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君が上書きされていく。

 この前まで付き合ってた恋人に恋人ができたらしい。

なんともやるせ無い、そんな簡単に次の人に行けてしまうのか、無情だ。と感嘆しても事実なのでどうしようもない。

 今思えば、振られる前の一ヶ月くらいはなんだか君がよそよそしい感じがしていた。
携帯の画面を見えないようにいじるし、手を繋いでもあまり握り返してこないし、セックスも断られるし、言葉数も少なかった気がする。

だから『話があるから電話してもいい?』と言われた時、
皮肉にも察しがついたのはそういうことだろう。
電話で別れを告げられた時、悲しいとかそういう感情よりしょうがないのかもしれない。という気持ちになっていた。

大人になってすれ違う生活、二年も付き合えば付き合いたてのようなドキドキも薄れていく。

君は付き合った時から『私は将来丸の内OLになる』などと僕にはよく分からない夢を換気扇の下で煙草を燻らせながら意気揚々と話していた。

あぁ、その将来の隣にいるのは僕じゃなさそうだな。

とその時、不覚にも思ってしまった。

 振られてから段々と悲しみに覆われていく。
なんであの時電話で別れたくないと言わなかったのか過去の自分を責める。
でも、その瞬間もう君は冷めていたから必然とたどり着くその答えに納得していた自分がいたのだろう。


僕と別れてすぐ君には他の恋人ができた。
それを知って尚更納得してしまったし、より一層悲しくなった。

恋人ができたのを知ってから一度、無理なことを分かっていてやり直せないか、という電話をかけた。

『もう好きな人がいるし付き合ってるから無理だよ、ごめんね。』
とだけ言い君は電話を切った。
わかっていても辛いものは辛かった。

 つい数ヶ月前まで恋人だった人が全然知らない奴と手を繋いで笑い合って一緒に寝てセックスをしているって思うとなんだかムカついた。
けどそれ以上にそうさせてしまった自分が情けなかった。
もしあの時こうしていたら、もっと君のそばにいることができれば、そうしていれば冷めることなく隣にいるのは僕で、今頃二人で笑い合えていたんじゃないかって。

今夜も自分で自分を慰める。
情けない気持ちだけが残る。


 もう僕の気持ちも言葉も声も届かない。
僕の知らないところで僕の知らない誰かに上書きされていく。
ドキドキが薄れていった日常に、言い出せなかった不安や不満が募っていったんだろう。
繋いでいた糸がほつれていくことに気付けなかった。
気付いた時にはもうすでに切れてしまっていた
その切れた糸は違う糸と結ばれてしまったらしい。

二人で過ごした時間も場所も、全て上書きされてしまうんだろうけど。
僕らが二人だったことを、忘れないでほしい。
本当に愛してたことを、忘れないで欲しい。

なんてワガママかもしれないけど。

君が冷めても/Lym

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