パガニーニ・ラプソディに揺れる仙台の夜<務川慧悟氏仙台フィルと初共演!>
2022年11月30日は、記憶に残る日となった。
待ちに待った務川慧悟氏のCD「ラヴェル作品集」の発売日。
そして同日。務川慧悟さん、初の仙台フィルハーモニーとの協演! 藝大同級生の太田弦さんとの協演! 初のパガニーニラプソディ!
いやあ前回8月以来の務川さんですよ。久しぶりのコンサート。
なんと華々しい日なのだろうか! 3ヶ月の秋眠を経て、またまた務川さんの生演奏を堪能できる日々が帰って来たという喜びーー。
ということで早速仙台へ飛んで行ってきました。そして既に1週間経とうとしたいる今、ようやく今更ながらコンサート・レポートを書きましたので、ご笑覧いただけると嬉しいです。
例のごとく我が推し務川慧悟さん中心の、完全なる個人的感想を連ねた記事となっていますので、ご容赦くださいね。
🎹名曲のちから オーケストラ・スタンダードVOL.28🎹
日立システムズホール仙台・コンサートホール19:00開演(18:00開場)
指揮:太田 弦
ピアノ:務川 慧悟
管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団
リスト:レ・プレリュード
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
エルガー:変奏曲「エニグマ」
🎹プレトーク
会場の日立システムズホールに到着した頃には、あたりはすっかり夜の帳。仙台駅から地下鉄で10分ほどとはいえ、割と来るまで大変だった、ようやく到着した〜と思っていた私に飛び込んできたのは、何と「プレトーク」があるという超嬉しい情報。慌てて会場に入る。
しばらくしてマイクを片手に太田弦マエストロご登場。燕尾服に白いマスク。表情は見えずともメガネの奥の柔和な眼差しと穏やかな声から、そのお人柄がうかがえる。
ご挨拶されてから、本日のプログラムについてのお話が始まった。
まず最初に触れたのはプログラムの3曲は、今回全て「変奏曲」であるということ。「変奏曲はとても聴きやすいと思います」どなたにも楽しんでいただけるように、と仰ったと思う。早くも不安な自分の記憶力ー!
レ・プレリュードは以前演奏したことがあるということだった。
話題は3曲目の「エニグマ」へ。作曲者のエルガーは、作曲を独学で習得した人であり、職業は町の音楽教師だったとか。
「実はエニグマは、僕が24歳の時に、東京藝大の修士修了試験で演奏した曲です。そこで合格をして僕は学生生活に終わりを告げた。そういう思い出のある曲です」とご自身との関わりにも触れられた。
続いて太田さんは、ラフマニノフのパガニーニ・ラプソディに話を進めるのだが、「じゃあ、ここでピアニストの務川さんにも入っていただきましょうか」。
ええええ! うわお! 沸き立つファン達(笑)。そして……
「こんにちは、務川慧悟です」
あ、ああ本当に、務川さんご登場〜。マエストロと同じく燕尾服姿に白いマスク。お、お久しぶりです、務川さん。髪の毛長いっすね〜。
実はお二人は東京藝大の同級生だったとか。務川さんはピアノ科、太田さんは指揮科であまり会ったことも直接話したこともなかったが「顔は知っていた」そう。とはいえ、さすが同級生。何となくフワフワした温和な空気が漂う。いやお二人のお人柄か。
ということでラフマニノフのお話。
務川さん「ラフマニノフは5つのピアノ協奏曲を書いていて、僕は今までに2番と3番をオーケストラと演奏したことがあります。今回のパガニーニ狂詩曲は、学校で友人のピアノのオケパートは弾いたことはありますが、オーケストラとの演奏は初めて」。
「この曲は20分ちょっとの短い作品ではありますが、その中に色んな要素が含まれています。リズムや、バロックに対する尊敬など。ラフマニノフがこの曲を作曲したのはアメリカに行ってからなので、とても現代的で都会的な面も見出せますね」
この音楽の捉え方は太田さんとも共通しているらしく、太田さんは「アメリカで建設中のビルを見た時の感覚などがそうですかね」と話していた。
ここで、2023年度から仙台フィルの指揮者に就任するほど仙台に所縁ある太田さんから「務川さんは、今回仙台フィルと初共演ですが、仙台の感想はいかがですか?」という質問が。
務川さん「二日前から仙台に来ていて最初の夜は牛タンを食べたんです。二日目の夜はどうしようかと考えたんですが、結局また牛タンを食べました。牛タンを堪能しまくりました」
穏やかに笑い合う同級生二人。暖かい雰囲気が良いなあ。牛タンでエネルギーチャージも済んだことだし、いよいよ演奏が楽しみになってきた。
1曲目、コンサートの幕開けにふさわしい華やかなレ・プレリュードが太田弦マエストロ指揮仙台フィルによって奏される。
素晴らしい演奏でしたが今記事では割愛させていただきます。すみません。
🎹ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
一曲目のレ・プレリュードの演奏が終わり、ピアノが運び込まれる。スタンウェイのフルコン。チューニングが終わり、緊張が高まる!
そして、拍手とともに務川さんの登場。
一礼して着席、椅子の調整、太田マエストロと目と目を交わす。太田さんが腕を上げる。
オケがラドシラミッファ!と投げかけ、務川氏がガーンとピアノで応える入り(のっけから申し訳ない表現)。音楽が始まった。ラフマニノフ作曲、パガニーニ・ラプソディ。(いきなり余談だが、この冒頭を聴くとどうしてもチャイコフスキーコンクールの時のアン氏がよぎってしまう。見事なリカバリー&演奏でしたね)。
しかしたった3ヶ月といえばそうなんだが、久しぶり……と思わず見入る私。目の前で務川さんが弾いている、その姿を見て音に浸るだけで、もう何も考えられない。まさに言葉を失い茫然自失状態。いやあ推しの力恐るべしである。こうして演奏する姿を目にしていると、相変わらず細身でいらっしゃるとか、髪が随分伸びて目にかかってらっしゃるのねとか、後ろ髪ハネてますねとか、そんなこと考えながら胸いっぱい。で気づいたらそろそろ第7変奏付近(笑)。そのあたりから次第に我に帰ってきた。
さて気を取り直して参りましょう。
第7変奏は、「怒りの日」がピアノによって初めて現れる重要な箇所。情感たっぷりに弾く務川さん。思いのこもった表情。
第8変奏からは盛り上がる場面。務川さんのピアノもあがっていく、というか引っ張ってる。しかし歯切れが良く、迷いがないピアノだわ。もう既に道を決めている。その決断が本当にグッとくるのだ。
第9変奏の3連続のようなリズミカルな流れから、第10変奏トゥッティで「怒りの日」へ。ああ、この箇所は本当に好きだ。この曲は個人的にも非常に好きなので普通に聴いていても盛り上がるのだが、それを弾いているのが務川慧悟だよ? これは何のご褒美なのだろうか。ああ、なんか夢が叶ったような気がする。
第11変奏で、美しいスケールの駆け上がりとアルペジオにうっとり。本当にキラキラ煌めいていた。ああ本当に久しぶり……(以下省略)。
第12変奏が、仰ってた都会的な雰囲気かなーと思ったのね。まさに哀愁であり、雨上がりの水溜りに車のライトが瞬いて映し出す夜の街。エスプリ。まさに務川慧悟でない? このセンスが問われる場面をサラリとそして色溢れる演奏するのが流石なのよ。
第13変奏は、オケが主題を演奏する中で、ピアノはタンターという和音で伴奏する(←笑)。私はピアノがオケという巨人に一人で伴奏するという姿にカタルシスを覚えるのだが、しかも推しのようにピアノに覆いかぶさって「自分の仕事をこなすだけです」みたいな姿勢は本当にグッとくる。いやでも考えてみれば、ピアノはなんせ1台でオーケストラに匹敵すると言われるくらいなのだから、いわばサッカーのブラジルチームが世界連合に相対するみたいな感じだと思うのだが(違)、務川さんは素敵でした。
そして主にピアノソロの第15変奏。長調の爽快なソロを奏でる務川さんの音に涙がにじむ。彼は前進し続けているのだ。オケが静かに寄り添い、夢の世界を駆け抜け、終わる。
第16変奏は一転してピアノはヴァイオリンソロなどの伴奏に回る。橋渡しのような第17変奏は今思うと、まさに混迷の霧の中のようでない? この中で次第に遠くに長調の光がチラチラ瞬いてくる感じが、ラフマすげー、現代風な感じだ。
そして第18変奏。務川さんは、一音一音にたっぷり時間をとって煌めかせて、そしてエモーショナルに次に繋げる。語るように、それでいてさりげなく音を積み重ねていく。翻る左手。後ろに下げる足。いつものように音楽に入り込んだ表情を浮かべながら紡ぎ出される途轍もない美しい世界に涙が溢れてきた。
大きな愛の世界の余韻も残る中、繰り広げられる第19変奏の目まぐるしい動き、鬼やで鬼。と思ったらさらに鬼構成の第20変奏。ここはめちゃ難しくないっすか? それを一心不乱にこなす推し、素敵です。
はい第21変奏。下行音型のピアノに付き従うオケ。あたかも苦難の道を行くよう。音型を保ちつつ次第に全体のテンションが上がっていき、分厚い雲の中を突っ切る。次から次へと現れる雲に遮られながら前へ前へ、するとスッと突然視界が開かれる。曲は長調に変わり、あたかも上空を自在に舞うようなアルペジオが滑空する。素人の意見だがこの感覚はラヴェルの<ラ・ヴァルス>の冒頭、雲を抜けた後に現れる長調の部分に似ているなあなんて勝手に思っている。
ここからの展開は本当に爽快。滑空しながら、次第に街へ降りていくと、街は生き生きと輝いている。建設中の建物、ビル群、行き交う人々。ニューヨークの街を行くような軽快で爽快な展開で、時にジャズっぽい。
そのまま曲は大団円へ。終盤では務川さんの超かっこいいグリッサンドも見られて、もう大満足。
大拍手、スタオベ。
いやあ本当に素晴らしかった。感傷的にならず、迷いのない明確な意思を持った演奏。「都会的」という視点をいただき、私としては新たなパガニーニ・ラプソディの切り口が見えてより一層楽しめたし、それよりも何よりも務川慧悟さんと太田弦さん、仙台フィルさんの初顔合わせで演奏されたラフマニノフの世界に圧倒された。その場に立ち会えたことがとても光栄だった。
アンコールはラヴェル:ソナチネ第2楽章。
最初のフレーズから、務川慧悟の世界が広がる。シンと聞き入る会場。音に浸り、務川さんがひたすら鍵盤に向かい演奏する姿をじっと見つめる。
ラフマニノフももちろん素敵だったが、この我が家感。
ああ、務川さんが帰ってきたんだなあ。
ピアニスト務川慧悟が再び日本に戻ってきて、こうしてラヴェルを演奏してくれている。
こんな日が再びやって来てファンも嬉しい。チケットを一生懸命取り、目の前で演奏する姿を見られる。音に包まれる。その幸せと嬉しさがじんわり心に沁み、ひたひたと広がっていく。
……いや、まあ冷静に考えれば3ヶ月ぶりなわけなんだが(笑)。
これで前半終了。
後半のエニグマはもちろん最高に素敵でした。太田マエストロの熱意溢れる指揮と個々の演奏が煌めく仙台フィルさんの演奏からは、音楽への愛が強く伝わってきました。いや簡略ですみません。
素晴らしい演奏会を、ありがとうございました!
さて務川さんはこれから日本と海外で大変な数の公演を抱えていらっしゃる。12月は5公演に1イベント、1月は12、2月は8、3月は4公演。日程も詰まっているし、場所も広範囲。寒い季節だし、お身体大切にしてくださいね。
ファンとしても、全てを見届けることはもちろんできないが、機会があればまた足を運び、務川さんが日々奮闘するお姿をこうして客席で拝見して音楽を堪能させていただければいいなと思う。その日々が始まったのですよ、皆さん。<務川祭り>開幕! 心の中で快哉を叫ぼう……いっええええい!
☆おまけ☆推し旅の仙台散歩
仙台ありがとう!!!
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