(九十一)宋代の小唄「滿江紅」「念奴嬌」を作る

滿江紅は「豪放詞派」(豪快詞派)がよく作る詞である。この詞の特徴は、前半次第に盛り上がって行き、後半の対句の後から段々その勢いが弱まって行く。
この詞を好んで作っていたのが、中国第一の詞人、南宋歴城(現山東省済南市歴城区)の人、辛棄疾である。辛棄疾は金の占領下に育ち、成人して武装蜂起に参加し、南宋に帰順した。その後、建康通判、滁州知州などを歴任したので、揚子江下流一帯を見て回ったことがあり、その時のことを詞にしている。その中で、当方が気に入っているのを一首だけ挙げておこう。
*建康通判:行政監督、建康は現江蘇省南京市。
*滁州知州:知州は州の長、滁州は現安徽省滁州市。
滿江紅(過眼溪山)
過眼溪山,怪都似舊時曾識。
還記得夢中行遍,江南江北。
佳處徑須攜杖去,能消幾兩平生屐。
笑塵勞,三十九年非,長為客。
  
呉楚地,東南坼;英雄事,曹劉敵。
被西風吹盡,了無塵跡。
樓觀才成人已去,旌旗未卷頭先白。
嘆人間,哀樂轉相尋、今猶昔。
 
「過眼~江北」までがだんだん調子が上がっていく部分で、「佳處~曹劉敵」までが歌に勢いがある部分である。そして、「被西風吹盡」から語調が弱まって行く。
<大意>
舟に乗り、目を過る渓流と山岳の景色
何故か、見覚えのある風景
今尚憶えている
夢で揚子江の南北を行き来したのを
杖をついて小径を行き、歩いて下駄を履きつぶした。
世俗での苦労、これまでの人生の過ちを笑い
その後は、この地に居る
 
呉楚の地は東南に開け、英雄曹劉が相敵対す
西風が彼等の戦いの跡を吹き消して行く
樓に上り昔を思えど、既に人は無く、
旗幟を仕舞わう前に、私の頭は白くなりぬ
世の苦楽が循環してゆくのは、今も昔も同じだ
 
現代中国語訳を知りたい人は次を参照の事。
  辛棄疾《滿江紅·江行和楊濟翁韻》全文翻譯賞析 | 古詩詞翻譯網 (mmtw.cc)
 
 
辛棄疾の略歴をGooから紹介する。
[1140〜1207]中国、南宋の詞人。字 (あざな) は幼安、号は稼軒居士 (かけんこじ) 。歴城(山東省)の人。金の支配下で武装蜂起に参加のち、南宋に下り、一貫して対金強硬策を主張した。
 
彼は42歳の時に官職を罷免された。20年にわたり信州上饒県(現江西省上饒市)で隠棲生活を強いられたため、詞作に没頭した。
詞には、39年の人生の非を笑うとあるが、実際、軍人政治家としての自分の誤りを述懐したのである。今も昔も、人生が自分の思いのままにはならないことを嘆いている。
彼は軍人としては優秀であったが、政治家としては時代を読み間違えたと思う。南宋が揚子江以南に限定されたため、軍事に注力せず、経済・文化に力を注ぐ事で繁栄したのである。敢て、金と対峙する必要はないのである。
それでは、当方の歌を紹介しよう。
滿江紅(原野立春)
曠野寒春,神州路千里殘雪。
曙光裏,春圖出現,平原更白。
舊貌變成新姿態;朝日面對霜晨月。
看梅花,點點格外嬌,香比雪。
 
飛雲急,東風烈;驚大地,將春立。
便張眼遠望,東山特色。
雲上朝暉盡大地;雪底蟲草盼驚蟄。
以此時,還賦此新詞,賞春色。
<大意>
曠野の寒き春、神州の路は千里に亘る残雪。
曙光のなか、春の景色が現われ、平原は更に白い。
先の景色が今は新たな景色となり、朝日は月に対す。
梅の花を見れば、点々として艶めかしく、香りは雪のよう。
雲が走り、東風が激しく、大地を驚かせ、正に春が立たん。
遠くを見れば、東の山々が美しい。
雲の上の朝日は大地を尽くし、
雪の下の虫草は啓蟄を待ち望む。
今この歌を歌い、春を愛でるとしよう。
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「念奴嬌」も「豪放詞派」(豪快詞派)がよく作る詞である。北宋眉山(現四川省眉山市)の人、蘇軾作詞の「赤壁懐古」が最も有名であり、彼の代表作でもある。雄大で曲全体が力強い。それを次に示しておく。
念奴嬌(赤壁懐古)
大江東去,浪淘盡,千古風流人物。
故壘西邊,人道是,三國周郎赤壁。
亂石崩雲;驚濤裂岸,卷起千堆雪。
江山如畫,一時多少豪傑。
 
遙想公謹當年,小喬初嫁了,雄姿英發。
羽扇綸巾,談笑間,強虜灰飛煙滅。
故國神游,多情應笑我,早生華發。
人間如夢,一尊還酹江月。
日本語訳を知りたい人は次を参照の事。
https://kanshi.roudokus.com/nendokyou.html
中国語訳を知りたい人は次を参照の事。
https://so.gushiwen.cn/shiwenv_5fb51378286c.aspx
 
それでは、当方が作ったのを紹介しよう。
念奴嬌(北海風浪)
雪風飛舞,九天寒,千尺巨浪到極。
極目天邊,水一線,忽見飛來白鶴。
千重波頭,萬來又起,特為人而設。
水天奇絶,可驚天工之力。
 
又見長浪擎天,又聽風聲嘯,天掛曉月。
透露容顔,黒雲間,放著冷光清澈。
現我重臨,無限蒼海時,興趣何竭。
橫風惡浪,一呑海邊巌石。
<大意>
雪が飛び、風が舞い、九天は寒く、千尺の波が極に達す。
地平線を見やれば、白鶴が飛来するのが見える。
我が為に、千重の波が万度来たりて又起こる。
驚くべし天の巧の力。

又大波が天を打ち、風の唸りを聞く。
明け方の月が掛かり冷たい光を放ち、
黒い雲の間から顔をのぞかせる。
無限の海に臨んで、何飽きることがあろう。
暴風に高波、海辺の巨岩を一呑にせん。

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