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日帰りバス旅行に当選した話

 今年初めの旅行は、駅ビルの年末抽選券に応募して当選したバス旅行。応募したことすら忘れていたが、「当選」という文字ほど魅惑的なものはない。ひと昔前は両親とよく利用していたバス旅行だが、 最近はとんとご無沙汰。いちご狩りがメインでランチ付き、神社参拝もあって何より無料という参加券に少し心が弾んだ。日程選択に少々悩んだが、当日徴収の土・日追加料金 500 円を握りしめて集合場所の千葉駅へ。隣席はどんな人かなと少し緊張して乗り込むと、 全部で 40 人程の 7 割が夫婦同伴者、残りは一人参加の女性。年齢層はほぼ 50 歳以上と推測し少し安心する。 湾岸道路を走り始めるとすぐに富士山が綺麗に見えた。「当選」者は 快晴にも恵まれるのか。
 1時間程で最初に連れて行かれた場所は、怪しげな磁気ネックレスの会社。綺麗に等間隔に並んだ椅子に座らされ、 前方に黒のタートルに輝くネックレスをつけた女性が登場する。 クイズがあって、ガラス板と磁気の板に氷を置くと、磁気の方は瞬時に溶けるという余興まであるリアルテレビショッピングだが、誰も声を発せず静まりかえっている。余興が終わると 2 階へ連れて行かれマンツーマンで女性が付き、ネックレス、指輪、ブローチなどの紹介を受ける。褒めまくられ攻撃も受けるが、いくら若返っても健康に良くてもこんなやり方で購入する人がいるとは思えない。出口に向かっても出る事もできず、なんともいえない 90 分を過ごす。 それでも「当選」者達は愚痴も言わず寛大な心でバスの迎えが来るのをじっと待った。コーヒーでも飲めればもう少し穏やかに過ごせたのだが。
 ようやく解放されて東名高速をさらに2 時間走り、昼食会場へ到着する。 広い会場にしらすご飯と小さい鯛の切り身が乗ったうどん、小ぶりの鰯佃煮の乗ったお膳が用いされている。薄味でヘルシーな昼食は次のいちご狩りのためなのか。「当選」者達は伊豆堪能御膳を静かに食した。帰りに隣の団体客のトレイを見るとカニの足が数本乗って いたのには驚いた。
 いちご狩りのビニールハウスまで 5 分程バスに乗り注意事項などの説明を受ける。ビニールハウスの中は暖かくて少し蒸し暑い位。 雪見だいふくの入れ物のようなプラスチック容器を渡され、片方に練乳を入れてもらい、摘んで練乳をつけて食べ、へたを片方に入れてまた摘んで食べてを繰り返す。休みなくひたすら 30 分間食べ続けてお腹いっぱいになったが、総量は2パック程度と思われた。フルーツ狩りの中で一番コスパが悪いのはいちごなのだそう。そんな事も気にすることない「当選」者達はみな満足そうだった。


 満腹で眠気が襲う中、バスは三嶋大社へ向かう。豆まきイベント の名残もある境内を散策して本殿を参拝する。縁起良さそうな福太郎餅を購入。一口大に綺麗に並べられたよもぎ餅の上にこしあんが 乗っていて、赤福に似ているが赤福より美味しい。紅白の梅も美しく咲き誇っていた。
 最後は伊豆わさびミュージアムへ。わさび関連商品を全て試食し て、練りわさび、わさび漬けを購入する。隣は道の駅になっていて、 さらに隣はめんたいパーク。辛さ繋がりで明太マヨネーズも購入す る。伊豆で遊び疲れた老若男女がお土産を購入する場所なのだろう、 どこもそこそこにぎわっていた。

 ツアーの行程を全て終えたバスは渋滞の東名高速をゆるりと走る。 それでも予定より早めに帰着して運転手さんには感謝しかない。 隣席の「当選」者とは磁気ネックレス工場から仲良 くなり、いちごも福太郎餅もわさびもめんたいこも同行して購入。  近所の食事情を楽しく語り合いながら過ごした。斜め前のご夫婦は、1歳くらいの孫の写真をスマホで何回も見ていた。もう少し時間があったら同年代の似た境遇のご近所さんとさらに仲良くなれた のかもしれない。目的地へ確実に連れて行ってくれて、予約の必要もなく足が疲れたりトイレに困ることもないバス旅行は、たまにはいいのかもしれない。ドキドキ感と戦う個人旅行を恋しく思い出しながらも、次の駅ビル抽選券の応募は、皆に積極的に薦めてみようと思うのでした。

 

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