わたしをミニマイズする次の10年
八ヶ岳のふもとの、古民家を改装したキッチン付きのコテージの庭で
ひんやり湿った朝
コーヒーを片手に本を読んでいました
本は、星野道夫さんの「長い旅の途上」です
宿のキッチンの横の壁に
造作の本棚があり、その前には薪ストーブと
薪ストーブの世話をするための道具が置いてあります
人の本棚を見るのは大好きです
その人が何を大事にしているのか
何を愛しているのかよくわかります
その本棚には
パタゴニア 竜馬がゆく 岳(マンガ)
ハーブの事典 レイチェルカーソン ひすいこたろう
そして 星野道夫の写真集とエッセイが
置いてありました
何気なく手に取って
コーヒーと一緒に庭へ持って行った
「長い旅の途上」が
40歳を迎えた私の朝と交差して
その奇跡と必然に
嬉しくなりました
*
この3か月前に
私は同じ土地を一人で訪ねていました
友人のワークショップに参加するためでしたが
原村のB&Bに宿をとって
前泊の計画で茅野駅に降り立ちました
駅で出迎えてくれたその友人が
「連れて行きたいところがある」と
オフシーズンの、夕方の、
観光客のほとんどいない霧ケ峰高原へ
連れて行ってくれたのです
車を停めて降りたのは
北アルプスから富士山、南アルプスを一望できる
広大な草原でした
その頃の私は
人間関係も、自分のビジネスも
どうにもこうにもうまくいかない
これ以上どうしたらいいのかと
途方に暮れて陰が極まった
うつうつとした時期にいました
駐車場から草原の真ん中へ続く道を歩きながら
涙が次から次へと出てきます
頭の中には「ごめんなさい」が
あふれていました
何に対する「ごめんなさい」なのかわかりません
でも、大自然を前にしたときに
私はとにかく情けなく
すべてを見透かされた気持ちになり
だけど同時に
山々が私を許していることにも気が付き
その深い愛に涙が止まりませんでした
山はすべてを知っていました
そして私はその山の一部であるということも
肌で感じることができました
私はその高原で
自分の境目がなくなるのを感じました
こうして、時々
ちゃんと自然へ出かけて行って
大自然にすべてを見透かされていること
大自然に叶わないと降参すること
自分が大自然の一部であるということを思い出すことを
体験しなければならないと
強く感じました
*
3か月後、家族でその高原に戻ってきました
5月はまだ茶色く低かった草が
8月の終わり、青々とした色に変わり
腰のあたりまで伸びていました
9歳と10歳の息子たちが
喜んで先を歩き
草原の真ん中へと向かいます
子どもには未来も過去もありません
彼らは常に、「今ここ」を生きています
だから、自然とすぐに調和します
私の手を引く9歳の息子が
大きな岩を見つけ、
「ちょっとまって」と
その岩に両手をつけてじっとしています
なにをしたの聞くと、岩と挨拶をしたそうです
この子たちは、いつから「今ここ」じゃなくなるんだろう
そんなことを考えながら
私もできる限り
今目の前にある山と、雲と、風に
自分の意識を溶かすように
動物としての自分を思い出しながら
その時間を過ごしました
*
5月の霧ケ峰高原の訪問の後、
うつうつとしていた私の人生が
変わり始めました
多くの新しい出会いがあり
自分の力では
到底たどり着けない場所
到底なしえないことへの
扉が開いたように感じました
*
「ビジネス」をしていて
ときどき違和感を覚えます
数字の目標を掲げることや
5年後の未来を計画することは
ものすごくナンセンスなんじゃないかと
感じるのです
(そんなことを言っているから
うまくいかないんじゃないのと
言われそうですが)
だって、人生とは
そのものが不確実で
不確実なものごとの集まりなんです
自分の人生を
思う通りに計画しようなんて
それはなんだか
私にとってはものすごく
おこがましいというか
ナンセンスなんです
自然というか、宇宙と言うべきか、なんでもいいのですが
「サムシング・グレイト(何か偉大なもの)」の存在があって
私たちはその一部であること
その流れの中を私たちは生きていることを
強く感じるのです
ただし、
「夢をもつこと」は別だと考えています
「夢をもつこと」と、「計画すること」は
似て非なるものです
夢を持つこと、夢を描くことは
実は未来のことではありません
夢を描くときは「いまこの瞬間」を生きています
夢がかなったその世界を
「今」生きて、「ここに」感じているから
どんな人にとっても、自由に夢を描くことは
人生を豊かにする秘訣である
そのことに異論はありません
ただ、人生を「計画する」なんてことは
おこがましいと感じてしまいます
サムシング・グレイトを認めて、
自分が自然の一部であることを感じ、
大自然に降参し、
そして身をゆだねることを知ったとき
せき止められた川が
一気に流れ出すように
人生がスムーズに動き始めたように感じます
そこには「良い」出来事も「悪い」出来事も
ないんだということもわかります
自然の中に「良い」「悪い」はありません
ただ、すべて、そこにあるだけです
それを知って自分の人生を見つめるとき
私という存在が大きなものに抱かれて
どんどん小さくなっていくのが分かります
私の【意図】や【思考】がどんどんミニマイズされていったとき
「自然」としての私が
喜びとともに顔を出し
楽しく踊り始めるのだと
わかったのです
*
星野道夫さんは
アラスカに住み、過酷な自然環境の中
野生動物や自然、人々を写真に収めた写真家であり探検家です
最期はロシアのカムチャツカで
クマに襲われて亡くなりました
大自然の中では
すべてが不確実なので
「大切なことは、出発することだ」
こんな、魂を揺さぶる言葉が生まれてくるんだろうと思います
40歳の誕生日の朝
旅先で
星野さんの本を読みながら
私の人生なんて
多数ある生き方の選択肢の
たった一つにすぎないものなんだと
そう考えると
ラクになれると同時に
その、宇宙から見れば取るに足らない
小さな選択が
愛しくて宝物に思えた
そんな奇跡みたいな
必然の朝を過ごしたこと
ここに記録します
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