Fairy tale.
蛹の中身をみんな見た事はあるだろうか?
どんなに美しい蝶も一度蛹になる。
蛹の中はドロドロの液状になっていて
決して美しいとはいえるものではない。
けれどそこから少しずつ形を成し、羽化する。
・・・夢見た少女・・・
子供の頃から私はお姫様とか、
空を飛べる魔法をかけてくれる妖精とか
そう言ったメルヘンな童話とか
御伽噺が大好きだった。
純真無垢なあの頃の私は、
そんな素敵なお話の中みたいに
最後は運命の人が現れて
私の心を奪ってそのまま幸せな人生を
歩めるんだろうと思っていた。
・・・現実の・・・
普通に進学して大人になった。
その過程で彼に出会い心を奪われた。
いい加減大人になったので、
私は勉強して大学に入り
良い企業に就職しようと粉骨していた。
そんなドラマチックでもロマンチックでも無い
安定した暮らしをするには
堅実に頑張るのが何よりだ。
今付き合ってる彼は、
そんな無難に生きている私に
トキメキとか楽しさを教えてくれた。
顔がカッコよくて、おちゃらけてはいるけど
根は真面目だしよく笑わせてくれる。
告白された時は嬉しくて、幸せで、
一生この人といられたら、なんて
子供の時のメルヘンが若干顔を見せた。
この人と結ばれて、幸せな家庭を。
そんな夢を私は見ていた。
そういえば、昔憧れていた御伽噺とかの
ハッピーエンドのその先は何があったんだろう?
きっと幸せにみんな暮らしているのかな?
ふと疑問に思ったが、
私はハッピーエンドに向かう人生を
歩んでいるんだから自分で
その先が見れるじゃないか。
・・・理想の為に・・・
大好きな彼と付き合って一年が経った
気付けばお互い職につき忙しいながらも
順調に関係性は続いていた。
大抵のデートスポットは行ったし、
お互いの存在に慣れて、
喧嘩とかもするようにはなった。
不満とかだってこれだけ一緒にいれば
一つや二つ出てくるのも当たり前
彼もきっと我慢してくれてたりする事もあるのだから私だって我慢しないといけないところだってある。
来月からは同棲も始まる
今はそれを楽しみに仕事も頑張れる。
たまに喧嘩の時にあっちは言いすぎてしまう事があるけどすぐ頭に血が昇っちゃうタイプだから
それはしょうがない。
一度それで別れる別れないまでの騒ぎになったけれど
その時も二人で謝りあって乗り越えられたから
二人の生活が始まっても平気だろう
彼は優しいし、私も優しいのだ。
一緒にキッチンでご飯とか作れる事とか
本当に楽しみだ。
・・・束の間の幸せ、過ぎる不満・・・
同棲生活、
いざ始まってみたら楽しくて仕方がない。
愛してる人が隣にいること、
それがどれだけ幸せなことか噛み締める日々。
ある程度の生活の違いはあれど、
そこは少しずつ二人で乗り越えて行けば良いじゃないか!
私が昔から憧れていた御伽噺だって困難をなんとか乗り越えてハッピーエンドに辿り着いていたじゃないか!
『幸せな結末を、私は今でも夢見ている。』
例え彼が、
家を出る時、布団がぐちゃぐちゃなままでも
座ってトイレをする癖がなくても
掃除機をかけてくれなくても
小さいことかもしれないけど
そんな小さいことも二人で乗り越えて行ければ
きっと最後には二人で笑い合っていられる。
きっと、
・・・秋の空・・・
夢見ていた生活、数ヶ月。
彼の癖は簡単には直らなかった。
まあ十何年も培ったものなのだからそう簡単には変われるわけもないか、と嘆きつつも
私は言いえない感情に包まれていた。
ついこの前まで舞い上がっていた自分が
少し恥ずかしくなってきた。
「きっと私が憧れた御伽噺の王子様なら」
と存在もしない理想と現実を比較してしまっている。
いまだに稚拙なことを考えている自分が馬鹿らしくて嫌にもなる。
現実を見て堅実に頑張ってきた私は、
ここにきて自分の理想と現実を反芻する。
少しずつ、少しずつズレていく感覚
少しずつ、少しずつすれ違う感触
何をするにしても「そうじゃない」と
彼に対して思うようになってきてしまっている。
ふと、付き合った当初の疑問が脳裏をチラついた。
あの結末の後、
彼女らは本当に幸せに暮らせたのだろうか?
・・・ハッピーエンド・・・
拭えぬ不満と共に数ヶ月が経った。
その間、彼との関係は側から見れば順調だった。
彼はきっとなんとも思ってないのだろうけど、
私の中では少しずつ、本当に少しずつ不満が大きくなっていた。
何度注意しても、変わらない彼の癖。
徐々に下がる彼の中の私の優先順位。
度重なるくだらない些細な喧嘩。
もう、耐えきれなかった。
私が焦がれたお話はこんなはずじゃなかった。
もうやめよう、もうやめよう。
ズルズルとここまで引きずってきた灰色のモヤは肥大化してズッシリと重くなって私に纏わりついていた。
・・・Fin・・・
彼に花束を渡された。
私の好きな花がその中に混ざっていた。
嬉しい、筈なのに。
今までの私なら些細なことなど投げ打って
子供のように喜んでいた。
でも、もう、今更過ぎた。
突き放してしまった。
もう戻れない、でもそれで良い。
現実を乗り越えられなかった私。
不満に気付けなかった彼。
どっちが悪いとか、
そういう話ではないのかもしれない。
別れは突然では無く、必然だった。
・・・蛹のままの瑠璃色・・・
ただ、私は子供の時に憧れた御伽噺のように
誰もにめでたしと思われるような、
そんな人生を歩みたかったのだ。
真っ白だった私の心は
様々な色が溶けて、混ざって、
今では何色なのかもわからなくなってしまった。
私は空を美しく飛ぶことに焦がれた
蛹のままの蝶。
ハッピーエンドは、
二人には訪れなかったみたいだ。
私の恋は、何色だったんだろうか。
Pupa/Lym
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