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北極星

旅人は 星をたよりに歩むという

空にはたったひとつだけ 動かぬ星があるという


雨や雲が夜空をおおい

風が心まで揺らすような夜に

その星の名前しか知らぬ僕は

何をたよりに  進めばいいのか


鳥籠のような部屋のなか

塔の上でもないくせに

やたらと遠くに世界を感じる


ここでの暮らしは

平和だし 穏やかだ

大空へと跳ぶことを

求めさえしなければ。


午後六時を知らせる

にごったチャイムの音

また今日が終わってゆく


長い手紙を書き終わったあと

まだ書き尽くせない想いがあるけれど

書いても書いても終わりがみつからないから

放り込むように封をする


出せない手紙をいくつも書いたよ

だけど  出さないことを選んだのは

まぎれもない この僕だ


空の上  雲の上

雨の上  嵐の上

動じないその星は

今も光っているんだろう


名前だけ繰り返し

探すことをしない僕をも

みつめてくれているんだろう


願いや祈りは

目には見えないけれど

大切な場所に  僕を運ぶ


空へは遠いな

君へも遠いな

この部屋からは


ただ嵐の音にだけ手が届く