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おばあちゃんへの手紙 外伝8

おじいちゃんありがとう


雪編1




「おっ、これは積もりそうだな」


縁側から外を眺めたおじいちゃんが、
白い息を吐きながらそう呟いた。


真っ暗な夜空から白いぼた雪が、
フワフワと音もなく舞い降りてきている。

地面に次々と着地しながら、
家の前の庭をうっすらと、
白く染め始めていた。


部屋の窓からもれた明かりで
照らされたところだけ、キラキラしている。

「明日の散歩は長靴を用意しておこう。」

「うん。」


僕は少しワクワクした。


雪が一晩中降り続いた水元公園は
いったいどんなだろう、と。


そしてできるだけ早起きしよう、
まだ誰も歩いていない雪景色を見てみたい、
そう思った。


次の朝、
目覚まし時計が鳴る5分前に
フッと目が覚めた。


特に周りで物音がしたからといったわけじゃない。

むしろその逆だ。

静かすぎたのだ。

部屋の中なのに、自分の息が白い。

布団も少し手足を伸ばすと、
冷めたいエリアに突入して体温を奪ってくる。


シーンとしていた。

でも音がないわけじゃない。

だけど、そのわずかな音も
すぐその冷気の中へ吸い込まれ、
消えてゆく感じなのだ。

音の余韻の部分がない、
とでもいうような、そんな感じだ。


僕は意を決して布団から起き上がった。

急いでパジャマの上にジャンバーをひっかける。

そして部屋の窓に駆け寄った。


すりガラスは水滴に濡れながら、
明らかにいつもとは違い、
真っ白な外の光をうつしていた。

そっと、窓を開けてみる。

思わず、
冷たい空気を吸い込んで
咳き込みそうになった。

「雪だ!」

僕は叫んでいた。

庭一面が真っ白だった。

道路も屋根も街路樹も
みんな真っ白な雪に覆われている。

2階の窓から見下ろす外の世界は
まさに、一面白銀の世界。

よく小説に出てきそうな表現を、
あえて使いたくなるような、そんな景色だった。



窓を開けていると部屋の中の室温が
どんどん下がっていくのがわかる。

でもすぐに窓を閉める気にはなれなかった。

この冷たさが

この静けさが

どんどん自分と雪景色とを
ひとつにしていくようだったから。



ボーッと白銀に光る世界に見惚れていると、

ふいにおじいちゃんの呼ぶ声がした。

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