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【エリコン特別企画】会期終了までひたすら務川慧悟を推していく!(第一次予選編)

※標題は敬称略

現在ベルギー・ブリュッセルで開催中のQueen Elisabeth Competition Piano2021(エリザベート王妃国際音楽コンクール/ピアノ部門2021)に出場している我が推しピアニストの務川慧悟さんを応援がてら、その活躍をつぶさに見て記録していこうという勝手企画である。
現在28歳の務川さんは第10回浜松国際ピアノコンクール5位入賞(2015)やフランスのロン=ティボー=クレスパン国際コンクールにて第2位入賞(2019)など輝かしい経歴を持つ、今後ますますの国際的活躍が期待される若手ピアニストの一人である。その彼が集大成として挑むエリザベート王妃国際音楽コンクール(通称エリコン)は、世界三大国際音楽コンクールの一つとされるほど権威あるものだ。毎年楽器部門ごとに行われ、4年に1度巡ってくるピアノ部門は本来なら昨年2020年に開催される予定であったが、コロナ禍の影響を受け2021年に延期、さらに無観客・会期短縮などの変更ののち、現地日付で2021年5月3日から29日までピアノ部門のコンクールが行われている。
事前審査を経て5月8日までの第一次予選に参加するのは58名。うち日本人は7名が参加している。が、先ほども述べたとおり、ここは勝手に務川さんを応援させてもらうことにする。

現地時間の5月5日午後8時。日本時間5月6日の午前3時(笑)。それでも事前に務川さんが「念を送って」とツィートしたこともあり、多くの務川ファンやピアノファン、音楽ファンが目覚まし時計を3時にセットし、配信された映像にアクセスして務川さんに熱い念を送ったのであった。私ももちろん目をこすりつつスマホを開き待機していた。
映像に映し出された会場の客席に、観客の姿は無く審査員の姿のみ。舞台上には側面に「MAENE」の文字が入ったスタンウェイが一台置かれている。
コールを受け黒マスクを着けて登壇した務川さん。黒のスーツにダークブラウンのシャツ姿がシュッとしてカッコいいね。マスクを脇に置いてから椅子をチェック。この時点で、見ているこっちの方が心臓バクバク。とにかく念じる。
務川さんは少し天井を見上げてから、ピアノに向き合い軽く指をほぐすように動かしてから、おもむろに右手でg-b-as-c-bの16分音符を奏でた。「ハイドン/ピアノソナタ第59番変ホ長調」。第一次予選ではベートーベン、ハイドン、モーツァルト作曲のソナタから一曲選び、その第一楽章が必須となっている。
軽快で美しいハイドンのメロディ。パリ国立高等音楽院フォルテピアノ科で研鑽を積む彼ならではの、無駄を排した明快な音色。1メロが終わり移行部に入ったところで、息を吐きながら視線を上に向ける表情に「もしや緊張があるのでは」とこちらも余計な力が入る。しかしもちろん音色は素晴らしい。曲の進みとともに音楽に入り込んだ表情や微笑み、高い位置からの打鍵や左手が舞うように返されるアクションなど、いつもの務川さんらしさが徐々に見られるようになり、画面越しのこっちも落ち着いてくる(笑)。メロディがカンタービレでちょっと切なさを持たせる。こういうのがね、務川さんの良いところなんだなー。堂々とした風格ある和音の後駆け上がるパッセージでフィニッシュ。

次は、申告していたエチュード4曲の中から審査員が選定した2曲が演奏される。
まずは「リスト/超絶技巧練習曲第10番」。流れ落ちるようなアルペジオから始まり速く強く、そして切なく。左手が場面を引っ張り、右手の高音が刹那的に響く。表情も素敵。ノッテる。ところでこの曲は、チャイコフスキーコンクール 第一次予選で藤田真央くんが弾き、拍手喝采スタンディングオベーションで沸いた曲。その映像は私も何度も繰り返し見て感動したのだが、真央くんの素晴らしい演奏とはまた異なる素晴らしさ。専門的に語れないのがアレだが、務川さんの方がよりエモーショナルというか陰影や激情を感じる。象徴的なのがラストの鬼右手のダダッダーダの連続に入るところ(語彙、笑)。真央くんは獲物を仕留めるみたいな入りが非常にカッコ良かったのだが、務川さんは悲哀に満ちたストーリーを踏み越えて行くようなエンディングだった。私にとってまた一つ忘れられないエチュード10が増えた。
続く「プロコフィエフ4つの練習曲第1番」は決然と、それでいてポップで不穏なプロコ感が完璧。臆せずしっかり強音なのがひたすらカッコ良い。公式でこの曲がYouTubeに上がっているので是非チェックを。鬼リピ確定のはずだ。

ラスト自由曲は務川さんならではのドビュッシー前奏曲集から「花火」。もし間違っていたら御免なさいだが、まず椅子を下げたような気する。最初の3連符から「ドビュッシーだー!」という音色の変わりよう。あとはもういつもの務川ワールド。夜空のあちらこちらで花火が瞬き、美しく流れて行く。非常に完成度が高く安定感ある演奏に、すっかり魅入ってしまう。ブラボー! 見ているこちらは、もう既にコンクールというよりも上質なリサイタルを見ていた気分だ。審査員の拍手にホッとしたような笑顔で応える務川さん。

務川さんの演奏は終了したが、第一次予選は5月8日まで続き、結果はその日の夜(日本時間5月9日午前7時頃)ウェブにて公開されるらしい。セミファイナルに進むのはたった12人。うーん、この素晴らしい務川慧悟というピアニストが残らないことはないと思うが、まあコンクールだから分からない。セミファイナル編も書けることを信じつつ、祈ろう! とにかく!






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