私の好きな短歌(その2)
明日あると信じて来たる屋上に旗となるまで立ちつくすべし
道浦母都子 『無援の抒情』
希望と絶望のはざまで、孤独につつまれながらも自らの意思を確かめる姿。
皴のばし送られし紙幣夜となればマシン油しみし母の手匂う
岸上大作 『意志表示』
幼い頃、父親を亡くした作者は母親から仕送りをしてもらいながら東京で学生生活を送っていました。在学中に自死した後に歌集が出版されました。
君の目に見られいるとき私はこまかき水の粒子に還る
安藤美保 『水の粒子』
日本の古典文学の研究を志していた作者は20代の若さで比叡山で事故死しました。歌集は作者の死の翌年に出版されたものです。
あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ
小野茂樹 『羊雲離散』
この作者も交通事故で30代で亡くなっています。
青春はなおそれぞれに痛ましくいま抱きおこす一束の薔薇
松坂弘 『輝く時は』
大切にしていたはずのものを打ち砕かれた痛み。その行方を思う。
渡らねば明日へは行けぬ暗緑のこの河深きかなしみの河
小島ゆかり
どのような深いかなしみの中をも生きてゆかねばならない人間の姿。
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