難病の意外な一面

 ウィリアムズ症候群という遺伝性の難病があります。染色体の一部の欠損や遺伝子の一部に特徴的な変異が見られる病気です。心臓血管系などに症状が現れます。意外なことに、人なつっこくて可愛いイヌの遺伝情報を解析すると、このウィリアムズ症候群と同様の変異が見つかったのです。実はウィリアムズ症候群の人びとは人なつっこい性格の方が多いことが知られています。
 今では人間の愛玩動物であるイヌはもともとオオカミの一種でした。オオカミは警戒心の強い動物ですが、中にはそうでない個体もいたことでしょう。ヒトをこわがらない特性をもったオオカミがヒトの居住地域に近づき、ヒトがそのオオカミにエサを与え始めたという想像ができそうです。そして、ヒトとイヌの親密な関係がかたちづくられてきたのでしょう。いつ頃かは定かではありませんが、そうしたイヌの中にウィリアムズ症候群と類似の遺伝的変異が生じてヒトに好まれ、飼育されるようになったのでしょう。結果的に、そうしたイヌはその特性のおかげで人間に大事にしてもらえて生存を確保できたと理解できそうです。

 「鎌状赤血球症」という遺伝性の難病があります。アフリカに多い病気です。赤血球が変形していて正常に機能しないため貧血症状などが起こる病気です。また、アフリカはマラリアという致死率の高い深刻な感染症が多い地域です。病原体である原虫が赤血球に感染する病気です。ところが、鎌状赤血球症患者の赤血球にはマラリアに対する抵抗性があるのです。そのため、マラリアの感染が多い地域では鎌状赤血球症の遺伝因子が保存されてきたのです。

 難病の遺伝的因子を一概に「あってはならないもの」と決めつけることの危うさを感じます。生物界における遺伝的な多様性の意義について更なる認識と理解が求められていると思います。

参考 イヌとウィリアムズ症候群の関係性について(獣医師加藤桂子)


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