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【エリコン特別企画】会期終了までひたすら務川慧悟を推していく!(入賞者披露演奏会編)

エリコンからもうかれこれ4ヶ月ですか。早いものですねえ……じゃなくて! もうすっかり日が経ちましたが、ここまできたらしっかり記録として残しておきたいということで、この企画もラスト! 入賞者披露演奏会についてのレポート、さらにはちょっとした感想などを織り交ぜてお送りしたいと思う。

前回の「題名のない音楽会レポート」でも触れたのだが、エリコンではコンクール終了後からすぐに入賞者披露演奏会に出演することが決められていて、その曲目は既にコンクール申し込み時点で提出、しかもコンクールとは被りなしにしなければいけないそう。なかなか大変ですよね。膨大なピアノソロ曲に加え、協奏曲もセミファイナルのモーツァルトにファイナルの新曲と一曲、さらに披露演奏会にもう一曲を事前に用意しておかなければいけないわけですからね。
ところで入賞者披露演奏会とはどんな日程で行われるのかをまず見てみましょう。とりあえず6月に行われた分は、
6月7日 4-6位入賞者披露演奏会。ジョナサン・ヘイワード指揮アントワープ交響楽団とピアノ協奏曲。場所はResident Orchestra of the Queen Elisabeth Hall
6月9日 1−3位クロージングコンサート(入賞者披露演奏会)。ステファン・ドヌーヴ指揮ブリュッセル・フィルハーモニックとピアノ協奏曲。場所はCentre for Fine Arts, Brussels
6月12日 1−3位ステファン・ドヌーヴ指揮ブリュッセル・フィルハーモニックとピアノ協奏曲。場所はブリュッセル・コンセルトヘボウ。
6月17日 優勝者リサイタル。Queen Elisabeth College of Music, Waterloo
6月25日 優勝者リサイタル。Jünglinghaus, Eupen
6月26日 Musiq3賞(放送局賞)リサイタル Festival Musiq3 ・・・・

6月以降も特に優勝者のジョナサン・フルネル氏などは散発的にコンサートが組まれているのだがそれは置いておいて、とりあえず6月はこういう日程。ちなみに務川さん出演は9日と12日の2回が予定されていたが、務川さんは12日をキャンセルして日本に帰国した。26日山形から始まる反田氏との2台ピアノコンサートツアー出演が決まっていたので、隔離期間2週間を踏まえてのキャンセルでしたが、ご本人は断腸の思いだったことでしょう。

というわけで、今回は6月9日に行われたクロージングコンサートの模様を、例によって我が推し務川慧悟さんに特化してレポートしてみたいと思う。尚映像はエリコンHPで、いつまで視聴できるか不確かではあるが視聴することができるので、ぜひご覧いただければと思う。
エリザベート国際コンクール2021クロージングコンサートhttps://concoursreineelisabeth.be/en/watch-listen-detail/doc/51012/

6月9日夜8時。会場は前述の通りベルギー、ブリュッセルのCentre for Fine Arts。
舞台上にはすでにブリュッセル・フィルハーモニックが待機している。拍手と共にまず務川さん、続いて指揮者のステファン・ドヌーヴ氏がご入場。本日の務川さんはダークブラウンのシャツに黒のスーツ、グレーのポケットチーフに黒マスク。お辞儀をしマスクを取った後椅子をぐっと下げ調整、いよいよ演奏開始です。サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」。言わずと知れた2019年ロンティボーファイナルで演奏した曲ですね。

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第1楽章アレグロ・アニマート ヘ長調。木管の導入部から務川さんが第一主題を愛でるように優しく奏でる。私の中ではナイル川を下ってエジプトの町へと向かっているかのような希望と期待に満ちた爽やかな第一楽章。波のうねりのような大胆なオクターブ、川面のきらめきのような細かいパッセージ、川の流れのような左手アルペジオ。爪がきれいなピンク色だわ、健康状態良さそう(笑)。左手の返しがいつもながらかっこいい。などと思っている間にも第1楽章は終盤に。ラストのアルペジオ前半2音をピアノが弾き、後半2音をフルート2本で締める終わりが非常にキュートなのだよね。第1楽章を終え、ほっとした笑顔を見せる務川さん。緊張していたのかなあ。

第二楽章アンダンテ 二短調。アンダンテとはいえ激しい入り。「エジプト風」にどうも引きずられ考えてしまうのだが、夜の市場の雑踏の感じかな。混沌を通り抜け、行きついた先では地元の人々が静かに楽器をつま弾いている。そしてエジプト風と呼ばれるが所以のアラブ地域の民族楽器を思わせる音色をピアニストが次から次へと繰り出すパートが続く。
エキゾチックな展開を持つ和音が幕開け。可憐さとどこか哀愁を帯びた第1主題がエモーショナルに奏でられ静かに盛り上がる。穏やかで安らぐような宴会(笑)。と思ったら右手が鈴の音のような音色を楽しそうに奏し、それに乗せ民族的なメロディが流れる。
ちなみにだが中東アラブの楽器のサイトを貼っておく。弦をはじく楽器(カーヌーン)とか弦を叩く楽器(サントゥール)とかじゃららーんと鳴らすチターとか。たしかにそんな奏法も曲の中で登場するのでこの音は!とか想像しながら聴くと楽しいかも。しかし務川さんは変幻自在な音を出すなあ。情感たっぷりな表情が素敵です。

https://saisaibatake.ame-zaiku.com/gakki/gakki_zukan_arab.html

そして再び冒頭と同じ弦の刻みの中、まずは念を込めた右手人差し指だけで奏され、そのまま超アンダンテなピアノが夜を締めくくる。最後両手でアルペジオのラスト右手Dm和音のA-F、右手小指で押さえたFをフィニッシュの後薬指に置き換え、その一音だけを最後に残す。ついにその薬指が名残惜し気に鍵盤を離れ……

はい、そのままアタッカで第3楽章モルト・アレグロ ヘ長調。ティンパニと共にピアノが軽快で駆け出すような導入の後、グリッサンド~からの怒涛の展開。首を振り肩を入れ熱演の推しを見てほしい! そこからふっと抜くあの瞬間がいいんだよね。そこからは弾むような、まさに今旅真っ最中です、あはは~というような第二主題がピアノによって演奏される。表情も柔らかい。しかしその後ピアノは再び怒涛の激しい展開。最初は高音域から始まり、次第にピアノの端から端まで使う激しいアルペジオがほんっとに長時間続き、さらに激しく乱れ続く音型から上昇スケールで駆け上がって、ふっ! 嵐抜けた。動きの中にも左手のエモい返しを忘れない推し。素敵(またっ!)。ラストは鬼オクターブスケールからのフィニッシュ! 拍手! マエストロとコンマスと肘タッチを交わし、笑顔で挨拶する務川さん。ご臨席のロイヤルファミリーも拍手です。素晴らしかった!

というわけで、まさに見ている方はお祭りのようなエリコンもこれにて終了。さすがエリコン。出場者のレベルも高く、特に上位4名は既に演奏者しても十分な実績があり、今後も活躍が期待される方々だ(偉そうにすみません汗)。
しかしこのコンクールで改めて認識したのは、務川慧悟は本当に素晴らしいピアニストだということ。緻密で考え抜かれたプログラム、大きなミスも無く、私的には文句なしのナンバー1でした。そして3位という結果は凄い。世界三大ピアノコンクールで3位以内に入賞した日本人はそんなに多くないですし。本当に凄いことです! 
(まあここからちょっと愚痴ですが、ファイナルでフランス人のフルネルさんが大喝采浴びて優勝持ってったって、なんかデジャヴというか。あとちなみに優勝したフルネル氏は2016年から、2位のレドキン氏は2017年から、ファイナリスト達が軟禁生活送った、あのエリザベート王妃ミュージックチャペルの<アーティスト・イン・レジデンス>を務めていたことも心理的環境的に大きかったかもしれない。ちなみに<アーティスト・イン・レジデンス>の顔ぶれは既に一新されているのでご参考までに。新たな顔ぶれの中には、日本にもファンの多いアレキサンダー・ガジェヴ氏の名前もありますよ)

しかしこのコロナ禍の状況の中、コンクール主催者および関係の方々が開催に尽力されていたのは伝わってきた。オーケストラも指揮者も演奏中もマスクを外さず、オンラインはHPとテレビの2チャネルを用意し、SNSを最大限駆使してのインタビューや様々な企画でファンを楽しませてくれた。今回は日本からも人気ピアニストが複数出場したということもあり、界隈では大盛り上がりだったし、結果二人が入賞しそれが地上波ニュースで報じられ、その後もお祝いムード溢れているというのは本当に素晴らしい。ファイナルに出場したお二人の人気はさらに上昇したと思うし、優勝者のジョナサン・フルネル氏は日本でも相当注目の的になっているので、今後日本での公演も期待される。
まあぶっちゃけ、務川さんは海外にますます羽ばたいていただきたいし、それはそれとして国内でもさらに大ホールでの演奏、有名オケとの協演、定期的なシリーズ公演などの活動をもちょっとね期待したいところではある。もう国内の関係者の方しっかりオファーお願いしますよ!

ということで、長々とダラダラと続けてきたこの企画も、ようやく終わりとなりました。
ありがとうございました~!!











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