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生きづらい人びとのために図書館ができること

 自宅の近くにある公共図書館は私のお気に入りの場所であり、休日は図書館通いをすることが多いです。これまでの自分の人生を振り返ると、本と出会ったことで生きることを支えられたという体験がいくつも思い浮かんできます。「図書館は読書が好きな人が利用する施設」というイメージをもっている方が多いかもしれません。でも、生活上の困難をかかえていたり何らかの生きづらさを感じている人びとのために図書館が果たせる役割もあるのではと考えてみました。

 図書館は失業中の方、精神的不調などで休職中の方、ホームレス、何らかの事情で学校に行っていない子ども、家族間で軋轢のある方などが無料で昼間の時間を過ごせる場所としての役割を果たせることに注目したいと思います。児童文学書『しずかな魔女』(市川朔久子、岩崎書店)では、学校に行けなくなった主人公の少女が、他の利用者の視線を気にしながら図書館通いを始めます。そこで出会った司書から手渡された物語を読むことで少女の内面に静かなそして確かな変化が生じます。また、「パブリック~図書館の奇跡~」という映画が昨年公開されました。この映画では、寒波が街を襲ったある日、ホームレスの人びとが「宿泊させてほしい」と図書館にやってきました。ある職員がその要求にこたえるところから思いがけないストーリーが展開します。

 図書館で読んだ本が生きる支えになったり、人生の課題を解決する手がかりになることもあるでしょう。児童文学書『坂の上の図書館』(池田ゆみる、さ・え・ら書房)では、ひとり親家庭できびしい生活状況におかれている少女が、図書館で本と出会ったことがきっかけとなって、生きる希望を見つけ出し、成長していく姿が描かれています。

 生活苦、精神的不調、社会的孤立など悩みや不安があるけれども相談相手がいないという方は多いと思われます。そうした人びとがかかえている課題を解決するために役立つ本や情報を探すのを図書館職員が手伝うことができるのではないでしょうか。生きづらい人びとは複数の困難を同時にかかえていることも多いのです。図書館にはさまざまな分野の本があるので、そうした方に役立つ可能性があります。身近な公共図書館に、仕事探し、学び直し、福祉制度、健康・医療、役所の利用方法などの新しい情報が得られるような本を備えておいてほしいものです。また、図書館職員と福祉分野などの専門家が協力して利用者の相談に対応する試みがあってもいいのではないでしょうか。

 慢性的な病気や精神疾患で不安などをかかえている方には、当事者が書いた体験記、闘病記が参考になるでしょう。例えば鳥取県立図書館では闘病記文庫と医療・健康情報サービスを解説したリーフレットを作成しています。私がいつも利用する公共図書館にも闘病記を集めたコーナーがあります。

 課題ごとに役立ちそうな本の蔵書リストが備え付けられていると、利用者が必要な本を探すのに役立つと思います。また、課題解決に役立つ本を集めた棚があれば必要な本を探しやすいことでしょう。有用な情報が書かれたパンフレット・チラシなどを自由に持ち帰れるように置いておくのもいいでしょう。例えば、ホームレスの方のために役立ちそうな情報をまとめたパンフレット(市民団体が作成したもの)を置いている図書館も増えています。

 海外からの移住者(外国人)で日本語を使いこなせない、生活するうえで困りごとをかかえている方が増えています。また、外国籍であって学齢期にありながら未就学の子どもが多いことも深刻な課題となっています。生活に必要な情報を入手できるように支援したり、
日本語を学習するための方法を助言したり資料を提供する、母語で読める本を備えるといった役割が図書館に期待されます。ちなみに、私の近所の図書館には『外国人のための日本のくらしと法律』、『ニューカマー定住ハンドブック』といった本が並べられています。また、「やさしい日本語」や多言語で書かれた利用案内も必要だと思います。

 図書館の蔵書、図書館という場所が困りごとや悩みをかかえている人びとのために役立つ可能性は大きいと思います。また、「図書館に行けば、解決の手がかりがみつかるかもしれないよ」というメッセージを何らかの方法で多くの人びとに届けてほしいものです。

以下、ご参照ください。

「脱ホームレス」のきっかけは、図書館でつくれる。  ビッグイシュー


映画「パブリック~図書館の奇跡~」公式サイト


 数年前、鎌倉市図書館によるSNSへの投稿(「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。」)が話題になりました。

「学校を休んで図書館へ」から2年 鎌倉図書館長に聞く  不登校新聞


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