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おばあちゃんへの手紙 最終章

最終日、ついに最後のお寺である。

八十八番札所、大窪寺を迎えた。


4年がかりとはいえ、
本当に88もの寺院を
小さな子供たちを連れて
家族で周りきれるなんて、
正直思ってもみなかった。


目標は結願としても、
やれるところまでやってタイムアップでも、
仕方ない。
それで良き思い出になるだろう。

そんな軽い気持ちで始めた。



それよりも大切なことは、

おばあちゃんの夢から始まったこの流れを
止めることなく、
大好きだったおばあちゃんへの供養
という恩返しを躊躇したくない
という思いから、

最初の一歩を踏み出した。

確かに夏休みという
限られた時間と予算を
子供たちの喜びそうな、
もっと別の娯楽的要素の強い
家族旅行などに費やすことも出来るのに、
と不安に思ったこともあった。


しかし今、
最後の札所を前にして、

凛々しくなった子供たちの成長を実感すると、
これでよかったと心から思える。


とにもかくにも大窪寺。

淡々と目の前の結願を果たそう。

グッと気持ちを引き締めて、仁王門をくぐった。


入ってすぐの手水舎で、
誰に言われるでもなく、
そつなく手と口を清める子供たち。

心なしか、一番小さい勇作まで
緊張感が漂い、凛として見える。



ふと、少し離れたところから、
般若心経の読経が聞こえてきた。


我々のような
一般の人の納経のものというのではなく、
何人もの物凄い迫力での読経。

焼山寺で出会った雪舟さんを思い出させた。

遠耳に聞いても明らかに
本物の僧侶のものであると、すぐにわかる。

地響きのように地を揺らし伝わってくる。
音波が、あたりを飲み込んでいくようだ。


子供たちもそれに気づいたようで、
音の方向を見つめている。


「行ってみよう」私が声をかけると、
みな当意即妙に頷いた。

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