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黄昏時のクルミ林にて

梅雨が明けると会いに行きたくなる虫がいます。クルミの林に生息するオオアオカミキリです。サワグルミやオニグルミがまとまって生えている山間部にすんでいます。今回は盛夏を彩るオオアオカミキリを紹介します。

どこにいる? クルミ林を探そう!

まずは発生地であるクルミの林を探す必要があります。サワグルミやオニグルミといったクルミは主に渓流沿いに生えており、羽状複葉と呼ばれる9枚ほどの小葉が,鳥の羽のように先端と左右対称についています。また、オニグルミは,前年の葉が落ちた跡がサルやヒツジの顔のように見えることでも知られており、現地で迷ったときには決め手になるかもしれません。オニグルミの落ち葉は他の植物を排除する物質を含むため、渓流沿いの開けた場所にまとまって生えていることが多いものです。太い木では樹皮が縦の裂け目をもち,枝別れの少ない,大振りな樹形をしています。そして8月になれば,あの堅いクルミ種子を中に包み込んだ大き目の果実が鈴なりになっているのも、他の樹種との見分けるポイントになるかと思います。そしてリスなどに食べられたクルミの殻が地面に散らばっていたりします。

次に探すのは集まる場所!

さて,クルミ林にたどり着いてもすぐにオオアオカミキリが飛びまわっているわけではありません。その中でもオオアオカミキリが集まる場所を探しましょう。最も楽に観察できるのは,最近伐られたクルミの木です。そうした木材が林道脇などに積まれている場所を「土場」と呼びます。クルミの土場があれば朝から夕方までオオアオカミキリが飛んできて集まっていることがあります。なぜ集まるかというと,オオアオカミキリはクルミの新しい枯れ木や倒木などに産卵し,幼虫がその内部を食べるからです。自然界では弱ったクルミや台風などで倒れた木に産卵しているようですが,人間が伐ったクルミも大好物なのです。クルミの木材が運び去られていても,伐採されて残った切り株があれば,その切り株に集まっていることもあります。しかし,多くの場合そう都合よく伐採直後のクルミや倒れたばかりのクルミに出会えるとは限りません。

そこで,次に探すのがオオアオカミキリの好む花です。甲虫が好む花は多くの場合,白色をしているといわれています。この時期,咲いている白い花はリョウブやカラスザンショウです。カラスザンショウは大木になり,花が上の方につくため探しづらいですが,よく見ていると長い触角を頼りにオオアオカミキリを見つけることができます。カラスザンショウの花はテーブル状になっており,オオアオカミキリが花の上に乗っていると下からでは見つけにくいという難点があります。リョウブは穂状の花をつけており,注意深く観察すればとまっているカミキリを見つけることができます。日当たりにもよりますが,おおむねリョウブの方が花が咲く時期が早いと言えます。クルミ林のまわりでこれらの花が咲いていればオオアオカミキリが来ている可能性が高いです。ちなみにカラスザンショウも,クルミ類に似た葉の形(羽状複葉)や枝別れの少ない大振りな樹形をしており,遠目にはクルミ類とよく似ています。この時期に花をつけているという大きな特徴があり,また樹皮がボコボコ,枝がトゲトゲ(山椒の仲間なのでトゲがある)しているのでよく見ると見分けることができます。

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カラスザンショウの花にいたオオアオカミキリ

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リョウブの花

黄昏時のドラマ

オオアオカミキリ観察のだいご味ともいえるのが黄昏時の生態です。西陽のあたるクルミ林からやや孤立したクルミを見上げてみましょう。よく見ると灰色の樹皮にキラリと光るオオアオカミキリがとまっていることがあります。長い触角をもったオスがメスを待ち構えています。

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オオアオ3R

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ほかのオスが現れると激しい喧嘩がはじまります。孤立した木に集まるのは飛んでくる空間が重要だからではないかと考えています。幹を眺めていても,いつの間にか現れます。木のどこかに着地して,幹を歩き回ってメスを探しているようです。やがてメスが飛んでくるとペアになります。

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陽がかげるまでの1時間ほどの間,多くのオオアオカミキリが素晴らしい生態を見せてくれました。

クルミ切り株の幹に産卵

切り株に立ち寄ってみると産卵しているメスに出会いました。切り株からは萌芽もしており,こういった半分生きているようなクルミに産卵するようです。

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クルミ林に支えられている美しいカミキリムシの紹介でした。

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