なぜ重力波を研究しようと思ったのか。(立志編)
今回は個人的な回想に近いトピックになりますが、自分が重力波研究を志し、国際コラボレーションに関わるまでに至った経緯を振り返っていきます。
構成はまだ完璧には固めてませんが、「立志編・修行編・挫折編」の3部構成にしようかと考えています。
ただ書くだけでは専門分野が違う人にとって遠い話になってしまうので、全記事通して一般的に通ずるメッセージを伝えるつもりで書いています。
まだ何も成し遂げていない駆け出し研究者ですから、今振り返ってあーだこーだ結果論を述べるよりかは、過去の回想をただ書き綴る駄文になるかもしれません。
ご了承をお願いします。
あいにくキラキラな人生を送ってこなかったため挫折で締め括ることになりますが、泥臭くもがく雑草魂を感じ取ってもらえると幸いです。
さて本記事は、専門分野すら違う学部生であった当時の自分が宇宙物理に興味を持ち始め、研究者としての道を志すまでのお話。
特に、将来のビジョンが見えない学部生・大学院生の参考になれば幸いです。
ここでは
「その時々のやりたいことに従って動く」
と
「チャンスは自分で動いて掴む」
の二つをメッセージとして、まず強調したいと思います。
ビジョンがなく燻っていた学部3年時
遡ること約8年前、学部3年だった自分は工学部の物理工学科に所属していました。いわゆる応用物理を専門とした学科で、光/物性物理の実験および理論の研究室を軒を連ねている場所です。物理学が好きだった自分にとって講義の内容が魅力的だったのと、世界的に有名な先生方(量子コンピュータの古澤先生、物性物理の十倉先生など)が在籍している点でこの学科を選びました。
予想通りとても恵まれた環境だったのですが、当時の自分としては工学のための物理が何かピンとこず、モチベーションの上がらない日々を送っていました。「自分は何をして将来飯を食っていきたいのか?」という問いに悩みあぐねていた当時、ふと頭をよぎったのが「宇宙への好奇心」でした。
宇宙物理との出会いは、さらに遡ること中学2年の時、普段読書などほとんどしなかった自分がふと図書館で手に取ったのが「図解雑学 ビッグバン」という一般向けの解説本。そこにはインフレーションやビッグバンなどの初期宇宙に関する記述があり、それまで教科書で習ったことのない現象の数々に衝撃を受けた記憶が残っています。
その本との出会いをきっかけに「この広大な宇宙ってどのようにしてできたんだろう?」と漠然とした問いを考え込むようになり、それまで勉強と部活だけの二元的な生活だったのが、それを読んでいる昼休みの間だけは少し色づいていたように感じられました。
とはいうものの、自分も御多分に洩れず受験戦争に駆り出され目の前の勉強に忙殺された結果、大学3年時までその「宇宙への好奇心」を頭の片隅に追いやりいつの間にか忘却してしまっていたわけです。
さて時を学部3年に戻すと、宇宙物理をやりたいと決心したのはいいものの、物理工学科では当然のことながら宇宙物理に関する講義は一切なく、当時は一般相対性理論の入門本を独学で勉強するほかありませんでした。
そんな時に目に飛び込んできたのが、宇宙線研究所という東大附属の研究所が主催した「宇宙・素粒子スプリングスクール」。専攻分野問わずの募集だったため、「これしかない!」と意気込みその場で応募フォームを提出しました。
重力波は宇宙創生を知るためのカギ
これは、全国の学部3年生を対象に行われた宇宙物理専門の勉強会で、宇宙物理に関する各種テーマに基づいたチームで異なるプロジェクトを4泊5日泊まり込みで行い、最終日に口頭発表をする充実したプログラムでした。
どのテーマに興味があるかを応募の時点で決めないといけなかったのですが、宇宙物理に関する知識が皆無であった当時の自分はなんとなくで「重力波プロジェクト」を選びました。
その勉強会で学んで当時感銘を受けたのが
「重力波は原理的には宇宙の一番最初を知る唯一の手段」
ということ。現在観測できる初期宇宙からの電磁波信号の起源は、光子が散乱せず進めるようになった宇宙創生から約38万年後に限られます。一方で、重力波は物質の加速度的運動で生成され空間自体を伝播するため、光子が散乱する環境の中でも難なく通り抜けていきます。そのため地球に到達したその重力波信号を検出すれば、ほぼ宇宙創生直後の状態を知ることできるのです。
宇宙誕生を知りたかった僕としては
「まさしくやりたいことだ!」
と奮い立ちましたが、2014年当時重力波は理論上の産物にすぎず、初期宇宙はおろか他のいかなる天体現象からの信号も観測されていませんでした。(実はその翌年2015年に重力波が歴史上初観測されて話題になりましたが、これに関してはまた後日詳述します。)
それでも初検出に向けたプロジェクトが計画されていることにロマンを抱き、勉強会でのプロジェクトを無我夢中で進めました。プロジェクトの内容は、テーブルサイズの重力波観測器のプロトタイプを作成して、重力波検出の原理とデータ解析について学ぶもので、短期間で効率よく概要を習得できたと思います。(ヘッダー画像は実際に組み立てた光学系)
突然訪れた転機
勉強会自体は有意義だったものの、あとに続く学部4年の一年間をどう過ごすかビジョンが全くなかった自分は、思い切って休学することを選んでいました。
その理由は
「将来英語を使った職につきたいから、今のうちに語学留学しておきたい」と
「社会に出る前に海外を旅行し尽くしたい」
という漠然としたもの。
この計画性のなさは今思えば反省点なのですが、
「海外行くのでどうせなら向こうで重力波研究している人と繋がりたいです!」
と思い切って勉強会後に宇宙線研究所の教授に連絡したところ
「偶然明日ワークショップがありアメリカのグループ(LIGO)から教授たちが来るから、一緒にランチでも食べますか?」
と言われたので二つ返事で翌日柏の当研究所を訪ねました。この時のフットワークの軽さが後の人生を大きく変えた、と今となっては思います。
ワークショップ後にその教授と、LIGOを主導する機関の一つカリフォルニア工科大学(Caltech)の教授を含めたグループでご飯を食べながら、少し前の勉強会で習ったことを話し興味がある旨を伝えたところ
「来年の夏にCaltech主催のサマープログラムがあるけど、やってみるか?」
といきなり聞かれました。日本の大学に在籍している限り普通は無謀なスケジュールなのですが、ちょうど休学予定でノープランだった自分は「ぜひ!」と快諾。したところまでは良かったのですが、よくよく聞いてみると応募締め切りは数ヶ月前に終わっていたらしく、それでも
「締め切りは俺次第だから気にするな」
とCaltechの教授に言われ、『アメリカらしさ』を強く感じた瞬間でした。
と、こういうわけで燻っていた学部時代の自分は、全く英語が喋れないままひょんなことからアメリカのサマープログラムに参加することになりました。ここから人生が少しずつ動き始め、将来のビジョンがはっきりとしていった記憶があります。
次回は、アメリカの辺鄙な田舎で3ヶ月研究をして過ごした生活と復学した後の学部4年次について「修行編」と称して書きたいと思います。
では。
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