がありません。

スエズ運河はヨーロッパとインド洋、アジアを繋ぐ大動脈ですが、代替ルートとしてはアフリカをぐるっと回る喜望峰経由があります。
スエズに比べて3500nmくらい距離が延びてしまい、季節によっては非常に荒れる海域ですが、気象情報と船長の判断でリスクを低減して走れるルートと拿捕、沈没の危険性がついて回るルート、どちらが危険かは言うまでもないと思います。

もちろんどのような事情があってどういった状況で走っていたかは知りませんが、チャーターやオーナーがコスト面しか見ていなかったり、無理をおしたりして直接危険にさらされるのは船員たちで、その船員はほとんどの場合、チャーター会社や荷物の出入りする国とは全く関係のない人々であったりするものです。

乗船する以上様々なリスクはついて回るし、陸上で暮らすよりもそれが大きいだろうということは納得して私たちは船員になっていますが、深夜を回った紅海でVHFから聞こえる叫び声を聞きながら、ミサイルのような光が飛んでいくのを見ながら私が思ったのは「こんな思いをするために船員になったんじゃなかったのに」ということでした。

今年もまた不定期航路の船に乗ります。
ドイツチャーターです。
安全な航路、港に入ることを祈っています。

レーシー -LLSY music &V Ch.- - YouTube








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